第6話 絆の景色
女性の勘違いを解き、食事を終えた後、出かける準備をする。
「よし、では行こうか」
「はい」
「あ、服は着替えなくても良いのか?」
卑弥呼は昨日谷崎が着ていた服を指す。
「今日は村を回るんでこの格好がいいと思って」
「そうじゃな…よし、行こう!」
谷崎は卑弥呼に付いて行く形で外に出た。
「まずはわらはの家を外から見てみるのじゃ!」
卑弥呼の家は他のたて穴式住居より少し大きい。そう、少しだけ大きい。
「僕は卑弥呼さんの家はもっと大きいものだと思っていました」
「そんなに大きいと退屈するじゃろ」
「そう言えば、未来の時代では卑弥呼さんは1000人の召使いがいるって言われてるんですけど本当ですか?」
すると卑弥呼は笑って、
「あはは!そんなに居らぬわ!2、3人くらいじゃぞ!」
「…本当に邪馬台国の女王なんですか?…」
「…わらはも自分が邪馬台国の女王か疑ってきたわ…」
そんなことがありながらも卑弥呼は村の事を紹介していく。
「ここが村の人達が住んでいる家じゃ」
それは立派な家だった。どうやったらこんな立派な家が作れたのだろうかと思えるほどに。
すると、中から見覚えがある男性が出てきた。
「おお、卑弥呼様、おはようございます。ああ、あなたは昨日の人ですね。おはようございます」
「おはようございます」
「今はどのような件で朝からお越しで?」
男性は卑弥呼に聞く。
「今日はこやつは昨日来たばかりじゃからこの村の事を教えているんじゃ」
「そうなんですか。お気をつけてお願いします」
「わかっておる」
卑弥呼はまた歩き始める。
「…卑弥呼さんはいつもこんな感じで外に出ているんですか?」
「?…そうじゃな…食事の後とか気持ちの良い天気じゃったら散歩に出かけているかの…で何故聞くのじゃ?」
「未来では女王になったあと、ずっと家に引きこもっていたと言われているんです」
「ずっと家に居たら体調を崩すわ!」
卑弥呼は肩を落とす。
「…召使いの件と引きこもりの件…未来では間違いも伝えているんじゃな…まぁ、1800年も経っているし、しょうがないか」
その後、色んな事を見て回り時刻は10時を回っていた。
「これで一通り見せたな…でもな見せたいものがまだあるんじゃ」
卑弥呼は村の門に行く。
「…外に出るんですか?」
「そうじゃ」
卑弥呼は門をくぐろうとした時、
「卑弥呼様、村の外に出るのですか?」
男性が近づき卑弥呼に尋ねる。
「なるべくお早めにお戻りください。そして道に迷わないようにお願いします」
「大丈夫じゃ。少し占いに使う植物を取りに行くだけじゃ。こやつもおるし」
卑弥呼は谷崎を連れて村の外に出て近くの山を登り始めた。
「…迷わないですか?」
「大丈夫じゃ!ここの山はな、木の実や動物が多いからみんな登る、だから道があるんじゃ、この道を辿れば迷うことはない!」
そして、登ること数十分、卑弥呼と谷崎は道に迷った。
「すまんのう…」
卑弥呼は夜中と同じで涙目になった。
「だ、大丈夫ですよ!一旦休憩しましょう」
谷崎と卑弥呼は近くにあった倒れた木に座り、休んでいると卑弥呼が口を動かした。
「…わらははな、駄目駄目なんじゃ。雷が苦手でこの様に道に迷ってしまう。それに苦手なものが沢山あるんじゃ」
卑弥呼は手を強く握り、唇を噛んでいた。
「…邪馬台国の女王になれたのも男が治めると戦乱続きで、女が治めると良いと言われたからなんじゃ」
ポタン
卑弥呼の目から涙が一滴落ちた。
「…僕が卑弥呼さんの髪飾りを見つけたのは実は卑弥呼さんが好きだったからなんです」
「え!?す、好き!?」
「いや、好きっていうのはそういう意味じゃなくて!」
卑弥呼を一旦落ち着かせて話し出す。
「……僕は小さい頃に父親から弥生時代の事が書かれている本を読まされたんです」
「…確か、弥生時代はわらはが居た時代の頃じゃったな」
「はい、その頃の僕は難しい文字が読めず絵を見ていたんですがその弥生時代の風景に感動したんです」
「……」
「こんな所に行ってみたいな…って思いました。そして色んなところを見ていると女性の絵を見つけたんです」
「それって……」
「はい、卑弥呼さんです。父親に聞いてみたら邪馬台国の女王と言われました。他にも色んな事を教えてもらえました。そして僕は弥生時代の事、邪馬台国の事、そして卑弥呼の事に興味が湧いたんです。どんな人なんだろうと」
卑弥呼は谷崎の話を耳を澄まして聞く。
「僕は弥生時代の事をもっと知るために考古学を勉強して、卑弥呼さんが居たとされる村の遺跡を発掘調査をしていたんです。そしたら石の箱を見つけ、開けてみると髪飾りがあって、そして卑弥呼さんに会えました。」
「……卑弥呼がこんな人で失望したじゃろ」
それは小さく震えた声だった。
「……いえ、もっと好きになりました」
「好き!?」
「だから、そういう意味じゃなくて!…でも僕は卑弥呼さんは村のために頑張る、努力家だと思います」
数秒たち卑弥呼は谷崎を見て笑って言った。
「晴人はわらはの事を惚れさせたいのか?」
「いや、僕はそういうつもりは…」
谷崎の困惑している顔を見てまた笑う。
「冗談じゃ、有難うな晴人!」
谷崎は周りを見てみると山の断面から水が湧き出ていた。
「卑弥呼さん!これは…」
「おお、湧き水か!喉も乾いているし、飲もうか」
卑弥呼は手をお椀にし、湧き出た水を飲む
「んん!冷たい!晴人も飲んでみろ!」
谷崎も飲んでみると、冷たく、口の中が潤い爽快感があった。
「よし!行こうかの!あるものを晴人にもっと見せたくなったわ!」
こうして谷崎と卑弥呼は再び歩き出し、数十分が経った、
「えーと、ん?見たことがあるような…!!ここじゃ!晴人!着いたぞ、これを見せたかったんじゃ!」
卑弥呼は跳ね上がり指を差す。谷崎は卑弥呼が指差したところを見る。
それは夕焼けに染まった、とても美しい村だった。
「きれいだな……」
「わらははな、落ち込んだ時にここに来るのじゃ、美しい村を見て、この村を守りたいと、そう思ってまた頑張れるのじゃ」
谷崎は美しい景色に感動し、スマホを取り出し、カメラを起動した。
カシャ
「!?びっくりしたわ…何をしているのじゃ?」
「写真を撮っているんです」
谷崎は卑弥呼に撮った写真を見せる。
「どれどれ…うお!何じゃこの綺麗な絵は!まさかこの一瞬で…未来は凄いな…」
すると卑弥呼が思いついた様子で
「もしかしたら、これは、わらはや晴人も写せるのか?」
「もちろんできますよ」
「じゃあ一緒に写ろう!」
谷崎は自撮りモードにする。
「はいチーズって言うのでその時に笑ってください」
「?…はい…チーズ?どういう意味じゃ?」
「んー自分もよくわからないですけど未来だとこう言うと笑顔になったり、こんな感じでピースをするんです」
谷崎はピースをして見せた。
「うむ、時には未来の人達は不思議の事をするのじゃな」
谷崎はポジションを決め、写真を撮る
パシャ
それは、美しい村と笑顔が映える写真だった。
「…さて、どう帰るかな…」
東の空はもう暗くなっていた。
「卑弥呼様ー!」
「ん?」
松明を持った村の男たちがやって来た。
「おお!お主らか!助かったぞ!」
「探しましたぞ、卑弥呼様」
「道に迷ってしまって…すまない!」
男たちは「やれやれ」と言い、来た道を戻る。
「さて、帰りますぞ」
そして、谷崎と卑弥呼は村に戻った。
この日は谷崎と卑弥呼の関係が少し変わった日になった。
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