第30話 オシオ

ついに、一番推しの馬が出て行くことに…だから彼をオシオと呼ぶ。

寂しい。でも出て行かなきゃ行かないで不安になる今日この頃。一年前に第一陣でここに来た。その時から一目惚れ。今年もすでにそっくりな弟が入ってきている。この馬のどこがいいのか、説明できない。顔の形なのか目の大きさなのか、すべてのバランスなのか…

彼は、牡と牝の馬房の境目の馬房にいた。なので牡が入ったり、牝が入ったりと流動的な馬房で、牡と牝の数のバランスで、追い出される。周りの牡は隣の厩舎に移動し牝が入って来た。とうとう、彼も移動になったが、同じ厩舎の中で移動になったので安心した。というのには、訳があった。この厩舎は、洗い場もウォーキングマシーンも近いのだ。それが理由。きっと馬房からそこに行くまでに、何かしでかすのだろう。

彼は冬の間、よく馬服と葛藤していた。人に見せるように、裾を噛んで脱がせろアピールをする。

水やりの時、首に巻いてるタオルを噛んでくる。左右に身体を振られる。でもその間に顔を撫で撫でする。バケツの水がいっぱいになるまでの短い時間だが、毎日やっている。彼はしつこくないので、それ以上は絡んでこない。

たまに、馬房の中から顔を出している時は、顔を撫で撫でし、鼻先にチューをする。彼は噛みついてこない。撫で撫でしてる手を払い除けて噛んでくる馬は多いが、彼は何もしない。ポイントアップだ。小さい箒で顔を撫でてもおとなしい。またまたポイントアップ。

ついに、新しい引き手が用意され翌日退厩となった。後悔のないよう、撫で撫でとチューをたらふくしてお別れした。そして次の日、奴はまだいた。どっちかの連絡ミスで日にちがズレたのだ。それから2.3日してついにお別れがきた。出て行く前、脚を洗い、手入れされるために洗い場に行った。姿は見てないが、暴れている音だけがした。ちょっと笑える。きっとお前が出て行って、ほっとしてる人がいるばずだ。

元気でね。頑張れ!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る