第23話 ランドルフの誕生日

十月一日、今日はランドルフの誕生日である。


残念ながら学校がある平日なので、昼休みにプレゼントを渡そうと思って三年の教室にやってきたのだが……。


ランドルフの前に、ズラリとプレゼントを持った女子生徒が並んでいた。しかも、学年関係なくだ。

クリフォードの誕生日の時もお茶会が開かれて、お祝いをする人間が列をなすのだが、女子の人数だけをカウントしたら、クリフォードに匹敵するくらいの人数かもしれない。

教室の外にも列が並んでいて、辿っていくとランドルフの教室に辿り着き、ランドルフの机にはのりきらないプレゼントが山になっていた。


「ランドルフ君へのプレゼントならば、ちゃんと列に並んでくださる」

「あなた……どなたでしたかしら」


教室を覗いたリリベラの前に立ちはだかったのは、ランドルフと魔法祭で同じチームだった三年の……。


「カターシャ・ダンベルですわ!」

「ああ……」


他の女子も引き連れて、リリベラを通せんぼする形で教室に入れなくする。


「一年が勝手に三年の教室に入るものじゃないわ」

「そうよ!それに、あなた男癖が悪いって有名じゃない。色んな男性に色目を使って恥ずかしくないの?!」

「一年男子数人と恋人関係なんでしょ。いくら公爵令嬢だからって、好き放題してクリフォード様やランドルフ君に迷惑をかけないでちょうだい」


リリベラは黙って聞かながら、いつの間にか広まった「リリベラ淫乱女説」にうんざりする。


以前から、少し男子と話しただけで色目を使ったとか、クリフォードは本命でランドルフは愛人だとか噂は様々あった。クリフォード狙いの女子は、ランドルフにリリベラを押し付けたい(リリベラ的には積極的に押し付けられたいくらいだったが)ようだったが、今はランドルフの株がうなぎ登りな為、他の男子を引き合いに出してはリリベラを「淫乱女」扱いしてくるのだ。


リリベラは、顎をツンと上げ、わざと女子達を見下ろすような態度をとる。


「先輩方、くだらない噂を信じて、私を侮辱するような発言をなさっていますけれど、もちろん御自分の発言に責任は取れるんですよね」

「は?」

「私、リリベラ・ゴールドバーグがいつ、誰に色目を使ったか、誰と恋人関係なのか、何を基準に恋人だと定義しているのか、全てお答えください」

「見たって子がいるわよ。あなたと一年の男子が人前も気にせず抱き合っていたと」


カターシャに乗じてリリベラを責めていた取り巻き女子は、カターシャの後ろに引っ込んだが、カターシャは一人腕を組みリリベラに対峙する。


「誰が、いつ、どこで見たんですか。一年男子って誰ですか」

「知らないわよ、そんなの。みんな噂しているんだから、目撃者は沢山いるんじゃないの?!」

「『知らないわよ、そんなの?』知らない出来事で、先輩は下級生を弾劾なさっているんですか?頭は大丈夫ですか?」


リリベラが鼻で笑うと、カターシャは怒りでか頬を赤く染め上げた。


「あなた、一年のくせに生意気なのよ!」


カターシャは手を振り上げた。周りの女子生徒から悲鳴が上がる。


いくら学園が身分に隔たりなくと謳っていても、さすがに伯爵令嬢が公爵令嬢に手を上げることなどあってはならない。カターシャの取り巻き女子が真っ青になって見守る中、カターシャの手は振り下ろされることはなかった。


「何をしてるんだ」

「ランドルフ君!」

「ランディ」


カターシャの手を押さえたのはランドルフだった。もちろん、ランドルフはリリベラが教室にやってきた時からリリベラに気がついていた。リリベラが口で言い負かされることはないと思っていたから、女子同士の話し合いとして静観していたのだが、手が出るのならば話は別だ。


ランドルフはカターシャの手を離すと、リリベラを背で隠すようにカターシャとの間に入った。


「一年の癖に礼儀を知らないから、注意してあげていただけだわ。ランドルフ君も、迷惑でしょう。あんなくだらない噂をたてられて」


ランドルフの唇の端がヒクリと動き、それだけで不機嫌なオーラが辺りに充満する。


「ほら、やっぱり!ランドルフ君は学園……ううん国が期待する人材ですもの。くだらない噂で煩わされている時間がもったいないですわよね」


カターシャはそれ見たことかと、ふんぞり返って鼻を鳴らす。

周りの女子生徒も、表立ってリリベラを非難するのは躊躇われているせいか、声を出さずに頷いている。


「もったいないのは、こうして知りもしない女子からプレゼントを受け取っている時間の方なんだが。どっちみち、お礼の手紙をつけて返品するつもりだったから、申し訳ないがこれから渡されても受け取らない。君達も自分の教室に戻って」


ランドルフが並んでいた女子達に声をかけると、女子達は「エーッ!」と不満いっぱいの声を上げる。


「あと、ダンベル嬢、君からうけとったこれもお返しする。口頭でのお礼とお詫びで失礼する」


ランドルフは、机に山積みになっていたプレゼントの中から一際派手な包みの箱を取り出すと、カターシャの手に押し付け、他にも今いる女子達に間違うことなくプレゼントを返していく。


「一度差し上げた物を返されるなんて屈辱ですわ」

「でも、受け取る時に言いましたよね。受け取れないと。そうしたら、ダンベル嬢が無理やり机に置いていくものだから、次から次に置いていかれて。収集がつかなくなったから、取り敢えず受け取ることにしたけれど」


ランドルフは、いい加減にして欲しいと言うようにため息をつく。


「ランディ、食べ物もあるみたいよ。返してたら腐るんじゃなくて?」


まだ机に残っているプレゼントの包装紙から、有名店のケーキもあるようだった。手作りの物もチラホラ見受けられる。


「知らない人がくれた食べ物なんか、怖くて食べれないよ。何が仕込んであるかわからないじゃないか。リリベラの手作りなら、喜んで食べるけどね」


ランドルフは、リリベラの手に持たれている紙袋を見て言った。


「これは食べ物じゃないんですの。誕生日プレゼントなんですけど……後で渡した方がいいかしら」


ランドルフが喜んでプレゼントを受け取ったとしてもショックを受けるが、こうしてプレゼントを突っ返されているのを見ても心が痛い。もし自分のプレゼントをいらないと言われたら……、なんて考えてしまうからだ。もちろん、ランドルフが自分にそんな態度をとることはないと知っているが。


「いや、貰うよ。他の人は持って帰ってくれ。置きっぱなしの奴はゴミ箱行きになりますので」


ランドルフ……さすがに塩対応過ぎじゃないかしら。


リリベラが言ったわけではないのだが、先輩女子達はリリベラに睨みつけながらプレゼントを撤収していく。これでまた悪役令嬢呼びに拍車がかかるのね……と思いながらも、自分だけがランドルフの特別みたいな扱いに、胸がドキドキしてしまったのはしょうがないことだろう。




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