第28話 捜査開始

「アクトから聞いた事あるが、それが関係していると?」

「おそらくは、ね」


 ママにそう確認を取るレーヴに対し、アーシャは首を捻りつつ疑問を口にする。


「でも最近は話も聞かなくなっていたし、解決したんじゃ……。いや別にママを疑う訳じゃないんだけど」

「いいのよアーシャちゃん。情報はちゃんと精査しないとね」

「実は解決していなかった。そう言う事でしょうか、ママ様」


 イヴの問いかけにママは頷きを返しながら神妙に答える。


「そうみたいなのよ。仕入れた情報だけでも少なくとも二十人は行方不明になっているわ」

「二十人!? 大事件じゃない! 何でもっと噂にならないのよ!?」


 予想以上の数字にアーシャが怒りを込めつつ叫ぶ。

 だがレーヴは顎に手を当てながらその答えを予測する。


「……おそらく国が関係者に口止めしてるんだろう。でなければここまでは徹底されないだろうからな」

「ですが何故でしょう? 二十人も行方不明になれば大規模に捜索するべきでは?」


 アーシャも同じ意見のようで大きく頷いている。

 それに答えようとするレーヴよりも先にママが可能性を述べる。


「恐らく国としては犯人、もしくはその一味を刺激しないで水面下で調べているようね」

「目的が何であれ二十人だからな。過激な思想を持っているなら誘拐した職人を盾にされかねないからな」

「そ、そんな!?」


 アーシャが思わず立ち上がり叫ぶ。

 それを見てレーヴは落ち着かせるようにゆっくりと言葉を口にする。


「落ち着けアーシャ。あくまでも可能性の一端だ。そうされると決まった訳じゃ無いし、そうさせないために国も動いているはずだ」

「ご、ごめん」


 その言葉に落ち着きを取り戻したのか、アーシャは再び座り直す。

 それを確認したイヴは話を戻すためにも疑問を問いかける。


「目的は何なのでしょうか? 誘拐した人数からして身代金が目的ではないと思いますが」

「むしろその目的だったら事は簡単だったでしょうね」


 ママはため息を吐きながらそう答える。


「ハッキリ言って目的に関しては不明、としか言いようがないわ。解放を条件に何かを要求してくるのかも知れないし、人身売買かも」

「っ! ……」


 ママの言葉に反応しそうになるアーシャであったが、今度は叫ぶ事無く耐える。


「被害者の共通点は? 無作為にやっているとも思えないが」


 その様子を横目に、レーヴは確認を取る。

 それに対して、ママは首を静かに横に振る。


「それも不明よ。職人であるという以外は老若男女、関係なく行方不明になっているわね」

「単に帝国の職人、というだけで狙われてる可能性は?」


 イヴのその質問に、ママはまた首を横に振った。


「そうでもなさそうなのが頭を悩ませるところなのよね。帝国でも老舗と呼ばれる店は被害がないみたいだし」

「じゃあ一体どんな……」


 そのアーシャの言葉を最後に、四人は黙り込んでしまう。

 だがしばらくすると、レーヴが部屋の外に向かい始める。


「考えても分からない以上は行動するしかない。すまないなママ、例のものは後日で」

「そう。明確な答えを出せなくてゴメンなさいね」

「すまないついでにライアンを借りるぞ。荒事がある場合は誰よりも信頼できるからな」

「いいわよ。依頼料はサービスにしといてあげるわね」

「助かる。二人とも、行くぞ」

「了解ですレーヴ」

「す、少しは整理させてよ」


 そう会話しながら部屋を出て行く三人の背を見送りながら、ママは一人呟くのであった。


「皆、頑張ってね」



「なかなか手掛かりは得られませんな」

「国が手こずってる事件だ、そうそう簡単にいかないさ」


 事情を説明したところ、二つ返事で受け入れたライアンを含めた四人はとにかく帝国中を歩き回っていた。

 どの店の誰が行方不明になっているか、それを調べるためである。

 あくまで客を装いながらなため、全員の手には大量の買い物がぶら下がっていた。


「ですが、大体の行方不明者は絞れました」

「そうは言っても、本当に千差万別よ? 共通点、見つかるといいけど」


 イヴの言葉に対し、アーシャは作成したリストを見つめながら不安そうにしている。


「落ち着け、と言っても無理があるかも知れないがアーシャ。まだ始めたばかりだ。今はとにかくアクトや他の職人の無事を信じて動くしかない」

「ですな。ですからアーシャ殿、不安そうな顔は止めて前を向きましょう」

「アーシャ様。頑張りましょう」

「……ありがとう皆」


 そう涙を浮かべつつアーシャが感謝の言葉を述べた時であった。

 前方から馬車が一台、四人の目の前で止まる。


「はぁ。嫌なタイミングで出会ってしまった」

「間違いないですね」


 その馬車の装飾に見覚えがあるレーヴとイヴがそう口にすると、扉が開かれると同時に人影が飛び出した。


「イヴさん! お久ぶり! ですね!」


 そうポーズを取りつつイヴの目の前に着地したのは貴族であるマイストスであった。


「フム、どなたですかな? 服装からかなりの身分とお見受けするが」


 唯一この中でマイストスと面識がないライアンがそう疑問を口にする。


「中々見る目があるオークくんじゃないか! そう! 僕こそが!」

「名の知れた貴族であるファウゼン家の四男、マイストス様です」

「あ、うん。紹介ありがとうイヴさん」


 イヴに気勢を削がれたマイストスがそう力なく頷くと、ライアンは頭を下げつつ名乗る。


「これは失礼を。自分はライアンと言うカリバーン所属の冒険者であります。それと純粋なオークではなくハーフでございます」

「うむ。中々礼儀が分かっている冒険者だねライアンくん。これからも精進したまえよ?」

「はっ!」

((何気に相性いいな、この二人))


 貴族たる故か細かい事を気にしないマイストスと、基本的に人の良い所をみるライアン。

 その二人の相性の良さに驚いているレーヴとアーシャの横で、イヴが疑問を口にする。


「それで、マイストス様は何故ここに? この様な専門店エリアに直接来られるとは」

「よく使っている店は時々顔を見せるようにしているですよ。直接顔を見せた方が職人たちもやる気が出ると思いましてね。まあ今回は無駄足だったですがね」

「? 何かあったのですか?」


 ライアンの質問に対し、マイストスはある店を指さしながら答える。


「あの店が見えるかい? 最近のお気に入りなんだけどね、どうやら店主が風邪をひいたらしくて会えなかったのだよ」

(……アーシャ)

(分かってる)


 アーシャが持ってたリストにその店の名前を記入する。

 あとで確かめに行く事をレーヴが決めていると、マイストスは何気なく情報を口にする。


「今になって長旅が体に堪えたのかも知れないねぇ。後で見舞いの品でも送る事にするよ」

「どこか旅行にでも出かけられていたのですか?」


 イヴの質問に対してマイストスはペラペラと答え始める。


「いえそうではなく、王国から最近逃げて来た夫婦でしてね。あの店も最近出来たのですよ」

(……王国からか、最近多いな。まあ俺が言えた事ではないが)


 レーヴが内心でそう思っていると、イヴと話したいがためかマイストスは聞かれていない事も話始める。


「最近は第四騎士団が忙しなく動いていますし、何か嫌な事の前触れではないといいのですがねぇ」

「第四騎士団……クラウディア様が団長をされている騎士団ですね」

「ああ」


 イヴの確認に対して、レーヴはそう短く答えると考えを巡らせる。

 すると、マイストスは何かを思い出したように慌て始める。


「す、済まない! これから父上とお茶をする予定があるんだ! 時間を破る事には厳しいから急いで帰らせてもらうよ!」


 そう言いながらマイストスは、馬車に乗り込み急いで家に戻り始める。


「それではイヴさん! そしてライアンくん! また会おう!」


 そう乗り出しながら言うマイストスを見送りながらライアンを口を開く。


「気のいい御仁でしたな」

「そ、そうかな……」


 アーシャが少しライアンに引いている間も、レーヴは何かを口にしながら考え込んでいる。


「レーヴ? どうしました?」

「……予定変更だ」

「え、ちょっと! どこに向かうのよ!」


 そうアーシャが呼び止めるが、レーヴは足を止める事無くある場所に向かい始める。



 その場所とは第四騎士団の駐屯地。

 つまりはクラウディアの仕事場であった。




 あとがき

 今回はここまでとさせてもらいます。

 深まっていく謎ですが、果たしてレーヴたちは解決させる事が出来るでしょうか。

 こうご期待です。

 ここで豆知識を一つ。

 アーシャは抱き枕がないと眠れない。


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