第23話 女サムライ、その真意
「はぁ……」
「だ、大丈夫ですか? レーヴ殿」
「これが平気そうに見えるなら医師に見てもらえ、騎士クラウディア」
ラーハにある練兵所の一つ、そこにレーヴはため息を吐きながら立っていた。
小規模な練兵所は空きがある場合、申請すれば一般の者でも使用可能なのである。
便利屋の前で戦いを始めようとするコザクラを説得し、練兵所を借りに来たのが一時間前。
そして偶々来ていたクラウディアと鉢合わせして、向こうが審判役を買って出たのが、三十分ほど前の事であった。
「しかしお前も忙しいだろうにわざわざ審判をしなくても良かったんだぞ?」
「いえ、自分もヤマシロのサムライの実力が見たいというのが本音でして。お二人の勝負、勉強させてもらいます」
「ま、そう言うなら甘えさせてもらう。どっちにしろ誰かには頼むつもりだったからな」
あくまで試合の形式である以上は審判役が必要であった。
だがイヴだと公平性に欠けるため、そう言う意味ではクラウディアは適任であった。
良くも悪くも真面目なクラウディアならどちらかに肩入れする事はまず無いからだ。
コザクラもクラウディアを一目見て審判役に納得した。
「それはいいが、この観客の数はどうにかならないのか? 溢れそうだぞ?」
「す、すみません。部下に頼んでこれでも規制した方なんですが」
「いや、クラウディアを責めてる訳じゃないんだが」
どこからかこの試合の事が漏れたらしく練兵所の中にも外にも一目見ようと野次馬が蠢いている。
クラウディアの部下が必死に整理しようとしてるが、人の波に押され上手くいってないのが現状である。
ちなみにイヴは練兵所の中でいつ用意したのか、レーヴへの応援の横断幕を掲げている。
「はぁ……仕方ない、か。しかし向こうは凄い集中力だな」
「ええ。触れれば今にも斬られそうなほどです」
レーヴとクラウディアの視線の先には正座をして集中力を高めているコザクラがいた。
先ほどまで駄々っ子の真似をしていたとは思えない、まさにサムライの気迫を感じさせるその振舞いにレーヴは感心していた。
「レーヴ殿。一つだけ助言します」
「ん?」
「あのコザクラ殿、相当の使い手と思われます。手を抜くと……斬られますよ」
これからコザクラと戦うレーヴにクラウディアは歴戦の騎士団長として真剣に助言する。
「分かってる」
対してレーヴも便利屋としてではなく、マスタークラスのマジシャンとして答える。
もとより気を抜くつもりは無かったが、クラウディアの助言でさらに警戒レベルを上げておくレーヴは感謝を述べる。
「すまないな」
「試合が始まるまではレーヴ殿の友人ですので」
それは試合が始まれば贔屓はしないという宣言でもあったが、レーヴは頭を下げて感謝と同意を示す。
それに対しクラウディアの方も、僅かに頷くと審判として動き始める。
「これより! レーヴとコザクラによる模擬試合を開始します! 両者、前へ!」
その言葉を受けてレーヴ、そして精神を集中させていたコザクラも立ち上がり中央へ向かう。
二人が対峙すると、クラウディアは禁止行為を確認する。
「死に至る攻撃を行わない事、片方が負けを認めた場合はすぐに戦闘を終了する事、倒れている相手に追撃を行わない事を禁止事項とする! 両者相違ありませんか!」
「ああ」
「無論」
それを確認するとコザクラは鞘から刀を引き抜く。
素人目でも業物だと分かる刀に、観客からは感嘆の声が漏れる。
一方でレーヴも、連れてきた鉄製の戦闘用ゴーレムを二体を自分の前に出す。
試合とはいえこれから戦闘が始まる緊張感に包まれる中、クラウディアは宣言する。
「ではレーヴ対コザクラ! 模擬試合……始め!!」
その言葉と同時にレーヴは一気に後方に下がり、逆にゴーレムたちはコザクラに攻めかかる。
(舐める気も、楽しむ気もない。鉄のゴーレムで圧倒する)
レーヴの指示を受け、二体のゴーレムは一気に距離を詰めるとその剛腕をコザクラに振り上げる。
だが。
「『居合・彼岸花』」
コザクラがそう言った瞬間には二体のゴーレムは横に両断されていた。
観客からは驚きの声が上がるが、対峙しているレーヴは声を出す余裕すらなく脳を回転させていた。
(っ! サムライは鉄も切り裂く事が出来ると聞いた事はあるが、こんなスッパリと切れるものなのか!? それ以前に武器を抜くところすら見えなかったぞ!?)
そんな驚愕をしつつも、レーヴはゴーレムたちを自動制御から手動制御へと切り替える。
(だがなサムライ。斬った程度で終わった気になるのは、早いぞ!)
レーヴはゴーレムたちに魔力を送り、修復を開始すると同時に振り上げていた両腕を振り下す。
「!!」
コザクラは間一髪のところでそれを避けるが、その衝撃は窪んだ床を見て理解した。
「そう来なくては!」
嬉しそうにコザクラはそう言うと、再びゴーレムに切りかかるが。
(! 先ほどより硬い!?)
先ほど両断してみせたゴーレムが、今度は切り傷を与えるので精一杯という事実に、コザクラは驚愕した。
ゴーレムの硬さは、与える魔力によって強化できる。
一般には知られていない事ではあったが、魔法を生業としてる者の中では常識であった。
魔力を追加され強度を増したゴーレムであったが、レーヴはコザクラの方に驚いていた。
(このゴーレムでも城の城門クラスの硬度はあるんだけどな……)
そう思いつつ、レーヴは次の手を打つ。
レーヴの足元から、召喚魔法によって呼び出された大盾を持ったゴーレム二体が姿を現す。
同じく手動制御をしながら、鉄のゴーレムより遅いスピードで盾のゴーレムはコザクラに向かっていく。
「無駄な事を! 盾ごと両断してみせるでござるよ!」
そう言って勢いよく刀を大盾に振りぬくコザクラ。
「!?」
だがその一刀は弾かれ大きく後退する。
「クッ! 盾一つ断てないとは!」
「悪いがそれは俺が特注した特別製だ。生半端な攻撃では傷すらつかないぞ」
この大盾はアクトとの共同開発したもので、強度は勿論であるが特殊な加工により魔法攻撃にも対応できる世界で五つしかない代物である。
レーヴは説明しながらも、大盾のゴーレムを中心にコザクラを攻め立てていく。
「っ!」
四体のゴーレムに攻められながらも、必死にその攻撃を捌いていくコザクラ。
そして鉄のゴーレムの一体に一瞬の隙を見つける。
「そこ! 『一刀・荒波』!」
その技名と共にまさに荒ぶる波のような強烈な一撃がその両腕を叩き切る。
だが、それこそがレーヴの狙いであった。
「実力は認めるが、それは悪手だろ!」
そうレーヴが叫ぶと、ゴーレムの片腕だけがコザクラに向かっていく。
「しまっ!?」
最後まで言う事すら叶わず、コザクラの腹部にゴーレムの拳がめり込む。
「ガハッ!?」
大きく吹き飛ばされたコザクラは、そのまま床に倒れる。
安否を確認するためにクラウディアがコザクラに近づく。
息をしているのを確認すると、クラウディアはレーヴの勝利を宣言しようとする。
「勝者は」
「まだでござるよ」
「「!!」」
先ほどまで倒れていたはずのコザクラいつの間にか立ち上がり刀を構えている。
(嘘だろ。下手したら骨も折ってるような一撃のはずだぞ)
「……本当にやれるのですか?」
レーヴの疑問はクラウディアも同じなようで、慎重にコザクラの様子を見る。
「当然でござる。もし止めたら暴れてやるでござる」
「……」
ダメージは負っているが、むしろ闘気は逆に増している。
クラウディアはそう判断すると、試合を再開させる。
(これでござる。拙者が求めていたのは!)
再びゴーレムに切りかかりながら、コザクラは帝国に来た真の目的が達成できる事を歓喜していた。
(もっと、もっと強さを見せるでござる! そして拙者を、拙者を!)
わざわざ東方の小さな国から様々な難所を乗り越え、帝国の強い男を探して戦いをしてきたコザクラ。
そんな彼女の本質、それは……。
(体と心の芯から徹底的に屈服させてほしいでござる!!)
他人が引くほどの超被虐体質、つまりドMであった。
あとがき
という訳で、今日はここまでとなります。
いや~。
こういったキャラを書くのは楽しいです(笑)。
次回はコザクラの過去を少し振り下げようと思います。
果たしてなぜ彼女はこうなったのか?
お楽しみに!
面白いければ是非に感想、レビューをお願いします!
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