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 日本へと向かうため、二人はある場所を訪れていた。そこはメイが日本のクライアントと契約を結んだ際に、この国からの脱出ポイントとして指定していた場所だった。

 二人がそこにたどり着くと、その場所には一機の特殊なステルスコーティングが施された飛行機が止まっていた。そしてその傍らに黒いスーツを着込んだアジア系の男が一人待ち構えている。


 その男にエリーが声をかけた。


「よぉ、あんたが日本のお迎えか?」


「傭兵のエリーさんとメイさんですね?」


「あぁ、アタシ達で間違いない。」


「では飛行機の中へどうぞ。すぐに出発しますので。」


「ちなみによぉ、日本にこういうのは持ち込んでもいいのか?」


 エリーが着込んでいた上着を広げると、その上着の内側にはサバイバルナイフや手榴弾、予備の銃や弾薬が仕舞われていた。本来日本には銃刀法というものがある故にこういう銃火器の持ち込みはできないはずだが、そのスーツ姿の男は何事もないかのように一つ頷いた。


「構いません。あなた方には依頼満了まで特例の法が適用されますので。銃火器の携帯は認められています。」


「ほぉ~?随分な接待だ、ほんじゃ乗ろうぜメイ。」


「えぇ。」


 エリーとメイの二人が飛行機に乗り込むと、そのスーツの男はあたりを少し警戒してから乗り込んだ。そして運転席に向かうとパイロットに声をかける。


「出してくれ。」


「了解しました。」


 すると間もなくして飛行機は飛んだ。機内にて男はエリー達の正面に腰掛けると、ある資料を取り出して二人の前に広げた。


「今回の依頼についてですが、まずはこの資料に目を通していただきたい。」


「ふん?」


 エリーがその資料を受け取ると、そこにはミイラ化した死体の写真が写っていた。


「死体……ねぇ。」


 さらにその写真の下に目を通すと詳しい死因や外傷などの情報が書いてあり、そこに書き綴られた情報にエリーは目を疑った。


「外傷は首に動脈まで達する噛み傷が一つ、死因は失血死ぃ?解剖の結果、全身に血液が一滴も残ってなかっただって?」


「なんかまるで吸血鬼が血を吸っちゃったみたいな事件ね。」


 そうポツリと言ったメイの言葉にスーツの男はまるでそれが答えだと言わんばかりに一つ頷いてから話し始めた。


「まさにその通りです。現在この事件は吸血鬼事件として日本を騒がせています。」


「はぁ、なるほどな。」


 大体の事情を察してエリーは煙草に火をつけた。火のついた煙草を吸って、煙と共に大きく息を吐き出すと彼女はスーツの男の目を見て言った。


「フゥ……つまりアタシらにはこの事件の犯人をとっ捕まえてほしいってわけだ。」


そういう認識で間違いありません。」


 そう言って頷いたスーツの男にメイが疑問を抱きながら問いかけた。


「概ね……っていうのはどういうことかしら?」


「……次にこちらの映像を見ていただきましょうか。」


 男はタブレット端末を操作すると、二人の前である映像を流し始める。


「こいつは、防犯カメラの映像か?随分荒い画質だぜ。」


「注目していただきたいのは、これからこの防犯カメラの前を通る女性と男性です。」


 映像が流れていくと、男の言ったようにカメラの前に女性が映り込む。そしてその女性に声をかけるべくして男が映りこみ、女性へと近づいた次の瞬間だった。


 声をかけられた女性が男性の首筋に突然かみついた。それと同時に荒い映像でもハッキリと目に見えて男の体があっという間に細く枯れ枝のようになっていく。

 そして完全に干からびた男をごみを捨てるかのように路上に投げ捨てると、男をそんな風にした女性は監視カメラのほうをハッキリと見つめニヤリと笑ったのだ。


 それを最後に映像は止まる。


「おい、これCGじゃねぇだろうなぁ?」


「いえ、間違いなく本物の映像です。そしてそこに映っていた男性こそが、今しがた見ていただいた資料に記載されている遺体の身元の男性なのですよ。」


「これ映像は世間に出したの?」


「出していません。現在この映像は機密映像としてここに保管されていますから。」


「……つまりこの映像は機密にする価値のあるものってわけね。さてっと、じゃあ本題に入りましょう。あなた達は私達に何をさせたいのかしら?」


 ある程度の確信を得ながらもメイはスーツの男に問いかけた。


「この監視カメラの映像に映っていた女性。我々上層部の間では吸血鬼ヴァンパイアと呼んでいるのですが、彼女の生きたままでの捕獲を依頼したいのです。最悪構いません。」


「なるほどね。期限は?」


「期限の指定はしません。それに加えて手掛かりになりそうな目撃証言や、各地の監視カメラなどの映像情報は随時そちらにお渡しします。」


「完全にアタシ達頼りってわけか。」


「一般の警察を巻き込める事柄ではないので。そこはご理解いただきたい。」


「ん、まぁアタシからすりゃそっちのがありがてぇ。」


 そう言って再び煙草を吸った彼女は、メイが必死になって資料に目を通している最中、ふとあることを思い億劫になっていた。


(日本に帰るってなりゃあ……顔を出さねぇわけにはいかねぇよなぁ。それにアタシたちが日本に帰るって情報は、まぁ間違いなく掴んでるだろうしなぁ……。)


 そんなことを思いながら、エリーは吸った煙草をため息交じりに大きく吐き出すのだった。

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