第60話 あと四つだよ

「よくも、我が父を!」


「一族の仇め!」


「ガラム様を返せ!」


「姫様をよくも汚してくれたな!」


『牙の一族』の村で一夜を過ごしたヴァンであったが……翌日から、他の一族の集落を回っていった。

 まずは従属を受け入れているはずの『翼の一族』と『鱗の一族』の村。

 それぞれの村に行くと、昨日と同じような熱烈な歓迎が襲ってきた。


「元気だな。ここの人達は」


 ヴァンはそれを特に気にした様子もなく、淡々とした様子で捌いていった。

 大森林にいる獣人達は基本的に武器を持っていない。

 ガラムによって、石器のような簡単な武器を与えられはしたが……それも先の戦争中に失われている。

 そのため、丸腰で爪や牙で襲いかかったのだが……それが幸いした。

 丸腰で襲ったことで、ヴァンに敵対行動とみなされずに済んだのである。


「ヴァン陛下に従います!」


「さすがは姫様が選んだ御方じゃあ!」


「我らが忠義をお受け取りくだされえっ!」


 敗北した途端に忠誠を誓ってくる彼らは、見ようによっては二枚舌のお調子者に見えなくもない。

 ヴァンが気にするタイプだったら、従属を受け入れられずに滅ぼされても文句は言えなかった。


「さて……それで、次はどうするんだったか?:


 湖のほとりにある『鱗の一族』の集落にて。

 建物の一つで休みながら、ヴァンが獣人三人娘に訊ねた。

『牙』、『翼』、『鱗』の三種族の村を回ってきたヴァンであったが……次の日から、いよいよ抵抗している四種族の村に行かなければいけない。

 三種族のところでも襲われたので変わらない気もするが……これから、いよいよ敵地への侵入ということになる。


「抵抗しているのはどこの種族だったか?」


「『爪』、『蹄』、『甲羅』、『耳』の四種族になりまする。殿」


 リザーが恭しい口調で答えた。


「『甲羅』は日和見主義ですから、そこまで殿に従属することに抵抗はないはずです。『耳』は八方美人ですので、他の種族の顔色を窺っているだけでしょうな」


「手強いのは『爪』と『蹄』ですわね……特に、『爪』は厄介ですわ」


 リザーに続いて、ヴァナも会話に入ってくる。


「『爪』は非情に好戦的で、そして卑劣極まりない種族です。不意討ちや闇討ちは当たり前。戦士としての誇りのない連中ですわ」


 ヴァナが憎々しそうに爪を噛む。

 彼女が所属している『牙の一族』は『爪の一族』とすこぶる仲が悪いらしい。

 先の戦いで『爪の一族』はほとんど参加していなかったが……『牙の一族』と同じ戦場に立ちたくないというのが理由であるとのこと。


「ガラム兄者は『マタタービ』という薬草を使って、アイツらの族長をやっつけた。探してみるか?」


「いや、別に良い」


 ルーガの提案にヴァンが首を横に振る。


 ガラムがどんなやり方で『爪の一族』を従属させたかは知らないが……正直、同じ方法ができるとは思っていない。

 妹のモアから聞いたことだが……ガラムという少年はおかしな知識を持っており、それによって部族王になったそうだ。

 ヴァンにはできない戦い方である。もっとも……それを補ってあまりあるフィジカルを持っているのだが。


「明日、『爪の一族』の村に行く。案内を頼んだ」


「任せておいてくださいませ……旦那様の御心のままに」


 ヴァナが花も恥じらうような笑顔で頷いた。


「我らが宿敵である『爪』の者達が旦那様に屈服するのが、とても楽しみですわ。猫共の末路をこの目で見られるなんて感激ですこと」


「それじゃあ、今夜は早めに休むぞ」


「寝所へ参りましょう。さあ、殿。どうぞこちらへ……」


「ああ……わかった」


 ヴァンは特に抵抗もなく、獣人三人娘と一緒の床につく。

 抵抗はない。抵抗はないのだが……大森林に来てから、彼女達とばかり身体を重ねている。


(モア達は王都にいるから仕方がないんだけど……他の娘達の身体が恋しくなってきたな)


 内心でかなり失礼なことを考えてしまい、「贅沢者め」とヴァンは自分の額を小突いた。

 王になり、複数の妻を娶ったせいだろう。

 複数の女性を日替わり定食感覚で味わうことに、慣れてしまったらしい。


(俺みたいな男が女の子に好かれるのが奇跡なんだ……贅沢なことは考えないようにしよう)


 ヴァンは自分に言い聞かせながら、今日も熱い夜を過ごしたのであった。

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