第4部 第4章 教化

「えええと……」


 入口に一真の父親がいつの間にか立っていた。


 それで私の話を聞いていたようだ。


「あ、親父。祈祷してたのでは? 」


「ああ、爺さんに変わってもらったんだ。爺さんがここのお堂に入っちゃったって聞いたからさ。檀家のお爺さんが見つかったかなと思って心配して代わってもらったんだが……。え? この現象はそんな終わらせ方なの? 」


 そう一真の父親が凄く驚いた顔で話す。


「おい、父親に喋ったのか? 」


「いや、親父もゾンビを見ちゃったから、どうしょうもねぇだろ? 」


「お爺さん生きて帰ってきたんだね! 良かったね! で良いじゃないかっ! 」


「そんな返しをする奴いねぇよ」


「あり得ないよ。お前……」


 私の力説を一真と優斗が動揺した顔で首を左右に振った。


「いや、別にゾンビなんだから、車とかに轢かれたりしない限り、ずっと不死じゃん」


「いやいや、その結論だと。難しいんじゃないかな? 一応、病院で死亡届が出てるし」


 一真の父親が突っ込んできた。


「いや、生きてましたで良いし」


「心臓が止まってるんだよ? 」


 一真の父親は真面目な性格らしい。


 真顔で私にそう話す。


 そうしたら、お爺ちゃんは項垂れて、ショタの美少年は震えだした。


 死んでいるという現実より二人で一緒に暮らせない事実がどちらにも受け入れられないのだろう。


「いや、この私のスキルの教化ってぶっちゃけ洗脳だろ? 」


 そう私が颯真に聞いた。


「いや、教え諭すって意味だが……」


「じゃあ、大聖聖女如来の力で生き返った。心臓はまだ動いてないがいずれ動く。生きてますよね……で、良いのでは? 」


「それはありかもしれない。多分、大聖聖女如来は女神だと思う。それの教えを信じこませるスキルだから」


「じゃあ、それで解決だ」


 私がさらりと答える。


「心臓はまだ動いてないが、いずれ動くで済むの? 」


 一真の父親がそう答える。


「いや、祈祷とかやってたら、杖が無いと歩けなかった人が拝んだ結果、いきなり歩けたりってあるでしょ。そう言うのは意外と例があるから。それと同じで」


「同じじゃないよ……な……」


「同じなのか? 」


 私の発言に一真と優斗が動揺しているが、納得を始めている。


 やはりチョロい。


「いや、心臓だよ? 」


「じゃあ、静かだけど心臓は動いてますって女神の力ですって教化すれば? 」


「ああ、それでも通ると思うぞ」


 私の言葉に颯真が力強く答えた。


「良いのかな? 」


「実際に経験してて思ったんですが、この女神の住んでいる世界は適当で、こちらの世界に来て関わったものも全部適当なので、きっとこれも適当で済むと思います」


 私が動揺している一真の父親に強く断言した。


 実際、神社に夢枕でもいいが女神として話すのなら分かるが、寺に行って住職に夢枕で話すとか適当すぎる。


 バリバリのファンタジーの女神の格好らしいし。


 多分は、それも神のランクの教化の力かもしれないが、下手に異常な力を持ってるせいで、全て無理が通じるのだろう。


 だから、これも通じると見た。


「ううむ……」


 そうやって、一真の父親まで黙り込んだ。


 何というか、祖父もそんな女神の話を信じて本山と喧嘩するくらいだから、チョロい家系なのだろう。


 私はただ、美少年のショタの未来を守る。


 その使命感だけでやっているだけなのだ。


 ショタの美少年は世界の宝である。


「じゃあ、後で、亡くなった病院に一緒に行きましょう。私の教化で終わらせてきます。私の大聖聖女如来の女神への祈りで生き返ったって事で良いでしょう」


「えええと。本当の本当に本物の勇者と聖女なの? 」


 一真の父親が困惑したように呟いた。


「その通りだ」


「巻き込まれただけです」


 そう颯真と私がきっぱりと答えた。


 困惑した一真の父親は縋る様な目で一真と優斗を見た。


「不本意だけど……」


「信じられないけど……」


 その一真と優斗の言葉で一真の父親はがっくりとその場でへたり込んだ。


 現実なんて何時だって残酷なのである。


 昔の初恋の人を記憶の中で美化しまくって会ってみたら、ええって普通にあるのだ。


 どんなに夢を見ようと勇者と聖女なんて、こんな不本意なのしかいない。


 そもそも、私はとっとと<聖女>なんか辞めたいのに。


「しかし。これで葬儀とか減るなぁ……」


 などと一真の父親が意味不明な呟きを呟く。


 いろんなパニックが押し寄せてきて、頭が混乱して檀家の年寄りが全部ゾンビになったら、誰もが葬儀なんかしないでゾンビで生きていくのを心配しているようだ。


「いや、逆にゾンビを内々で広めていけば、ずっと彼らに年金は支給されますよ」


 そう私は微笑んだ。


 まあ、お金の事を考えれば、その年金から上納金を出させれば……おっと寄付だな……宗教法人だし、大儲けだと思うのだが……。


 そう匂わせただけで、一真の親父の目がキラリと輝く。

 

 ううむ、息子に算数だけは教えるだけはあるな。


 本当かどうか知らんが、年始の書き入れ時の某有名な寺では、賽銭箱を開けて、1円とか10円とか、チャリ銭とかいらんのじゃとか住職さんが小僧さんからお札だけとりあげて数えてたとか生々しい噂を聞いたことがある。


 やはり寺の経営にはお金は欠かせない。


 現実は厳しいのだ。


 そして、私もとりあえず、了承された事だし、奇跡の出来事は全部この寺に押し付けてやろう。


 私の奇跡はあくまで、この寺の大聖聖女如来のおかげなのだ。


 聖女のおかげなんてとんでもない。

 

 このさいだから、全部押し付けよう。


 そう固く思って、病院にお爺さん達と向かって、お爺さんの担当医に話したら当然大騒ぎになった。


 仕方ないので、教化を私の使える一番上のランクで使い、全部大聖聖女如来の思し召しですと宣った。


 こうして、何故か目撃者がいたのか聖女を調べてる奴がいたか知らんけど、ネットで騒ぎになってお寺は大繁盛になったそうな。


「めでたしめでたし」


 そう私が皆と病院から出てきたとこで締めくくった。


「めでたいかな? 」


 優斗が動揺して呻く。


 一真はいきなり教化で出来た信徒を引き連れて寺に先に戻った。


「まあ、あのお孫さんが幸せになったんだから」


 タクシーを待つお爺さんとショタの美少年は本当に喜んでいた。


 それを見て優斗の顔も緩んだ。


「何の魔物も倒せなかったな……」


「「それが一番めでたしめでたしなんだよっ! 」」


 颯真の残念そうな言葉に私と優斗が突っ込んだ。


 


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