第3話 ゴブリン
「そ、それではこの辺で一旦解散して、薬草採集をお願いします」
そう言い残すとミーナは森の奥へ消えていった。私がその場を離れようとすると茶髪男が声を掛けてきた。
「なあ、薬草採集なんてせずにゴブリン退治行こうぜ。ここ来るまでに巣があったんだけどよ」
「はぁ? 先輩の話聞いてました?」
「お前チビの癖に生意気だな」
私が男にけんか腰で話していたのを察してか、武闘家の女が後ろから声をかけてきた。
「私たちは故郷の村に仕送りするために早く功績を上げたいんです、そうでしょギル」
そう言うと、横にいた神官女もうんうんとうなずいている。
「私どうなっても知りませんよ」
「ビビってんだ、チビだから」
「はぁ、分かりました。勝手に死なれても夢見が悪いのでついて行ってあげても構いませんよ」
そうして私たちは本来の目的を無視しゴブリンの巣へ向かった。巣は歩いて3分と掛からない場所にあった。急斜面のふもとに二人が並んで入れるほどの大きな洞穴が口を開けている。
「《
神官女が呪文を唱えると洞窟の中が幾分か見通せるようになった。
「なぁ、タトゥーチビ女」
「私はアリスです。あとチビ言うな」
「勝負しねぇか、どっちが多く倒せるかをよ」
「はあ、いいですけど」
男はベルトに下げた鞘から短剣を雑に引き抜き、足早に洞窟を進む。
「俺が勝ったらお前脱げよ」
「何言ってんですか変態さんですか」
男はニヤけた顔をアリスに向けた。
「どうせそんな風体なんだしよ、ヤることやってんだろ色んなヤツと。安いもんだろ体見せるぐらいよ」
「そんなつまらないこと賭けるくらいならこの後で私を襲えばいいじゃないですか」
「はあ?」
「ああ、あなた弱そうなのでそんなこと出来るわけないですね」
アリスは肩に掛けていたロングソードを腰まで下ろし、鞘を後ろに投げ捨てるように抜刀する。
「てめぇ舐めやがって」
男は立ち止まりアリスの肩を掴んで続ける。
「だったら何賭けりゃ満足なんだよ」
「お互いの全財産」
「んなもん――」
アリスは男の手を掴みねじ伏せる。
「チビの私にビビってるんですか」
「かっ、やるよ。やってやるよ。俺が勝ったら分かってるだろうな」
しめた、と内心そう思っていたアリスとは打って変わって、焦る男はアリスの手を無理矢理振り解いた。
「前! ゴブリン3匹来てるよ!」
前かがみ走り出す男を横目にアリスは一足飛びに正面のゴブリンを叩き潰す。そして勢いそのままにロングソードを横に薙ぎ、残り2匹を小さな魔石に変えた。
「人間の動きじゃないだろ、それ」
「魔力強化です。賭けは私の勝ちですね」
アリスがゴブリンの残した魔石を回収していると後方から叫び声が聞こえた。
「どうして、どこからこいつら」
武闘家が神官にへばりついたゴブリンを引っぺがし壁に叩きつける。だが、どんどんと後ろからゴブリンが湧いて出てくる。
「横穴は無かったはず。茶髪さん、戻りますよ」
「おい、ちょっと待て、噓だろ。なんだこいつ」
洞窟の奥、茶髪男の正面に背丈が天井一杯まである巨大なゴブリンがそそり立っていた。男は恐怖にわなわなと震える。
「そっちはあなたに任せます!」
「おい、ちょっと待てよ。クソが」
アリスは一直線に後衛の元へ戻った。神官の脇腹の服を引きちぎろうとしているゴブリンを一突きで葬る。
「大丈夫ですか」
「はぁ、はぁ、はい、何とか。少しケガをしましたが自分で治せます」
「アリスちゃんありがとう! 後ろの群れをお願いできる? 私は抜けて来たのをやるわ」
「了解です」
アリスはゴブリンの群れに対してロングソードを力任せに横に薙ぐ。何匹かが真っ二つになる。もう何匹かは壁に叩きつけられて絶命する。だが横薙ぎを躱した1匹が空中から迫る。咄嗟に左手を突き出し魔力を込め、
「イビァァァ」
ゴブリンは真っ逆さまに吹っ飛び、地面に落ちて魔石に変わった。
「上手く行きましたね。神官さん・武闘家さん、このまま私に付いてきてください。剣士さんがやられる前に脱出します」
「ぁぁ……ぃぁ……ぁ」
神官がいたところからガサゴソと音がする。
「え? どうかしました――」
アリスは悪寒と共に振り返る。
「ぃ、いや、こ、殺して」
いつの間にか武闘家は頭から血を流し卒倒している。そこへゴブリンどもが汚泥を投げつけ彼女を弄んでいる。神官は服を剥がれ、わらわらとゴブリンが群がっている。ゴブリンにメスは生まれない。彼らは他の哺乳類を利用し増えると、そんな記憶がアリスの脳裏をよぎった。
「いま助けま――」
突然頭に衝撃を受ける。アリスは気を失った。
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