第51話
ラフが部屋に入ると、
「こちらは――」
「――知ってます」
ラフは、少しでも時間を無駄にしない方がよいかも知れないと、敢えて祖父の紹介の腰を折ってみせた。「……
祖父はそれで2人が旧知であることを知ったようだった。
が、やはり時間を無為にしたくなかったのだろう、それ以上詮索するようなことをせず言葉を続けた。
「間もなく〝
状況の説明すら省いた簡潔な言だったが、それに対しラフは、あれこれ訊き返すということはしなかった。それで? と〝指示を待つ〟ふうに祖父を見遣っている。
「
灰皿の上で封筒に火を点け、火が満遍なく封筒を舐めるように手首を廻らせる。その所作は手慣れていた。「…――そこから
ラフは、祖父が
トマは、炎を纏い炭化しつつある封筒を灰皿へと落して言う。
「……それから
ベルンハルド・ボーリクヴィストはアイブリー防衛軍第一 (地上軍担当)幕僚長で、守旧派の中心人物である。トマの盟友で家族ぐるみの付き合いがあり、ラフも子供の頃からよく知っていた。
「……その後は?」
ラフは、本当は〝いったい何が?〟と祖父の口から直接訊きたかったのを抑え、〝祖父がこの後すべきと考えていること〟を確認する。
が、トマはもうそれ以上、具体的な指示はしなかった。
「地球から帰ったときの言葉だが……」
サイドテーブルの上の
「はい」
ラフが、はっきりとした声で答えると、トマは、ようやく面を上げて、正面からラフを見据えた。
「なら、その想いのままに動けばいい。いまがその時だろう」
「わかりました」
慎重な面差しで祖父に相対したラフは、再びはっきりとした声で応じた。
ラフはトマから視線を外し、ラッピンを向いて頷いた。そうして目で彼女に廊下に出るよう促す。ラッピンは椅子から腰を上げた。
「閣下――」
ラッピンは部屋を出しな、室内のトマ・サンデルスに向き直って言った。「お気遣い、ありがとうございます」
トマはライターを葉巻に近付ける手を止めて、もう行くよう、小さく首を振って返す。
ラッピンは踵を返しラフ・サンデルスの後を追った。
廊下で待っていたサンデルスは、ラッピンが客間のドアから出てくると階段を降り始めた。階下のホールを折り返し、
こちらの方の階段は2階踊り場の下の空間が引っ込んで吹き抜けとなっていて、廊下から陰になっている側の壁面に小振りの
サンデルスは、棚の最上段の端にある
サンデルスは中に入るとラッピンを手招いだ。
中は小さなベッドが入るほどには大きかった。
「ここです」
サンデルスの顔は、入り口から右手の壁面を向いている。そこは窪みとなっていて、いくつかの配管が束となって上下を貫いていた。一見して
「見てて――」
言ってサンデルスはスペースに足を踏み入れ、配管と左側の壁との隙間に身体を捻じ込んだ。
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