異世界転生したら、奴隷だった~こんな異世界転生は嫌だ!
めへ
第1話
泥の様な意識の底に横たわっていたところ、けたたましい電子音によって、居心地の良い場所から急遽引き戻された。
頭が痛い、そして重い。吐き気がする。テーブルにうつ伏せで気を失っていたためか、腕や顔のあちこちも痛かった。
顔が火照っており、鏡を見ずとも赤面しているのが分かる。それだけではなく、きっと酷い顔をしているのだろう。
テーブルには空になったものや、半端に中身の残っている缶ビールが立っていたり、転がっていたりしていた。
催促するように鳴り響く電子音の元を、どこに置いたのか高井は思い出せない。
ふとテーブルの中央に携帯が置いてあるのを見て、そこから音が出ていると気付く。
やれやれと思いながら手を伸ばすも、何度か空振りして周囲にあった缶ビールに、叩くように触れてしまい、カランカランという缶が転がりぶつかる音が電子音に重なるようにして響いた。
――ああ、くそ…イライラする。
飲み過ぎた挙句の自業自得と分かってはいるが、思うように動かぬ体や頭、耳障りな物音に、高井は苛立ちを隠せない。
その苛立ちは、自然電話の主へ向かった。
ようやく携帯を手に取り、通話に切り替えると「もしもし?!」とつんけんした言い方で電話に出た。
『高井さん!大変なんですよ!』
電話の相手は随分と興奮している。そして声の様子からして、あまり良い知らせではなさそうだ。
聞き覚えのある声だが、二日酔いのためかピンとこない。
『高井さん?!聞いてますか?!』
高井から返事が無いので、電話の相手は焦った様だ。
「ハイハイ、聞いてますよ。」
高井はとりあえず、誰だか分からぬ相手に適当な相槌をうった。
それにしても、失礼な物言いをする奴だ、と高井は思う。こんな深夜に―自分が酔いつぶれるくらいだから深夜に違いない―いきなり電話をかけてきて、謝りもせずに、この言いようである。
誰だか思い出せないが、ろくでもない奴に違いない。
できれば通話を早めに切り上げ、トイレへ行き嘔吐し、ベッドで眠りたかったのだが、電話の相手の様子からして面倒事のようである。かなり長引くどころか外出を余儀なくされそうだ。
――電話に出なきゃ良かった…と、後悔していた。
『高井さん、ひょっとして酒飲んで酔ってます?』
通話相手の責めるような口調に、高井はカッとなった。
「だったら何です?!今、私は仕事中でも何でもない!プライベートで何やろうが勝手でしょうが!何であんたに、そんな事を咎められなきゃならんのだ?!何様のつもりだ!
私はプライベートで何をするにも、あんたにお伺いたてなきゃならんのか?!」
『す、すみません、違います、違いますよ。別に責めたつもりは無いんです、ただ、大変な事が起きたので相談したくて、だから高井さんにしっかりしてて欲しい、そう思っただけなんです!』
二日酔いで頭が働いていない事もあり、ついカッとなってまくし立ててしまったが、通話相手が自分より立場が上であったらどうしよう、と高井は急に不安になる。
しかし、ここまできて急に気弱な面をのぞかせるわけにもいかない。それに、相手の対応を見るに、高井よりも立場が下である可能性が高いと見た。
――ここは一気に強気で押し通そう―高井はそう決意する。酒が入っている事もあり、普段よりも気が大きくなっていた。
チラと時計を見れば、時刻は深夜二時。要件を断っても差し支えない時間帯だと、高井は判断した。
「大変みたいだけどね、時間が時間ですから。要件聞くのは、明日…いやもう今日か。とにかく朝になってからにしてもらえます?
だいたい非常識ですよ、こんな時間帯に電話かけてくるなんて…」
『す、すみません…失礼は承知です…しかし本当に、緊急事態なんですよ!お願いですから、話を聞いてください!』
高井の有無を言わせぬ口調に、通話相手は下手に出ながら、それでも抵抗を試みる。
通話相手が全て言い終わらぬうちに、高井は通話を一方的に切った。
電話を切ると、トイレへ行き便座を前にしゃがみ込む。吐き気はあるものの、吐こうとしてなかなか吐けるものではなかった。
中指と人差し指を喉に突っ込むと、「ぐえ」と変な声が出て吐き気が頂点に達する。そのまま便器に、吐しゃ物をぶちまけた。
食べ物は既に消化吸収されていたらしく、胃液とビールの混じったものしか出てこない。
吐き気が治まると、高井はトイレの洗浄ボタンを押し、のろのろと立ち上がってトイレから出ると、寝室へ行きベッドに倒れ込むと、気を失うようにして眠った。
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