これだ、このモチモチ感だ
最近、団子の生地作りが上手くいっている。
感覚を掴んだ、と思えるくらい手応えがある。
「んっ、桃太、さん…… 串に、刺し終わりましたよぉ…… あぅっ」
「ありがとう、美鳥」
うん、柔らかさの中にある弾力が格段に良くなったな。
「桃く…… ひゃんっ! ふふっ、もう…… お店に出す準備できたからね?」
これだ、このモチモチ感だ。
『吉備団子店』の食感にかなり近付いたな。
良い結果が出ているのは間違いなく、手伝ってくれている二人のおかげだな。
あの日から一週間以上過ぎ、美鳥が突然、近所に引っ越してきた。
それから毎日俺の家に通っては、店や家の手伝いをしてくれるようになった。
最初はさすがに遠慮していたのだが、どうしても手伝いたかったらしく、しかもアルバイト代の代わりにおだんごを要求され、何だかんだと一緒に過ごす時間が増えていく内にどんどんと仲良くなり、今では美鳥呼びする仲にまでなった。
毎日のように俺の家に泊まっては千和と仲良くおだんごをシェアして食べたり、千和が居ない時に内緒でこっそり食べたり…… 千和にはバレているみたいだが、すっかり俺のおだんごが癖になったみたいだ。
「ふぅ…… お疲れ様、午後の営業まで時間があるから休憩しようか」
「はい! うふふっ」
「えへへっ、はーい」
俺も仲良くなって…… うん、二人ともちょっと近過ぎない? そんなにくっつかなくてもいいじゃないか。
美鳥も最近はだいぶ健康的になり、顔色も良いし、ちょっと肉も付いて…… うん、左腕に小ぶりな大福がムニムニ。
右腕にはモチモチ大メロンも添えられて、何だか団子になった気分だ。
「この町にはもう慣れた?」
「はい! この町は皆さん良い人ばかりでとても住みやすい所ですね」
なぜ美鳥は突然引っ越してきたか。
去年、母親を亡くし天涯孤独になり、寂しいからっていうのもあるだろうが、おそらく千和が関係あると俺は思っている。
特におだんごを食べている最中にメッセージアプリを使っていたり、やたらとスマホスタンドに置いてあるスマホをチラチラ見たりと、怪しい行動をしていたのが関係してたんだろう。
俺も美鳥と連絡先を交換したのだが、千和がそういう行動を取るたびに
『寂しい』『早く会いたい』『ズルい』などと連続でメッセージが届いていて、しまいには泣きながら電話がかかってきたり…… 気付けばその数日後には引っ越しを済ませていて今に至る。
先に新居に自分だけ来て、これから残っている荷物を運ぶらしいが、なぜそこまで急いで引っ越しする必要があったんだろう?
「千和ちゃん、明日家具を選ぶのを手伝ってもらってもいいですか? 良さげなベッドがあるんですけど迷っていて」
「うん、いいよ! えへへっ、ついでに色々と買い物済ませちゃお!」
「そうですね、うふふっ」
本当に仲良くなったな、まるで姉妹だ。
おだんごを食べる時も本当に仲良し…… ふぅー、お茶が美味いな。
そういえば最近になってようやく親父達から連絡があった。
旅行を楽しんでいるみたいで、たくさん写真が送られてきた。
ただしすべて親父達のツーショットがドアップで、観光地なんか写ってないし、しまいにはベッドらしき場所で腕枕しながら撮っているのもあった…… 普通、息子にそんなもん送るかな? とりあえず適当なスタンプで返しておいたが次からはやめて欲しい。
そのメッセージを千和に見せたら『私達も送ろう』とか言い出した時は焦ったが。
「はぁ…… 最近食べ過ぎで太っちゃうなぁ、3000グラムくらい」
「私もです、このままじゃ太っちゃいます、3000グラムくらい」
な、何? いきなり…… さ、最近二人とも食べてるしなぁ、きっちり三食、おやつに夜食も…… あっ、グラムで言うとキログラムより軽く聞こえるからかな? きっとそうだよね! 乙女心は複雑だなぁ! あははっ。
無言でお腹をさすりながらこっち見ないで! 太らないようしっかりと気をつけてるでしょ? 大丈夫だから…… 多分。
「じゃあ夜食抜きにするか?」
「「ダメ(です)!!」」
……ですよねー。
それにしても、最近団子作りの調子が良いし、家は賑やかになって毎日が楽しい。
美鳥も少しずつ仕事を再開する予定らしいし、千和もより楽しそうにしているし、良い事ばかりだな。
ちなみに美鳥がHATOKOなのがバレないように店の手伝いをしている時は常にマスクをしてもらっている。
近所を出歩く時にも本人は気を付けているみたいだし、正体がバレた所で近所の人達だったらそんなに大騒ぎはしないだろう。
そういえばHATOKOのグラビアを見せてもらったが…… ちょっと高校生には刺激が強めな印象だった。
特に桃やモモを売りにしているらしく、きわどいポーズがあれこれ……
でも、撮られるのも見られるのも恥ずかしくて嫌だったって話してたのに、何で俺には何度も見せてくるの?
『色々吹っ切れちゃいましたから、これからは撮られても大丈夫だと思います、だってこれより凄いのは桃太さんにだけ……』
と言っていたけど…… 千和に影響されたのか? あまり無理をするとまた体調が悪くなるだろうから気を付けて欲しいとは伝えたけど
『うふふっ、やきもちですか? 嬉しいです…… 心配しなくても桃太さんだけですから大丈夫ですよ、うふふっ』
はたしてちゃんと伝わったのかなぁ……
「じゃあ私は仕事の打ち合わせがあるのでこれで…… 桃太さん」
美鳥は立ち上がると俺にハグを求めてくる、最近になって帰る時には必ず求められるようになった習慣みたいなものだ。
「いってらっしゃい」
「うふふっ、行ってきます」
俺がハグをしたら次に千和にもハグをしてから笑顔で家を出ていった。
「美鳥って寂しがり屋なんだな」
「両親が亡くなって一人ぼっちになっちゃったから…… 桃くん、美鳥さんに優しくしてあげてね?」
ああ……
「えへへっ」
無言で頭を撫でると千和は嬉しそうに笑う。
色々あったのに千和は笑顔…… 美鳥と仲良くしててもどこか満足したような顔をしている。
てっきり独占欲が強い方だと思っていたのに。
「ふふっ、二人っきりになったね? 午後の営業まで…… 一時間かぁ」
んっ? そういう感じ?
「桃くんを一人占めできちゃう…… ふふふっ」
独占したい時もある…… と
「私もハグして欲しいなぁ…… あっちで」
あっち…… そっち……
千和に導かれ、あっちでめちゃくちゃハグした。
◇
「ふふっ、送信…… っと」
隣で眠る桃くんの寝顔を撮り、美鳥さんに送る。
きっと今頃羨ましがってるだろうなぁ。
これから大切な桃くんを支えてくれる新たな仲間。
きっと私のように朝から晩まで桃くんの事しか考えられないようになるはず。
ふふふっ、初めて桃くんの団子を食べた時のあの涙…… 私にはピンときた。
桃くんも色々満足して、美鳥さんも私のように抱えた悩みをさらに大きな幸せで上書きされたよね?
桃くんの素晴らしさを共有、そしておだんごをシェアできる仲間が出来た事が嬉しい。
あぁ、幸せ……
ただ、たまには私だけ愛でられたいという気持ちもある。
きっと美鳥さんも同じ気持ちだから、煽りつつ遠慮しないでもいいようにしてあげないと。
だからこれからもよろしくね?
◇
あぁぁっ!! ズルいズルいズルいです!! あぁん、今日は打ち合わせが長引いて桃太さんのお家にお邪魔できませんでした。
それなのに千和ちゃん…… あれっ? またメッセージが……
『明日、学校で委員会活動があるから遅くなりそう』
……そうですか、確か桃太さんは明日学校が休みだったはず。
うふふっ、私の番って事ですね? 分かりました。
あぁ…… 頭の中は桃太さんとおだんごの事でいっぱい。
私をこんな風にした責任、ちゃんと取って下さいね? 桃太さん
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます