最強クラス【影霊術師（シャドウネクロマンサー）】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する

１１１ 結界の弱点

前回のあらすじ

　シーナとカイネ、２人の聖騎士の猛撃に耐えながら、シドは結界から脱出する術（すべ）を模索する。

　結界の特徴を１つ１つ観察した末、シドは結界の弱点に気付くのであった。

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　――見つけた。

　――結界の脆弱性。

「これでも食らえッ！」

　俺は手に持った長剣を、ヨハンナ目掛けて投擲する。

「ヨハンナ様！？」

　思った通り――長剣は結界に拒まれることなくすり抜け、そのままヨハンナの老体目掛けて飛来する。

　アニスはリンを連れて林に消えたので、老婆を守る手段はない。

「――抜かりありません」

――キィン！

「弾かれた！？」

　長剣はヨハンナを囲っている魔法陣によって弾かれる。

　魔法陣もまた、ヨハンナを守る結界ということか。

　影霊術師（シャドウネクロマンサー）のみを閉じ込める大結界。

　物理的な攻撃から術者を守る小結界。

　大小２つの結界をなんとかしないといけないとか――無茶過ぎる……！！

「シカイ族如きの浅知恵でヨハンナ様の結界を破れる訳がなかろうが！」

「でもお前少し焦ってただろ……ッ！」

　ヴァナルガンドから取り出した２本１対の双剣――《隼刃（じゅんば）の双剣》でシーナの長剣とカイネの鋸鉈（のこなた）とそれぞれ鍔迫り合う。

　グリフォンのダンジョンをクリアしたときに入手した武器だ。

　しかしすぐ後ろは結界の境界線、バックステップで逃げることは出来ない。

　――キィン！

　再び双剣で鍔迫り合う。

　この双剣はMPを消費することで、風属性の魔力の刃を纏わせることが出来る。

　刃に魔力を膜を作ることで、《朽ち移し（ラストトゥラスト）》の腐敗を遅らせているが、少しずつ錆びが浮いてきている。

「（貴重な武器だが惜しんでたら確実に負ける……ッ！）」

――ギリギリギリギリッ！

「お、重い……！」

　シーナとカイネの刃に押され、ジリジリと俺に迫ってくる。

　だが――まだ手はある。

「今だ――エカルラート！」

『クカカカカカカッ！！』

「真紅の吸血姫！？」

　――斬ッ！！

「がはッ！？」

　俺の影の中から――真っ赤なドレスを纏った金髪の美女――エカルラートが飛び出す。

　エカルラートは伸ばした爪でシーナの胴部を切り裂き、高そうな白い鎧がまるで紙切れのように破損する。

「シーナ！？」

　カイネが叫ぶ。

　シーナは石切りで水の上を跳ねる石ころのように吹き飛ぶ。

　続けてカイネにも爪撃を繰り出そうとするも――――

「――――【祈り叶いし時】【魔を退ける聖なる鎖とならん】――――【退魔の聖鎖（たいまのせいさ）】！」

　――――ジャラジャラジャラジャラ！！

　――――縛ッ！

「エカルラート！？」

　ヨハンナの懐から飛び出した鎖が、エカルラートの腕に巻きついた！

　あれはフロウと共闘した際、ヴァナルガンドを縛り上げた聖遺物か！

　長い詠唱をギリギリで寸止めし、俺が虎の子であるエカルラートを切ったタイミングで放ったということか。

　用意周到すぎて勘弁して欲しい。

「聖鎖の鬱陶しさは死と引き換えに身に染みておるわい！」

　――斬！

　だがエカルラートは即座に、残った左腕の爪で切断する――鎖で縛られた右腕を。

　そして逃げ帰るように俺の影に帰還する。

　鎖の方も対象を失ったことで光を失い、縮み――ヨハンナの懐に戻っていった。

「（大丈夫かエカルラート！？）」

『ギリギリセーフじゃ――ただ、【退魔の聖鎖（たいまのせいさ）】は不死性を一時的に無効化する。この戦闘中、妾の千切れた右腕は再生しないものと考えとくれ』

「【其は邪を退ける聖なる鎖】【闇を穿ちし破魔の楔】【天縫いつける魔縛の鐶（かなわ）】――」

　結界の外。

　ヨハンナは再び【退魔の聖鎖（たいまのせいさ）】を起動させる詠唱を始めていた。

　またギリギリで詠唱を寸止めし、こちらが隙を見せたタイミングで放ってくる魂胆であろう。

「（チートアイテム過ぎるだろ……！）」

『じゃが聖遺物も無条件で連発出来る程チートではない――神は必ず代償を要求する。【退魔の聖鎖（たいまのせいさ）】の場合、１度の起動で術者の鎖骨を捧げねばならぬ。つまりあと１度しか使えぬという訳じゃ』

　老婆を見れば、確かに片方の肩が不自然に下がっている。

「（あと１回――向こうも慎重になってくるはずだ）」

　それにエカルラートの右腕と引き換えに、シーナを戦闘不能に出来たのも大きい。

　深々と抉られた爪痕（そうこん）の痛々しさを見れば、もはや立ち上がることは出来ないだろう。

　残る障害はカイネのみ――と思っていたのだが。

――キィィィィィン！！

「なんだ……あれは……ッ！？」

　遠方から白い光の帯が飛来し、シーナを包む。

　するとどうしたことか、痛々しい爪痕（そうこん）が癒えていき、意識を取り戻したシーナが立ち上がる。

「不覚を取った――だが、殺しきれなくて残念だったな、真紅の吸血姫よ」

　長剣を構えるシーナ。

　ヨハンナが何かをした素振りは見えない。

　新手の存在を疑うも――どこを見てもヒーラーの姿もない。

　シーナの傷が完治したことで、今の攻防で俺達が得たものは、【退魔の聖鎖（たいまのせいさ）】を１回使わせたのみとなる。

　対するこちらの損失はエカルラートの腕一本。

　再度エカルラートを出せば聖鎖に捕まり、片腕の状態では自力で脱出することは不可能だろう。

　トカゲの尻尾切りに２度目がないように。

　ジワジワと追い詰められていくのを実感し、額から冷や汗が流れる。

「畜生が……ッ！」

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あとがき

ヨハンナが使った【退魔の聖鎖（たいまのせいさ）】は第１章のヴァナルガンド戦で、フロウが《聖痕之壱（オズワルド）》の死体から抜き取って使用した鎖と同じものです。

発動には肋骨を代償にする必要がありますが、フロウはオズワルドの死体の肋骨を代償にしたので本人は無傷でした（アリなのかそれ……）。

ちなみにカイネが使う聖遺物、《朽ち移し（ラストトゥラスト）》の必殺技、【聖砂の錆塵（せいさのせいじん）】の発動代償は心臓です。

でもフロウが回復魔法で治しました（アリなのかそれ……）。

シド「フロウ可愛い顔してコスト踏み倒し過ぎだろ……」