05 真紅の吸血姫

前回のあらすじ

自分自身にネクロマンスをかけたシドは、動く死体となってオークを倒す。

勇者パーティに復讐するため地上を目指すのだった。

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「これで5体目……ッ!」


 喉に突き刺した大剣の剣先がうなじを突き破り、オークは絶命する。

 ふと違和感を覚えて手元を見ると、小指が折れてあらぬ方向を向いていた。


「さっき大剣持ったままローリング回避した時にやっちまったか……」


 無事な方の手で折れた小指を掴んで、無理やり元の形に戻す。


 ボキボキ――と骨が砕ける音がなるも、痛みはないし問題なく動く。

 動かすたびにポキポキと音がなるのが気になるが……。


「どうせ残り少ない命だと割り切ろう……だが、ただでさえボロボロの肉体の損傷が激しい。このままだと脱出する前に肉体が壊れるかもしれない」


 自分に【死霊操術ネクロマンス】をかけてから約30分が経過。

 それまでに倒した魔物は5体。

 それでこの損耗具合。


 更に言えば、未だ1階層も登れていない。


「ミノタウロスがいた場所は地下20階層。そこまで戻れれば道は分かるし、15階層の中ボス部屋で地上に戻れるワープ装置が使えるはずだ。大丈夫、まだ間に合う――あいつらを殺すまで」


 なんとかなるはず。



 そんな希望も、曲がり角から現れた新手の魔物の姿を見て――――打ち砕かれる。



「げッ!? あいつはッ!?」



『ブルガアアアアアアアアッッ!!!!』



 回廊が揺れる程の咆哮。

 そこにいたのは巨大な二足歩行の牛型魔物。


 ミノタウロスだった。


「あの目の傷……同個体か……ここまで追いかけてきやがったのかよッ!」


 片目を奪った恨みは相当根深いようで、俺を発見した瞬間――角を突き出し突進してくる!


「くッ!」


 脇をすり抜けるようにローリング回避。

 がら空きの背中に大剣による突き攻撃をお見舞いする。



 ――パキンッ!



「折れたッ!!」


 A級冒険者である重戦士ガーレンの攻撃さえ弾いたミノタウロスの肉体には、リミッターが外れた人間の膂力を持ってしても傷一つ付いていない。

 武器が痛んでいたのもあるが、いくらリミッターが外れているとはいえ、低レベルの俺では敵う相手ではない。


 というか、リミッターを外したとしても俺はガーレンより弱い。

 復讐するにはやはり闇討ちか……。


「その前にコイツから逃げねェと復讐どころじゃねェ!」


 大剣を投げ捨てダンジョンを駆け抜ける。


『ブルガアアアアアアアアッ!!』


 無論ミノタウロスも追いかけてくる。


「くそッ! 追いつかれるッ!」


 牛型の魔物なだけあって、突進速度はとんでもない。


「しめたッ! 曲がり角ッ!」


 丁字路に突き当り、直角に飛ぶように右折。

 そのすぐ後にミノタウロスの角が突き当りの壁に突き刺さる。


『ブルガアアアアアアアアッ!!』


 ミノタウロスは壁に突き刺さった角を引き抜き、首を左右に振って壁の破片を振り払う。

 その間に俺は再び全力疾走。


「身体は疲れねェけどッ! 痛覚が無いからいつ足の筋が切れるかわからねェ!」


 ゴールが見えない鬼ごっこを続けると、正面に扉を発見する。

 他に曲がり道はなく、肩で押すように玄室に飛び込む。


「ここは……もしかしてラスボス部屋かッ!?」


 玄室の中は古い神殿のような内装で、明らかに今までと雰囲気が違う。

 ここが本当にラスボスの部屋であるなら、俺は地上に出ようとしていたのに逆に奥へと進んでいたことになる。


 実に滑稽な末路だ……。


「あれは……」


 ミノタウロスの足音が迫っている。

 にも関わらず、思わず俺は足を止めてしまった。




 そこには――――あまりにも美しい女がいて――――それは死体だった。




「まさか、真紅の吸血姫……?」



 S級ダンジョン【緋宵月ひよいづき】。

 その最奥には真紅の吸血姫がいると言われている。


 玄室の中央にいる美女の死体。

 黄金の長い髪、真っ白な肌、煽情的なプロポーションは真っ赤なドレスを纏っている。

 しかしその胸部には太い十字架の杭が突き刺さっており、そこから大量の血を流して、血だまりを作っている。


 四角い玄室の側面の壁にも死体を発見する。

 聖教会の法衣を纏った白髪の老爺の死体だ。


「あっちは人間の死体……どうなっているんだ……」


 腐りかけの脳味噌をフル回転して状況を整理する。

 真っ先に浮かんだ仮説は――S級ダンジョンのボスは既に討伐されていた。


 しかし真紅の吸血姫を討伐した冒険者と相打ちだった。

 故に真紅の吸血姫が既に死んでいることに気付く者は誰もおらず、死体だけのボス部屋が残った。

 そんな所か。


『ブルガアアアアアアアアッ!!!!』


「ッ!?!?」


 真紅の吸血姫の美貌に見とれ足を止めたせいで、ミノタウロスは既に真後ろにまで近づいていた。


 間抜けめ!

 やはり既に脳味噌が腐りかけていやがる……!


「うおおおおおッ!!!!」


 慌てて前方に飛び込むように回避。



――ドガアアアンッッ!!



 先ほどまで俺のいた床に戦斧が突き刺さり、床の破片が四方に飛ぶ。



――べちゃり



 俺はミノタウロスの攻撃をなんとか避けたが、真紅の吸血姫が流した大量の血だまりに頭から突っ込んでしまう。


「なんとかミノタウロスの攻撃を避けて、それから――がッ!?」


 立ち上がろうとするも、すぐに顔面からくずおれる。


「畜生……片足なくなってやがる……ッ!」


 先ほどの攻撃、避けれたと思っていたが、どうやら足が巻き込まれていたらしい。

 脛から先が消失している。

 痛覚がないから気付かなかった。


「こ、ここまでか……畜生……希望だけ持たせて……最後はコレかよ……あんまりだろうが……」


 無駄な足掻きと分かりつつも、匍匐前進ほふくぜんしんでミノタウロスから距離を取る。

 そしてたどり着いた先は血だまりの中心――真紅の吸血姫の元。





「俺がここまでこれたのは、無駄な足掻きをし続けたからだ……だから、最後の最後まで、足掻いてやる…………【死霊操術ネクロマンス】!!!!」





 ありったけの魔力を込め、俺は真紅の吸血姫に【死霊操術ネクロマンス】をかけた。


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あとがき

今回のAIイラストは勇者パーティのアサシン、ルゥルゥです。

勇者パーティの中で1番好きです。


イラストURLはこちら↓

https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16817330665019820413

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