03 走馬灯と死霊操術
【前回のあらすじ】
勇者パーティの荷物持ちシドは、ミノタウロスの囮としてダンジョンに置き去りにされてしまった。
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「嫌だ……死にたくない……ッ!」
奴隷として死ぬまで酷使される人生だとしても、ダンジョンに置き去りにされて魔物に殺される終わり方なんて嫌だ。
「【
ウエストポーチに手を突っ込み、今朝罠で捕まえたツバメに【
ミノタウロスに向かってツバメの死体を投げると、ツバメは息を吹き返したかのように羽ばたき――ミノタウロスの左目に衝突する!
『ブルガアアアアアアアア!?!?!?!?』
いかに高ランクの魔物であろうと、眼球を鍛えることは出来ない。
いちかばちかの賭けだったけど、成功してよかった。
「今のうちに……ッ!」
背後は俺を置き去りにしたリリアムの障壁魔法で遮られて進むことは出来ない――つまり、奥へ進むしかない!
「足が……思うように動かない……ッ!」
負傷した足を庇うように、壁に手を這わせながらミノタウロスから距離を取る。
すると先ほど重戦士ガーレンが一撃で倒したオークの死体のある場所まで戻ってくる。
「格上の魔物に対して【
オークの死体に対して【
――パリィンッ!
腕が見えない力に弾かれる。
――失敗。
やはり俺のレベルではオークを操ることは出来ない……。
『ブルガアアアアアアアアッッッッ!!!!』
背後からミノタウロスの咆哮が響く。
ズシンズシンと足音を鳴らしながら、こちらに近づいてくる。
目の痛みにも慣れて、俺を殺しにきたのだ。
「くそッ! くそッ! なんでッ! 俺の人生はこんなッ! 俺が何をしたって言うんだッ! シカイ族が何をしたんだッ!」
回廊の壁を手で支えて、負傷した片足を引きずりながら奥へ奥へと進む。
再びミノタウロスがいた玄室へと戻ってくる。
背後に意識を向けると、ミノタウロスの足音はどんどん大きくなっていくのが分かる。
「はァ……ッ! はァ……ッ! 死にたくない……ッ!」
玄室の反対側に、先へ進む扉を見つける。
玄室の横幅は回廊と違って広々としており、壁沿いに手を這わせながら進んでいてはミノタウロスに追いつかれてしまう。
痛みに堪えながら玄室の中央を進む。
そして玄室の中央まで進んだところで――
『ブルガアアアアアアアアッ!!!!』
――追いつかれた!
ミノタウロスは得物である戦斧を振りかざす。
俺は間一髪の所で前方へ飛びこみ回避する。
「なッ!? 床がッ!?」
――ミシミシミシミシッ!
戦斧が地面に食い込むと、前方へ向かってどんどん亀裂が走り、俺の足元も無数の亀裂で割れていく。
そして――床がなくなる。
「わッ!? うわあああああああああああッッッッ!?!?」
ミノタウロスの一撃で玄室の床が崩壊した!
ダンジョンの床材は瓦礫となって崩れ落ち、俺も一緒に奈落へと落下する。
崩壊に巻き込まれなかったミノタウロスが、落下する俺を見下ろしている光景を最後に、俺の意識はなくなった。
……。
…………。
………………。
……………………。
「…………?」
――意識が戻る。
死んで、ないのか?
俺は床の崩壊に巻き込まれてダンジョンの下層へと落下して死んだはず。
周囲を確認しようとするが、首が動かない。
手足を動かそうとするが、動かないどころか激痛が走る。
「いだ……ッ!?」
目も殆ど開かない。
全身は堅い物質に覆われていて、恐らく瓦礫の下敷きになっている。
手足は無論、顔面も殆ど潰れているだろう。
背嚢がクッションになって落下の衝撃を緩和してくれたんだ。
でも俺の後に落下してきた瓦礫に潰されてしまったという訳か。
「今度こそ……終わりか……」
戦斧でまっぷたつに切り裂かれて死ぬか、瓦礫の下敷きになって死ぬか、どちらがマシか考えながら、ゆっくりと意識が遠のいていく。
「……俺は……なんのために……生きて、きたんだ……?」
死を目前にして、痛みがなくなっていき、走馬灯が流れる。
『シド! 稽古つけてやるからかかってこいッ!』
重戦士ガーレンは機嫌が悪くなると、稽古と称して木刀で俺を滅多打ちにしてストレスを発散させていた。
俺の全身は痣だらけで、常にどこか怪我をしながら荷物持ちをしていた。
『ちょっとシド! アタシのお気に入りのカップにヒビが入ってるじゃないの! 満足に荷物持ちもできないの!?』
リリアムはダンジョン攻略の休憩時に使う陶器のカップを俺に運ばせており、少しでも傷がついていようものなら責め立て、奴隷の首輪を締め付けてきた。
多分カップ自体に思い入れはそこまでなくて、なにかと理由をつけて俺を痛めつけたいだけだったのだろう。
「シド、口の利き方には気をつけろよ……とはいえ、奴隷に教養を求めるというのも酷な話か。動物が人間の言葉を喋れているだけマシと捉えるべきだろう』
シルヴァンは直接俺を痛めつけることはなかったが、いつも嫌味な奴だった。
外面はよく、ダンジョンの外では人格者ぶっていて、その二面相っぷりが気に入らなかった。
そして何より……あいつは俺の足を切り裂いてダンジョンに置き去りにした……!
『…………』
ルゥルゥは……特になにもされなかったな。
いつも無表情で、俺を攻撃することも庇うこともなく、ただじっと見ているだけの奴で、他のメンバーともあんまり馴染めていなかったように思える。
「はは……走馬灯、嫌な記憶ばっかだ……」
それもそうか。
子供の時に異端狩りで奴隷になって、楽しかった記憶なんて殆ど残ってないのだから。
「…………やっぱり、死にきれねェよな」
ここで死ねば、カス共に浪費されただけの人生で終わってしまう。
できるのならば……。
「畜生……復讐……してやりたい……ッ!」
シルヴァン達は地上に戻り、新しい奴隷を購入し、そいつに俺と同じことをして使いつぶし、それでいて国民からは英雄扱いされる。
そんな奴らを生かしていい訳がない……!
でも! このままでは俺は死ぬ!
復讐できずに死ぬ!
どんどん意識が遠くなり、まぶたが開かない。
次に目を閉じたら、多分俺は死ぬだろう。
考えろ――考えろ――考えろ――生き残る方法を……!
「【
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あとがき
今回のAIイラストは勇者パーティのリーダー、勇者シルヴァンです。
格好いいね。でもざまぁ対象です。
https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16817330664972586460
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