第16話:ローザンブルクのマイスターハンター④
しばらくの間は、特に何ごともなかった。廟は三人が召喚されてきた山の中腹に建てられており、すぐ近くにある村の人々が管理してくれていた。それに加えて、勇者たちの活躍を伝え聞いた冒険者や、彼らに憧れている若者たちがひっきりなしに訪れて、常に人気が絶えなかったという。ところが、
「十年、いえ、二十年ほど経った頃でした。ローザンブルク北部――廟が建っていた山の辺りを中心にして、百年に一度レベルという大規模な地震が起こったんです」
「地震!? ……あの、メルトの村は!?」
こっちで読んだ本などの記述はうろ覚えだが、確か地盤は安定しているということだったはずだ。実際、召喚されて旅をしている間は、地震や津波といった自然災害に出くわす機会はなかった。
だからこそ、最初に訪れた村の人々の安否が気になる。慌てて訊き返したリオンの頭を、ふよふよ近づいてきたニコル老がぽんぽん、と軽く撫ぜてくれた。
「大丈夫ですじゃ。家屋の方はいくらか傷んだが、人的被害はほぼありませんでしたぞ。不自然なほど被害の範囲が限定的でしてのぅ。……今にして思えば、当時からもっと疑ってかからねばならんかったのですが」
「限定的……?」
もしひなつがいたら、真っ先に挙手して『師匠、質問ー!』って言うところだろうな。とりあえずほっとして、何とはなしにそんなことを思いつつ首を傾げると、再びセリリが話を引き取った。ひとつ頷いて、ため息交じりに続きを語り出す。
「廟が建っていた、と言ったでしょう? ……あの大地震の際、ほぼ直下からの直撃だったんですよ。ただ崩れるだけならまだしも、地殻変動で地割れが起こって、その中に落ち込んだ上に亀裂が再び閉じるという事態になりまして」
「う、うわああああ」
当時の心痛を思い出しているに違いない。美人が台無しのしかめっ面で教えてくれた相手に、リオンもベッドの上で転げまわりたくなってしまった。うん、それは確かに居たたまれないな……!
掘り起こしても出て来るかどうかすら分からない地底に呑み込まれてしまったわけで、これではいかにファンタジーな世界といえど打つ手がない。地震のすさまじさに比べると人的被害が軽微だったこともあり、『きっと勇者様たちの武器が身代わりになってくれたんだ』という好意的な解釈が成された。その上で、三つの武器は永遠に失われたという認識になっていたのである。
――それからさらに二十余年後。マルヴァを挟んで北に位置するアルテミシア王国が、『聖剣』とそれを操る『勇者』を擁し、大義名分の元で他国を侵略し始めるまでは。
「皆さんがこちらで活動されていた時期はごく短いですし、直接のお知り合いはもっと少なかったので、情報が私たちに届くまでにはさらに時間がかかったのですが……とにかくアルテミシアに行ったことがあるひとの話を総合すると、どうもその剣は『
「遅ればせながら地震の記録を検めたところ、震源地は我が国とマルヴェ、そしてアルテミシアの一部が重なる地点じゃった。今となってはほぼ禁術扱いじゃが、地脈や水脈を使って狙った場所にだけ地震を起こす、という術があっての。おそらくそれの応用じゃろうて」
「うちのばあ様、いえ、アタナシア陛下が神託を受けて、『聖剣』と勇者召喚の方法を受け取ったのも、大体そのくらいです。……黒で確定ですね、これ」
「もう真っ黒ですよ!! お身内の前で申し訳ないけどほんっと、余計なことをしてくれやがりましたよあの人は……!!!」
「……セリリ、気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着いて。リオンが困ってるから」
いえわたしは何も気にしてないんですが、と、こちらは全くもって落ち着き払っているリオンは片手をぱたぱた振ってみる。アスターに宥められているセリリ女史、今にも頭の血管が切れるんじゃなかろうかというくらいに顔が真っ赤で心配だ。いちおう仮にも身内のやらかしたことで、これ以上被害が出るのは心苦しいな……
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