第4話 追放されたのをバカにされたんだが?

 食事を済ませた俺とアモネは冒険者ギルドへ向かった。

 

 ギルドに入ると、カウンターの奥にいる女性と目が合う。

 

 俺はアモネを連れて我先われさきにという勢いで彼女の元へ行った。


「あ、デリータくん。ずいぶんと早い復帰ふっきね」


 濃緑のうりょくのギルド制服に、水色の髪の毛を肩まで垂らした彼女はウィズレットさんだ。彼女は俺を含めたGランク冒険者、つまりかけだし冒険者のサポートを任されている職員さんで、良い意味で応援してくれるお姉さんという感じだ。切れ長の目や薄い唇は彼女によりクールな印象を抱かせる。


「活動休止した覚えはありませんよ、ウィズレットさん。ところでこの子が冒険者登録をしたいそうです」

「あら、そうなの?」


 俺の紹介にウィズレットさんはアモネへ視線を向け、決まり文句を口にする――


「冒険者ギルドへようこそ。私はローヴェニカ支部の受付カウンター担当ウィズレットで」

「はーい! あたしぃ、今日からここに配属はいぞくになった受付嬢ウケツケジョーだヨ☆ よろしくねきゃぴーん☆」


 ――が、見事に新人さんに仕事を奪われてしまったようだ。肩にタックルをされたウィズレットさんがよろめきながらカウンターの端っこに追いやられる。


 どうやら受付嬢にも新規獲得しんきかくとくのライバル意識?があるらしい。大変そうだ。

 なんて声をかけたらいいかもわからないので、とりあえず見たままの事実を言っておこう。


「……ウィズレットさん、鮮やかな仕事の奪われようでしたね」

「放っておいて。新人教育の一環いっかんだと思えば寛大かんだいな心で見過ごせるわ、寛大な心でね」


 その割には目が怖いんだが。めちゃくちゃ。

 するとウィズレットさんは目に宿る鋭さを顔面全体に広げて俺に言ってきた。


「……ところでデリータくん? 彼女とはどういう関係?」

「かかか顔が怖いですって! そこで偶然会って、冒険者になりたいって言ってたから!」

「ふーん……? ま、あなたの傷が癒えるのならそれでいいわ」


 ……あれ? 思いのほか言葉は優しい……?


 予想もしていなかった優しいセリフにぽかんとしていると、彼女はちょっとほおめながら、


「顔には出さないように頑張ってるみたいだけど、私の目は誤魔化ごまかせないわよ。ギルドは冒険者同士の衝突に首をつっこめないけど、私個人としてなら――」


 と、何やらウィズレットさんがごにょごにょ言い終える前。


「え、え、なんですか……?」


 明らかに困惑こんわくしたアモネの声が聞こえてきた。


 俺はすぐにそちらへ意識を向ける。

 どうやらアモネが数人の冒険者たちに絡まれているようだった。


「ひくっ……うぇぇい、お嬢さん冒険者になるのかいぃ?」

「そ、そうですけど……」

「なら丁度いい! 俺たちベテランなんだよぉ……ひくっ。優しい紳士な俺たちが新人教育してやるからぁ……ぐへへ、色々教えてやるよ……ぉ!」


 うわー、まじで気持ち悪いおっさんだ。アルコールでとろけた目はアモネの胸に釘付くぎづけで、鼻の下もだらしなく伸びきっている。つーか今にも触りそうだ。


「ウィズレットさん、あれ止めたほうが」

「ギルドは冒険者同士の衝突トラブルに口をはさめないの。どうにかしたいならあなたが動きなさい」

「あーあーそうでしたね」


 まったく身勝手な人たちだ――と思いたいが、実はちゃんと理由があるんだよな、このルールには。


 ともかく俺はアモネとぱらい冒険者たちの間に割って入り込んだ。


「おいアンタら。彼女嫌がってるだろ。手を放せ」

「なんだと偉そうにィ……っておい、お前もしかして⁉」


 酔っ払いの一人が俺を指さした。続けて仲間同士で顔を見合わせる。


 やがて。


「ディオスのパーティ追放された野郎じゃねぇかーっ!」


 爆発するような笑いが眼前で巻き起こった。


 酔っ払いたちは体をよじりながら俺に嘲笑ちょうしょうを向けてくる。


 まー仕方ないよな。追放された側はどうしてもバカにされてしまう傾向がある。だが……


「そんな無能で役立たずなチミが、俺たちBランクのベテランにかなうとでもぉ?」


 ――それが頭に来るか来ないかは全く話が別だ。


 俺はあおり散らすような笑みを存分ぞんぶんに浮かべてベテランへ言いつのる。


「え、アンタたちBランクなの? へぇー、Bランクのくせにギルドで酒におぼれて抱く女の一人もいないのかー! だから新人に手を出そうって魂胆こんたんね、あーはいはい、わかるわかる酒臭いだけの不潔ふけつなおっさんに寄ってくる女の子はいないもんなー」


 言ってる間にもベテランの顔には怒りがにじんでいく。やがて俺が啖呵たんかを切り終える頃には烈火れっかのごとく怒り狂っていて、


「テメェ殺す!」


 次の瞬間、全員がまとめて殴りかかってきた。

 ちょっとは手加減しようと思ったが……こいつらには一泡吹かせておいた方が良さそうだ。


「……誰が誰を殺すって?」


 消去――心の内で唱えた瞬間、俺とベテランの間に広がる床がきれいに消え去った。

 瞬間、足場を失った男たちは、情けない悲鳴とともに俺の視界からフェードアウトする。 

 床下に落下した男たちは、その衝撃と痛みにひどく悶えているようだった。


 俺は穴底を覗きこみながら、


「このまま閉じ込めてもいいんだぞー」

「わ、悪かった……謝るから、ここからあげてくれぇ!」

「どうしよーかなー? でも追放された俺なんかには人を持ち上げる力なんてないしなー」

「た、頼むよぉ! 許してくれぇえ……」


 いやまぁ、俺にはもうどうしようも出来ないんだけどな、本当に。うん。


「デリータさんっ! ありがとうございます……怖かったです……」


 アモネが背中から抱き着いてくる。やれやれ、彼女のこれからが心配しんぱいおっぱい柔らかすぎんか?


 さすがに床をくりぬかれては困るのか、ギルド職員や他の冒険者らが大急ぎでベテランたちを引き上げようと奮闘ふんとうする最中さなか


「君たち、何をやっているんだ!」


 ふいに俺の耳を叩くさわやかな声。見やると、全身にしかも高価そう!をまとった金髪の男が立っていた。

 背に刺さる幅の広いさやからは、俺の腕ほどの太さもありそうな剣柄が飛び出ている。


 ローヴェニカ支部で一番の有名人が、けわしい表情でこちらを見据みすえていたのだ。

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