第37話 賭け
――アカデミーテスト会場。
「これで全体の三分の一か……」
テストを受ける人数は、八国から全部で150人程集まっている。この場にいるのはその三分の一程度だ。
筆記テストなら一斉でもいいのだろうが、強さや将来性の測定となるとこの人数を一斉に行うのは難しいからな――審査官にも一定水準の能力が求められる。なので、テストは三組に分かれ全て別日に行われる。因みに、俺達の組はその中で最終日だ。
「この組の殆どが落ちてくれる事を祈るよ」
アカデミーに入れるのは50人程と言われている。つまり、三分の二は落ちると言う事だ。
「手厳しいっすね」
俺の言葉に、ネイガンや他の騎士達が苦笑いを浮かべる。若干他人事の様な反応をし見せているが、落ちて欲しいのはこいつらも一緒だ。まあそれを口にする程野暮ではないが。
「このレベルじゃ、魔王との戦いで全然あてにできそうにないからな」
ざっと見渡した感じ、大した奴は会場内に見当たらない。ここにいる程度の奴らが大量に残ってしまう様なら、本格的に、仲間を当てに出来ないと考えた方がいいだろう。
まあ、俺ですら見抜けない程の力を隠している奴がいるかもしれないが……
正直、期待薄である。
「おやおや、フェイガル王国の人間は随分と大口を叩くのだな」
ザケン王子が此方へと話しかけて来た。少し離れた場所で配下の人間と話していたのだが、どうやら俺の言葉が聞こえてしまった様だ。ま、聞かれても困る様な事は全くないから別にいいが。
「とてもそんな口を叩けるだけの実力がある様には、到底見えんのだがね」
ザケンが俺を値踏みする。まあ見た目だけなら、正直自分でもたいして強そうには見ないから、そう言う評価になるのも仕方ないだろう。とは言え、ある程度実力のある人間なら俺の力を見抜けるはず。つまり、こいつもハズレである可能性が高いと言う訳だ。
「ザケン王子。このミツルギ殿は王国最高の冒険者でして……その実力はかの魔王と戦い生き延びたほどの方です。ですので、先ほどの発言も自らの強さに自負する者でして、決して周囲を腐する意図は御座いません」
「ふん、自負?生き延びた?逃げ延びたの間違いではないのかね?もしこの男が雄々しく戦い抜けていたなら、王国はあれ程のダメージを被る事も無かっただろう。違うかね?」
根遺残の説明を聞き、ザケンが俺を鼻で笑う。奴の背後にいる、配下の取り巻き連中もだ。
まあだがそう判断するのも仕方ない事ではあった。あの魔王の実力を知らなければ、奴に狙われて生き延びる事がどれ程困難か、まず理解できないだろう。
まあかくいう俺も、生き延びたって言うよりかは、死なずに済んだってのが正解だしな。もし本体とのつながりが無かったら、今頃あの世行きだったはずである。
「ザケン王子。どうかなさいましたか?」
用事があって少し離れていたエナイスが戻ってきて、ザケン王子に問いかける。彼女からすれば、自分が居ないのに『なんで?』といった感じだろう。
「おお、エナイス様。実はこの者が、愚かな発言をしていた物でしてね」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。この場にいる者達では、魔王討伐の足手纏いにしかならないと。そう大口をたたいてましてね」
別に大口をたたいたつもりは全くないんだがな。冗談抜きで、この場にいる様な連中では話にならないし。まあ物語の主人公宜しく、とんでもパワーに目覚める様な奴がいるなら話は変わって来るが……そんなあるかないかもわからない、不確かな物に期待するほど俺は楽天家ではない。
「ザケン王子。ミツルギには、私の方から強く言い聞かせておきますので……」
「まあエナイス様がそうおっしゃるなら私も……そうそう、実は折り入ってお話がありますので、テストの後に私の部屋でゆっくりと――ぬっ!?」
ザケンがエナイスの手を取ろうとしたので、俺は素早くそこに割って入った。奴が態々、俺なんかの言葉に絡んで来た理由を理解したからだ。
なんで一々絡んで来たのかと思ったが……要は配下の失態を突いてエナイスに負い目を作り、コントロールしようとしてた訳だな。狡い奴だ。
ぶっちゃけ、エナイスがどうなろうと俺の知った事ではない。そもそも、二人はいずれ結婚する間柄だ。俺が首を突っ込む理由など皆無である。だが、その行動が俺をだしにした物なら話は変わって来る。
不快な相手に、いい様に利用されたムカつくだろ? まあそう言う事だ。
「俺は第三者から咎められる様な発言はしていませんよ。ザケン王子」
「なんだと貴様……」
「実際……俺から見ればこの場にいる様な者達は、愚にもつかないレベルですから。テストの結果でそれを証明して見せましょう」
テストの総合判断は、最終結果を見るまでは分からない。だが測定する項目ごとの点数はその場で表示されるらしいので、少なくとも、現時点での能力はテスト中に知る事が出来る。
「冒険者風情が大きく出るではないか」
「自信がありますので」
「くくく、凄まじい自信だな。面白い……エナイス姫、折角なので賭けを致しませんかな?」
ザケンが何かを思いついた様な嫌らしい顔をしたかと思うと、急にエナイスに賭けを持ち掛ける。
「賭け……ですか?」
「ええ。この者の成績が会場内の誰よりも優れていた場合、私は貴方の願いを一つ叶えましょう。その代わり……そうでなかった場合、姫様に私の願いをかなえて頂く。どうですかな?」
ザケンの願い事は聞かなくとも想像がつく。とことん俺との事を利用する気の様だ。
「……そうですね。分かりました」
その提案にエナイスが少し迷う素振りを見せたが、程なくし彼女は賭けを承諾する。
……絶対笑ってたな。
迷う素振りの際に手で口元を隠していたので周囲は気づいかなかっただろうが、俺にはそれがハッキリと分かった。勝ちが確定している賭けを持ち掛けられて、ラッキーとでも考えている事だろう。
これでもしわざと負けたら、エナイスはどんな反応を示してくれるだろうか……
そんな考えが頭を過るが、まあやらない。そこまで性格が悪くないと言うのもあるが、もし手を抜いてテストで落第させられたら目も当てられないからだ。
「おお、そうですか!」
賭けが通って喜ぶザケン王子。そして顔や態度には出さないが、勝利を確信して腹の中で笑うエナイス。王族はどう転んでも碌なのしかいねぇな、と思いつつも俺はテストを受けるのだった。
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