第32話 勝負

 俺は現在、フェイガル王国の王宮にいた。正確にいうなら、その南側にある騎士達の訓練場である。


 王宮は魔王の襲撃で滅茶苦茶になったらしいが、そういった痕跡は一切見当たらない。この半年で修繕を完璧にこなしたのだろう。


「さて、見せて貰おうか。魔王と戦った力――」


 そして開けた空間で、ある一人の騎士と対面していた。勝負する為に。


 何故騎士と勝負するのか?


 新設される対魔王用訓練学校――ヒーローアカデミーに、俺はフェイガル王国の代表として参加する事になった訳だが……実はこれ、エナイス王女の半独断だったりする。そのため、実力を示す必要があると言う訳だ。代表として参加する実力があるかの。


「いや違うな。魔王から上手く逃げ延びた力か」


 少々ふざけた話ではあるが、まあ仕方ない事ではあった。魔王と戦い生き残ったという実績は、単に逃げ延びただけともとれるからだ。実際、目の前の騎士なんかはそう考えている様だし。


「あんたじゃ、逃げ出す間もなく死んでただろうけどな。良かったな、現場に居合わせなくて」


 挑発し返す。これから魔王を倒そうと言うのだ。力を隠す意味はない。むしろここで見せつけ、同級生の舐めた態度をしつけた方が学園生活が快適になるという物。


 ああ、同級生ってのはこれから勝負する騎士や、この場で勝負の行方を見守る騎士達の内の何名かの事だ。代表としてアカデミーへ入学するのは俺だけじゃないからな。


「舐めるなよ。俺があのとき間に合ってさえいれば、魔王に好き勝手はさせなかった。ただ逃げただけの貴様と一緒にするな」


 短髪の騎士。ネルガンが俺の言葉に表情を強張らせた。その肩書は、南方方面軍精鋭部隊の隊長だそうだ。本人は王国最強を自負してて、魔王による王宮襲来時、自分がその場にいれば何とかなっていたはずと。そんなメルヘンな考えをもつ残念思考の持ち主となっている。


「そうかよ。まあゴチャゴチャ言い合ってても仕方ないから、さっさと始めよう」


 此方の言葉を信じる気のない相手とのやり取りは、水掛け論にしかならない。不良が顔近付けて睨み合い『あぁーん』とか『おぉーん』とか唸ってるのと大差ないレベルの不毛な時間になるので、さっさと勝負を始める事にする。


 あ、因みに俺が召喚された勇者である事は王族だけの秘密で、騎士達等には知らされていない。召喚した勇者まおうに王宮を滅茶苦茶にされているので、勇者という肩書は忌避される物になっているから。


 というのもあるが、最大の理由は、勇者召喚自体が世間に伏せられているためだったりする。


 エナイスが勇者召喚した結末が魔王な訳で、それが周囲に知られると他国からとんでもないレベルの非難が集まるのは目に見えていた。それを避けるため、フェイガル王国は魔王に関して知らぬ存ぜぬを貫いていると言う訳だ。


 魔王を倒した破竜帝は知っているみたいだが、裏取引でなかった事になっているそうだ。為政者ってのはどこの世界でも汚い物である。


 ああ、言っとくけど、俺もそれを態々周囲に漏らすつもりはないぞ。魔王と同類と見られていい事なんか一切ないし。


「よかろう!貴様のその鼻っ柱をへし折ってくれる!!」


ネルガンが腰にかけていた剣を引き抜く。と同時に、審判から開始の合図が下される。 俺の方も一応剣を引き抜き、片手で軽く構えた。無手だと『見下しているのか!』とかって無駄に騒ぎそうだったから。


 さて、それじゃいっちょもんでやるとするか。

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