悪役貴族に転生した俺は悪魔と契約して魔王になる~聖女である王女を助けたら、魔王候補がバレてしまった・・・

煙雨

第1話 追放と出会い


(やっぱりここは【勇者と王女の平和世界へ導く】の世界なのか)


 実家を含む悪役貴族の汚名をすべて擦り付けられて、暗殺されてしまうキャラであるダイラル・アークレイ。


 そんな存在に転生してしまった俺は、両手を縛られた状態で国王の前に立たされていた。


「ダイラル、そなたを国外追放とする」

「......」


 あたりを見回すと、蔑む眼差しを向けてくる貴族が大半ではあったが、少なからず不気味な笑みを浮かべる貴族が存在していた。その中には、父親と兄貴は笑みを浮かべていた。


「本日中にこの国から出ていくように。そうでなければソナタを指名手配犯とする」

「わかりました」


 実家から向けられる不気味な笑みを背に、この場を後にした。


 王宮から出ると、国民たちから蔑むような視線を向けられる。


(嫌な視線)


 俺が奴隷斡旋をしていたわけではない。運悪く白羽の矢が俺に向けられただけ。こんな状況で生きていこうと考えられるほど、人間は強くはない。


 この国すべてを敵に回してしまったようなものだから。


(これからどうするか……)


 俺は国民たちと会わないように実家へ戻ると、玄関前には父親と兄貴が笑っていた。


(なんなんだよ)


 そう思っていると、父さんは俺へバックを投げつけてくる。


「アークレイ男爵家の汚物であるお前がこの家に出入りすることすら許されない。これをもって早く出て行け」


(元はと言えば、おまえたちのせいだろ)


「絶対に復讐するからな」


 俺はボソッとつぶやきながらバックを手にして、すぐさまこの家を後にしようとしたところで、一人の女性が俺の後をついてきた。


「ダイラル様、旦那様が言っていたことは本当なのでしょうか?」

「君はどう思う?」


 はっきり言って、ここで否定したところで意味がない。そう思っていると、涙を浮かべながら言われる。


「私は信じています。ダイラル様がこのようなことはしていないと」

「いずれわかるよ」


 捨て台詞を吐いて、この場を後にした。


 まず最初に身分証明書が必要ということで冒険者ギルドへ行くと、怪訝そうな表情をされる。


「何の用ですか?」

「ギルド証を発行していただきたくて」

「あなたに発行する意味がありません」


(まあ、そういわれるよな)


 でも俺の身分を証明するためにも、ここで引き下がるわけにもいかない。


「冒険者ギルドとは中立の立場ですよね? 発行ぐらいはできるはず」

「……。わかりました」


 そう。犯罪者であろうと、ギルドに属してから犯罪を起こさなければ向かい入れてくれるというのが冒険者ギルドである。

 

 ギルド証を発行してもらうと、周りから小声で嫌味を言われる。


 ゴミやなんで生きているんだ? など、様々な言葉。


 はっきり言って、ゲーム知識を思い出していなければ、立ち直ることができなかっただろう。


(まあいい。これからしばらくはこの国に用がないのだから)


 俺はすぐさまこの国を出て、隣国へと向かい始める。


 運がよかったことに、隣国へ行く馬車がこの国の住民ではなかったため、乗せてもらえた。


 それから一週間ほど、馬車に揺さぶられていると、森林で大きな爆風が起きた。


(なんだ!?)


 馬車の運転手に頼まれて、あたりを見に行くと、そこには見たことも無いモンスターと死体の山と一人の女性がいた。


 すると、モンスターが俺に気づく。


(どうする、どうすればいい……)


 前世の知識を手に入れたとは言え、ダイラルはモブキャラであり、情報がまるっきしない。何をすることができるのかすらわからない。


 その時、耳元で聞いたことの無い声が囁く。


「面白いな。あいつらと違って、こいつは何にも自身の力に気づいていねぇ」

「誰だ!?」

「まあいいや、力を貸してやろうか?」

「……」


 誰なのかもわからない状況で力を借りることはできない。


「いいのか? 迷っていると、お前もそこにいる嬢ちゃんも死ぬぞ」


 こいつの言う通り、今の俺じゃ目の前にいるモンスターに勝つことはできない。


「わ、分かった」


 すると、頭の中に一つの魔法が浮かび上がってくる。その言葉を言う。


死炎ヘルフレイム


 俺の言葉と同時に手の上に小さな炎が現れ、モンスターへ向かって放つと、あたり一面が黒い炎で包まれる。


 目の前にいたモンスターは消し炭になってしまう。それと同時に、ドッと力が無くなり、膝を崩す。


(なんだったんだ?)


 そう思っていると、女性がこちらへ近寄ってくる。


「た、助けていただいてありがとうございました」

「い、いぇ」

「でも、あなたからは……」


 そう言いながら、警戒していた。


(まあ、変な力を使ったら警戒するよな……)


 だけど、そんなことは関係ない。俺は周りを見回しながら手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?」

「え?」

「怪我をしていますし、仲間も……」


 俺の言葉で、やっと今の状況を理解したのか、少し考えたそぶりを見せた後、俺に言った。


「一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」

「何ですか?」


 どうせ、近くの隣国まで案内してくれとかだろうと安直に考えていた。だが、それを遥かに超える内容であった。


「お父様。いえ、エルライン王国の国王に合わせるように助けていただけないでしょうか?」

「は?」

「自己紹介がまだでしたね。私は、エルライン王国第二王女、アリア・エルラインと申します」

「……」


(アリア・エルラインって、このゲームのヒロインじゃねーか!!)



 アリアと言えば、この世界で唯一存在する聖女。


 でも、なんで俺と出会うんだ。確かアリアは勇者と出会い、一緒に魔王を討伐するために冒険するはず。そして、最後には勇者と結ばれる存在。


「私には成せばならないことがあります。そのために、お父様と会わなければなりません」

「国に戻れば普通に会えるのでは?」


 そう。ゲーム世界では、エルライン王国は安全な国であった。


(てか、ゲーム序盤から勇者とアリアは知り合いじゃなかったか?)


「それができれば苦労しません。お願いします」


 長い金髪が垂れ下がりながら頭を下げてくる。


「わ、分かりました。ですが、今の状況を教えていただいてもよろしいですか?」

「はい」


 この出会いが、俺の人生を大きく左右する。俺がなんの力を持っており、この世界にどれだけ多大な影響を与えてしまうのか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る