第12話 弟子入り試験――①
それから数日後。
迷宮区の第9層にオルティナとラピスの姿があった。
「お、オルティナ様……これって……」
「賑わってるね」
「野郎どもぉぉぉ、準備は良いかぁぁん!?」
「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」
2人の視線の先で、たくさんの探索者たちが雄たけびを上げる。
その人数たるや普段9層で攻略している探索者の数倍は居るだろうか。
「オーケー! みんな気合十分みたいで俺ちゃんも嬉しいぜぇ!
それじゃあこれより大型コラボイベント『エメラルド・バード捕獲作戦』のスタートだぁぁぁん!!」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
派手な紫色のタキシードを着た司会の男がそう言うと、集まった探索者たちはより一層の雄たけびを上げた。
ラピスが口をパクパクさせながらオルティナを見る。
「ま、まさか試験って――」
「そう。このイベントで優勝……誰よりも早くエメラルド・バードを捕まえられたら、弟子入りを認めてあげる」
オルティナがフッとしたり顔で言ってのける。
エメラルド・バードとは第10層に生息する、鮮やかな緑色の鳥だ。
普段は中層の森林地帯に居るその鳥は、年に一度、繫殖期になると巣作りのために廃墟群のあるこの第9層へと上がってくる。
彼らは瓦礫などの人工物で堅牢な巣を作るのだ。
なおエメラルド・バードは魔核を持たない動物――つまりモンスターではないため、取り立てて層まだぎと呼ばれたりはしない。
では何故これほどの探索者が集まり、捕まえようとするのか。
答えはシンプルに『儲かるから』である。
人の手より少し大きなその鳥の、綺麗な羽毛は装飾品として人気で、それはそれは高く売れるのだ。
普段、中層まで潜れない駆け出しの探索者たちにとっては一攫千金にも等しい額になる。
さらにこうして大型のコラボイベントとして開催されることで、優勝すれば配信者としても名を売ることが出来る。
そのためこれほど多くの探索者が集まっているというわけだ。
だが、それは同時にライバルが多いということで。
ラピスが勢いよく首を左右に振る。
「む、無理です無理です! 私、まだ魔法も使えないんですよ!?
空を飛ぶ相手を生け捕りにするなんて、とても……」
「そう。じゃあ不戦敗ってことで試験は不合格でいい?」
「なぁっ!?」
「別にそう理不尽な話でもないでしょう。
ここに居るのは貴女と同じ駆け出し探索者ばかり。
つまり魔法が使えない人だって多い。条件はイーブンのはず」
「それは……そうかもしれないですけどぉ……」
「そもそもね。私の弟子になりたいって言うのなら――せめて自分が、他の人とはひと味違うってところを見せてもらわないと」
「っ――!」
「そうじゃないと、いよいよ私に貴女を鍛える理由がないでしょう。
私、これでもそこそこ忙しいから。
有象無象に稽古をつける時間はないの」
オルティナがそう言うと、ラピスは腹をくくったのか。
真剣な顔で居住まいを正した。
「分かりました。確かにオルティナ様のおっしゃる通りです。
では……私があなたの弟子を名乗るのにふさわしいということを、この試験で証明して見せます!」
(ちょろいなぁ……)
「それでは行ってきます!」
「あぁ、うん。頑張って」
集まった探索者たちの輪の中へ駆けていくラピスを見送り、オルティナは一人ほくそ笑む。
上手くいった。
一番の懸念は彼女がこの試験を受け入れるかどうかだったが、言いくるめに成功したようだ。
これで賽は投げられた。
後は試験の結果次第だが――まず無理だろう、とオルティナは考えていた。
先ほどラピスに『条件はイーブン』などと言った彼女だが、魔法を使えるか使えないかには天と地ほどの差がある。
今回を例に挙げれば、翼が存在する者としない者で飛距離を競うようなものだ。
後者に勝ち目はほとんどない。
それはオルティナもよく分かっている。
だからこそ、このイベントを試験に選んだわけだが。
『オルティナ様は私の理想の探索者なんです!』
「……見る目のない子」
これで半月に及んだ弟子入り志願も終わりを迎えるだろう。
それは喜ばしいことのはずなのに、真剣に説明を聞いているラピスの横顔を見ると、何故か胸がチクリと痛んだ。
「それじゃあ最後にルールの説明だ!
といっても守らなきゃいけないルールは3つだけ。
1つ、参加できるのは探索者ランク2以下の探索者のみ!
2つ、エメラルド・バードは生け捕りにすること!
傷つけたり、うっかり仕留めちまったら罰金もあり得るぞぉ!
3つ、他の探索者への妨害は有り!
ただし重傷を負わせるような攻撃は即失格だ!
2つ目のルールと合わせて注意してくれよな!
説明は以上だ! 質問は……あっても受け付けねぇぜ!?
さぁ位置につけ! エメラルド・バード捕獲作戦――スタートだぁぁぁ!!」
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