距離の近さと親密度(2)

「それが噂の、食べ応えのあるきのこなんだ」


 鍋に放り込まれる大きなきのこへの興味に、私は立ち上がって鍋の近くに寄った。

 エリンギに似ているが、お化けサイズだ。カサハがナイフで二等分にした片割れが、普通のエリンギくらいある。


「いっぱい採ってきたね……」


 四等分のサイズで次々投入されるきのこに嫌そうな顔をしながらも、ちゃんと鍋の番はしてくれるルーセン。

 カサハの横で、美生が洗い終わった山菜を入れてくれる。


「カサハさんたちも戻ってきていたんですね」


 結界を張りに行っていたナツメも戻ってきた。


「はい、アヤコ」

「ありがとう」


 まじまじと鍋を覗いていたせいで、余程の空腹と思われたらしい。真っ先に、ルーセンに出来上がったスープが入った器を手渡される。

 私はそれを持って、元いた場所にまた座った。

 美生、カサハ、ナツメの順にルーセンがスープを渡して行く。

 それからルーセンがそのまま鍋の側に――私から見て左斜め前の草むらに座り、ナツメは鍋からある程度離れた右斜め前に、カサハは鍋を挟んで正面に座った。

 美生は――カサハの右隣に座った。

 すかさず手にしていた器を脇に置き、懐からメモを取り出す。ペンも取り出し、広げたメモの該当箇所にチェックを入れる。

 その流れで、『カサハのルートが進行した場合』の子階層に書かれた文章を目でなぞる。


(っと、いけない。スープが先ね)


 つい読み耽りそうになり、私は一度メモを仕舞って、置いていたスープの器を手に取った。

 器に入った状態で一緒に渡されたスプーンで、ゴロッとスプーンからはみ出るきのこを持ち上げる。

 スープとともにパクリと一口。

 もぐもぐ

 もぐもぐ

 これが「もぐもぐ」という擬音かなと思うほど、とにかく噛む。

 硬いわけではなく、もちもち食感という奴だ。きのこよりその手のパンに近く、その手のパンよりさらにもちもちしている。その割にスープの味付けによく馴染んで、このきのこが入っただけで、色んな料理が主食に早変わりしそうだ。


「アヤコ、難しい顔をして食べてるけど、アヤコも実はきのこが苦手だった?」


 両足を投げ出して完全に寛いだ体のルーセンが、尋ねてくる。


「ううん、美味しいわよ。美味しいけど……顎が疲れた」


 完食し、一息ついたところでそう返せば、ルーセンに言ったはずが何故かカサハまで食事の手を止めてこちらを見てきた。


「食べるだけで疲れるなんて。アヤコ、軟禁生活長かったの?」

「それは難儀だったな……たくさん食え」

「だから軟禁されてたわけじゃないってば」

「回復魔法は要りますか?」

「ナツメは笑いながら聞かない」

「補助魔法でも試してみましょうか」


 口の減らない男を軽く睨んだところで、ナツメが立ち上がってこちらへと寄ってくる。

 まさか本当に魔法を掛けに来たのだろうか? 正面に跪き私の手まで取ってきたナツメにそう思った瞬間、


「わっ」


 私は軽くぶつかるほど、彼の方へと引き寄せられた。

 耳にナツメの息が掛かるほど、距離が詰められる。

 これは一体どういう状況?

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