第2話

「綾香、ここの料理は評判いいからな」


「うふ。ステキなお料理ね。ありがとう」


父はいつから「綾香」だなんて呼び捨てで呼ぶようになったのだろう?

なんとなく、二人の関係が馴れ馴れしく感じ、私は不愉快になった。


父は口元を拭うと、改まってこう言った。


「美緒、大切な話がある。実は父さん……綾香と結婚するんだ」




「……え?」


頭の中が真っ白になった。

父さんが再婚?

それも、看護師の綾香さんと?

ということは、綾香さんが私の新しいお母さんになるの?


「美緒ちゃん。今日から私は、美緒ちゃんのお母さんになるの。これからもよろしく」


綾香さんは笑顔でそう言った。

何がなんだか、さっぱり理解できない。

何と言えばいいのか分からなかった。

父さんの顔も、綾香さんの顔も、私はまともに見ることができなかった。


窓ガラスに目を移した。

お母さんに買ってもらったワンピースを着ている私が映っている。


……お母さん……


我に返った。

私は父を見据え、こう言った。


「お母さんが亡くなってからまだ2ヶ月しか経ってないのよ! それなのに再婚するの?」


「……あぁ。美緒も母さんがいなくて家のこととか大変だろう。これからは綾香が母さんとして、いろいろやってくれる。美緒、新しい母さんにちゃんと挨拶しなさい」


ボロボロと涙が溢れ出してきた。


「……何の相談もなく、どうして……」


「美緒に相談しなかったのは悪かったと思っている」


「悪かったって何? 私が何を言っても言わなくても、再婚するって決めてたんでしょ?」


大声で父をなじりたかった。

けれど、ここはレストラン。そんなことをするわけにはいかなかった。

反抗することを見越して、父はあえてこのような場所で話をしたのだろう。

そんなしたたかさにも腹が立った。


心の底から食事を楽しめない……


「あら、美緒ちゃん、泣いているの? 泣くほどおいしいのかしら。私も食べてみるわ」


綾香さん、それ、どういうつもりで言っているの?

この涙、食事がおいしいから、なわけないでしょ!

父を奪って、私が悲しむ姿を見て、さぞや満足なのでしょうね。


涙を拭き、綾香さんを見据えてから、あえて強気でこう言った。


「ええ。とってもおいしいです」


「そうかそうか。それはよかった」


引きつった笑顔を浮かべて、父はそう言った。

この場をなんとかいい雰囲気にしようと必死なのだろう。

私は言い放った。


「よくない!」


そして、感情的にならないように気をつけてこう言った。

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