ホームレスの戯れ言
倉住霜秋
第1話
僕は何か困ったことがあったら、近所の橋の下に住むホームレスのおじさんのところに行く。
お母さんもお父さんもそのホームレスのことはよく思っていないから、これは内緒にしてある。
今日はおじさんに僕の好きな本を持っていった。
「おじさん、僕学校が嫌いになっちゃったよ」
「本、ありがとな坊主。それでなんでまた。」
「なんかね、それがわからないんだ。ただ、ちょっと行きたくなくなって、そしたら少しだけ不登校みたいになっちゃったんだ。」
「それはいい。自立への第一歩だ。」
「不登校が?」
「そうだ。学校を休むやつは将来有望だぞ。俺だってよく休んだもんだ。」
「なら、ちゃんと学校にいったほうがいいね。」
「そう言うがよ坊主、学校は居心地がいい場所じゃねーのは確かだろ?」
「うん、なんでだろ。なんでかはわからないんだよね」
「ならどんなときに嫌だってなったんだ?」
「道徳の時間にもうだめだってなった」
「どんな時間だった?」
「山火事になって動物たちが逃げ出すんだけど、小さなハチドリがくちばしに水を入れて消火しようとするんだ。それを見て動物たちがね、笑うんだけど、ハチドリはどんなことを考えて水を運んだかを、クラスで考えようって授業だった」
「そんなチビナスに考えなんてあるわけないだろ」
「だけど物語には心があるんだよ」
「確かにな。それで、坊主は何て言ったんだ?」
「現実逃避だって言ったんだ。目の前に無理なことがあって考えたくないからそんなことできるんだって言ったんだ。」
「そしたら?」
「ふざけるなってみんなに言われた」
「坊主!学校なんか休んじまえ!」
「どうしたの急に」
「俺は坊主の考えは素晴らしいと思う。」
「だけど、みんな笑いながら否定してくるんだ」
「なら、学校を燃やしちまえばいいんだ。それで、そいつらがどんな行動をするか見てやろう。」
「…きっとみんな逃げるよ」
「そうだろうな。学校が火だるまになってるのに、口に水を含んで消火しようとするやつなんていないだろうな」
「それ考えたら面白いね」
「そうだ!笑っちまう位に馬鹿馬鹿しい話なんだ。それを授業でやっちまうんだから、そんな学校役に立たん」
「…僕、どうすればよかったのかな」
「『そのハチドリは焼き鳥になりたかったんだと思います』って言って笑い飛ばせばよかったんだ。そして教師やクラスメイトの鼻っ柱を折ってやれば、俺の今日の酒は最高に旨かったのに。」
「また安酒飲んでる…」
「いいかよく聞け、この世は理不尽だ。不平等で、どうにもならないことばかりさ。今日の坊主みたいにな。だから、そういう奴らのためにこれがある」
「僕があげた本?」
「そうだ!まずは本だな。次にお笑い、次にエロ本、最後に歌だ。」
「全部おじさんの好きなものじゃないか」
「だからだ。この理不尽な世界を生きていくためのロクデナシ達が編み出した処世術だ。」
「どう言うこと?」
「社会はつまらないってことだな!」
「よくわからないよ」
「それでいいんだよ」
「理由なんて無くたってどっちでもいいんだ」
「なら、学校行かない理由もなくていいの?」
「当たり前だろ!第一にな理由なんてのは後から付いてくるものなんだ。理由を考えてから行動したって面白くねぇ」
「…酔ってなかったらかっこいいのに」
「おいおい、坊主はよ、何かあったら俺を頼るだろ?」
「うん。お母さんもお父さんも話を聞いてくれないんだ。」
「だろ?だから、俺は酒に頼ってる訳だ。」
「頼る人はいないの?」
「…長生きはするもんじゃねーのさ」
「…でも、おじさんありがとう。なんか僕前に進める気がするよ」
「おうおう!また学校のくそったれな話を持ってきてくれよ!」
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