第38話 治療終了

 ブレイブのお母さんの治療を初めて数日がたった。


「グラリスさん、ランドさん、本当にありがとうございます。大したお礼は出来ませんが……」


「いえいえお礼なんて大丈夫ですよ。僕も治療の勉強になりましたし」


 お母さんはすっかり元気になり歩けるようにもなった。


「ブレイブ……あなたもありがとうね」


 そう言ってお母さんはブレイブの頭を撫でた。

 ブレイブの目には涙が浮かんでいたが、誰もそれには触れなかった。


「お母さん……僕……グラリスお兄ちゃんみたいになりたいよ」


「……え?」


 俺は咄嗟に声が出てしまった。

 お母さんは静かにブレイブの話を聞く。


「僕も人の役に立てる人に……たくさんの人を助けられるように……大切な人を助けられる人になりたい」


 気が付いた時には俺の目からも涙が流れていた。それに気が付いたのは師匠だけだった。


 師匠は優しく俺の背中をポンッと叩く。

 俺を目標にか……もっと頑張らないとな。


「ブレイブ。立派な目標を持てたのね。お母さんも頑張らなくちゃ」


 ブレイブはお母さんの胸の中に飛び込んだ。俺は涙を拭きお母さんに話しかける。


「これで一応治療は終わったので数日間は安静にしていただいたら恐らく、仕事もできるくらいにはなると思いま……」


 あれ……? 身体に力が……


 いきなり身体中の力が抜け、床に倒れ込んでしまった。


「グラリスさん!?」


「グラリスお兄ちゃん!?」


 意識があるまま俺は起き上がれずにいた。

 くそ……なんでだ? 昨日までは大丈夫だったはずなのに……


「悪性魔力の吸いすぎじゃな」


「それって……大丈夫なんですか!?」


 お母さんと師匠の会話が聞こえる。


「まぁ大丈夫じゃよ。今からワイが悪性魔力を吸い出すからのう。グラリス聞こえてるかー? お前さん悪性魔力吸うだけ吸って放出できてなかったんじゃよ。だからあんたの魔力も悪くなったんじゃ」


 ……そういう事か。

 …………ならなんで早く教えてくれなかったの!!!



「な、、、で、お、ぢ、、え」


「喋るな。死ぬぞ。それくらいわかっちょると思っとったわ。しばらくは魔力も少ないままじゃろうな」


「グラリスさんごめんなさい……」


「なーにあやまっとるんじゃよ。今は治ったこと喜べじゃ。グラリスもすぐ動けるようにはなるから安心せい」


 そう言って師匠は俺の治療をしてくれた。

 ……無念。


 ──────


「本当にありがとうございました」


「こちらこそお世話になりました」


「ほらブレイブ挨拶は?」


「グラリスお兄ちゃん……僕絶対お兄ちゃんみたいになるから!!! なんならお兄ちゃん超えるから!!! ……また会える……よね……?」


 可愛いなブレイブは。まぁ、少し臆病かもしれないけど。


 でも立派な子だ。少なくとも昔の俺よりは立派だ。俺はブレイブに近付き目線を合わせた。


「もちろんだ。その時は……勝負でもしよう」


「……うん!」


 俺はニコッと笑い立ち上がった。


「じゃぁ師匠行きますか」


「そうじゃな」


 俺たちは玄関のドアを開け外に出た。

 その時だった。


「……おい! 急げ!」


 森の方に走っていく子どもたちが見えた。

 あれは……確か……あ! いじめっ子の3人!

 こんなところで何してたんだろう……


「……パーナーが居ない!?!?」


 ブレイブの叫び声に反応しパーナーがいるはずの小屋の方を見る。


 ……居ない。まさか……


「ちょっとブレイブ! 待ちなさい!!」


 ブレイブは俺から財布を盗んだ時のようにものすごいスピードで走り出した。


 砂が舞い上がりむせてしまう。


「師匠! 僕も行きます!」


「行くってどこに行ったのか分からんじゃろ!」


「パーナーの魔力なら少し感じることが出来ます! 師匠は頑張って僕の魔力を追いかけてきてください!」


 俺はそう言って両手から風を起こし走り出した。

 ……くそっ! それだけはやっちゃダメだ、いじめっ子三人衆。絶対に……それだけは……!


 ──────


 ここは僕の家の近くの森を抜けたところにある崖の上だ。


「早かったなザコイブ」


「早かったなザコイブ」


「早かったなザコイブ」


「……パーナーを離せ!」


 いじめっ子の3人の1人がパーナーの首根っこを掴んで残りの2人は魔力の使いすぎで疲れてしまった僕の腕を押さえていた。


「……は? 離すわけねぇだろ」


「離すわけねぇだろ」


「離すわけねぇだろ」


 鬱陶しい三人衆はケラケラ笑いながら話し続けた。


「なぁザコイブ……こっから落っこちたらどうなる?」


 嫌な予感がした。腕を押えている2人も少し驚いた表情だった。


「やめろ!! その子は大切な友達で家族なんだ!!」


「はははは!! やめろってまだ何もやってねぇじゃんか」


「うるさい!! やめないなら……」


「おいおいなんだよ。何しようとしてんだ?」


 僕は残りの魔力を振り絞って足に溜めていた。

 それを一気に解放すれば……


「あーもう、うぜぇ。最近お前がいなくて暇だったんだよ。変な兄ちゃんと姉ちゃんも連れてよ。しまいにはお母さんも元気になっちゃって? あーウザイ。もうめんどいわ。こいつとはバイバイだザコイブ」


「やぁめぇろぉ!!!!」


 いじめっ子のリーダーはパーナーを崖の外に放り投げた。

 くぅーん、と泣くパーナーは抵抗できずただ落ちていくだけだった。


 僕はもう何も考えられなかった。貯めていた魔力を放出する。


 ブウォォォン!!!


「うわぁ!!」


「うわぁ!!」


 腕を掴んでいた2人は吹き飛び、俺は崖の外に飛び出た。

 僕は落ちていくパーナーを掴み抱き抱えた。


「おい! あっぶねぇだろ……うわぁーーー!!」


 落ちていく僕とパーナー。もう戻る手段はなかった。見切り発車で飛び出した僕は、為す術なもなく、ただ落ちるのを待つだけだった。


 その時いじめっ子のリーダーが立っていた崖の先が崩れ始めた。

 バランスを崩したリーダーも崖の外に放り出される。


 もうダメだ……助けて……グラリスお兄ちゃん……!!


 ブウォォォォォン!!!!


 その大きな音が鳴った時、僕の視界からいじめっ子は消え、その瞬間、誰かが僕の足を掴んだ。


「間に合った……よくやったぞブレイブ……」


「……グラリスお兄ちゃん!!」


 息の上がったグラリスお兄ちゃんが現れた。

 僕はギュッとパーナーを抱きしめて離さなかった。

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