【パイロット版】双つ星のスピカ(仮題)

羅田 灯油

第1話




「どうして……こんな、ことに……」

 


 切り裂かれた腹部からは、見たくもないものが見えている。それも真っ赤に塗り潰されていて、全貌ぜんぼうはようとして知れない。白衣も血でけがされている。


 ――俺は、得体の知れない怪物に襲われて、今まさに死のうとしていた。


 どうして襲われたのかは分からない。しいて言うならば、運が最低に悪かったに違いないだろう。それぐらいに圧倒的で絶対的なバッドエンドだった。

 真中まなかヒロトという人間は、三十足らずの人生を勤め先の学校……だったはずの異形の城で終了しようとしていた。他人事ひとごとのごとく俯瞰ふかんするくらいには、朦朧もうろうとしている。


 ――「『真中ヒロト』なんて人、昔の知り合いにいたかもしれないけど……し、知らない! 覚えてない!」

 ――「『真中ヒロト』……そうですね。義兄あにですが、それがなにか? それ以上でも以下でもありません」


 走馬灯は何故か、昼間に再会した幼馴染の少女と義理の妹の罵倒ばとうで彩られていた。


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