その112 総力戦
「ラッヘさん!」
「行くぞ!」
シュネルを追って俺とセリカは外に出るため大通りを駆けて行く。
背後には騎士と兵士もついて来てくれていた。
ちなみに人通りが少ないのは、陛下が黒いドラゴンが町に居るという報告を受けた時点で、騒がずに家に帰るよう兵士たちを使って声をかけたからである。
レストラン周辺ばかりだが、十分だったと言えるだろう。
「さて、尊大な態度だったけど、どれほどのものかな?」
「フェーク、待機していていいんだぞ?」
「もしかしたら役に立てるかもしれないし、ついていくよ。騎士や兵士も行くわけだし」
「一人でも多い方がいいんじゃない?」
【かもしれん。……! シュネル!】
門を抜けてフラメが空を見ながら叫ぶ。
【ここで真の姿を現せば貴様などひとたまりもあるまい!】
【チィ!? さすがにこれはあかんやつや……!?】
町から少し離れたところで黒いドラゴンが正体を現し、掴んでいたシュネルを殴りつけた。
すると、急降下……というより落下を始める。
【僕が行くよ】
「頼む!」
そこで俺の肩に乗っていたヴィントが舞い上がり巨大化した。
そのままシュネルの下へ飛んでいくと、黒いドラゴンへ突風のブレスを吐いた。
【ふん、この程度】
【先制はまず僕かな? シュネルは退避を】
【すんまへん! 立て直してきますわ!】
【馬鹿が、逃がすか!】
突風を受けながらも黒いドラゴンは手から光の弾を発射し、離脱しようとしたシュネルに直撃した。
【あああああああ!?】
「シュネルー!?」
【あの程度ならそう簡単にはやられん。オレも行くぞ。……ラッヘ】
「なんだ?」
【万が一の時は、全員斬れ】
「なに!? あ、おい!」
「ぴゅー!」
フラメはそれだけ言って巨大化した。その間もヴィントが黒いドラゴンを地上に落とすため奮闘している。
【雑魚が生意気なんだよ!】
【くっ……! ならばもろとも落ちてもらうよ!】
「お、おいブラック! 落ちてるぞ!」
【チッ、仕方ない。のってやる】
黒いドラゴン……ブラックって言うのか? ヤツとヒュージは地上に落ちてきた。
とはいえ、上手く翼を使い着地したって感じだな。
【‟口から炎”!】
【雷撃球……!】
でかくなったフラメが全力で走り、地面を揺らしながら着地点へ真っすぐ走っていった。
そして少し離れたところからいつもの『口から炎』を吐き出した。
だが、ブラックも先ほどシュネルを墜とした技で対抗し、ぶつかった炎と雷が爆発を引き起こした。
【今度は貴様か……! そんなこけおどし――】
【その通りだ!】
「フラメいけー!」
「ぴゅー♪」
言葉通り、フラメの口から炎は牽制だったようで隙を見て直接攻撃を仕掛けた。
ブラックの顎に拳がヒットし、顔を大きく仰け反らせる。
その光景を見ていたセリカとフォルスが興奮気味に叫んでいた。
「久しぶりにでかくなったけど、やるなフラメ」
「ドラゴン同士の戦いは迫力があるねえ。……おっと、無事だったのか」
「へへ、あれくらい余裕だぜ? さあ、ラッヘさんよぉ、ぶっ倒してやるぜ!」
俺達が向かう先に、いつの間にかヒュージが立っていた。前と違った装備と剣を携えて俺を睨む。
恨みを持たれる理由はわからないが、今はこいつに構っている暇は無い。
「……セリカ、頼んでいいか?」
「……! さっきも言ったでしょ! あいつは私が倒すわ」
「すまない。すぐに戻る」
「ぴゅ!」
「気をつけてねフォルス!」
そう言って俺はセリカとフェークから離れ、ヒュージの脇を抜けようとする。
「逃げるのかよ……!」
「あんたの相手は私よ!」
俺を追おうとしたところでセリカが足元に石を投げつけてヒュージの動きを止めた。
「セリカ……! 女に任せて戦いから逃げる男なんかがいいのかお前は!」
「はあ? やるべきことがあってこの場を『私に任せてくれた』んだけど? 前から思ってたけど、あんたって本当に馬鹿なのね。相手の力も見極められない上に自分勝手なことばかり言ってさ」
「てめえ……! ぶち犯してやるぁ!」
「それがね、すでにラッヘさんに勝てない理由なのよ。あんたはクソ雑魚。それを証明してあげるわ」
珍しくセリカが本気で怒っている。まあ、俺も思うところがあったわけじゃないが、明らかに自分より下の相手につっかかる理由もない。
……だが、俺達を殺す、犯すなどと口にした時点でヒュージは終わりだ。セリカが負けることは無いが、なんらかの汚い手段でそうなった場合、俺はあいつを生かしておく自信がない。
「あっちは僕も見ておくからラッヘさんは黒いドラゴンに集中するといい」
「……助かる」
「任せて欲しい。ラッヘさんには借りがあるからね?」
よく分からないがそうらしい。
敵ではないと判断しているので、ここは見ていてもらおう。最悪、隠しているレスバがなんとかするはずだ。
【うおおお!】
【食らいなよ!】
【最強のドラゴンたる私に楯突くとは愚かな!!】
そして俺はドラゴン達の争っているところへ到着した。
「フラメ! ヴィント!」
「ぴゅーい!」
【来たか! ぬううん!】
【くおおおお! 貴様等、何故脆弱な人間の味方をする!】
俺に一瞬視線を合わせたが、フラメはすぐにブラックを殴りつけた。
そのまま追撃を行いながらフラメは叫ぶ。
【助けられたからだ!! 貴様が撒いた病原菌でオレは町を一つ壊すところだった、だがラッヘ達に助けられて事なきを得た! 人間とは話ができる。美味い飯も作れる。そんな人間を殺さなくて済んだとな!】
【くだらない理由で!】
【そうかい? 僕はカボチャが好物だけど、まさか調理という方法であんない柔らかくて甘くなるとは思わなかったよ。人間は『力が無い』というだけで、工夫をする知恵があるのさ】
【力こそ全てだろうが! そいつらを屈服させて使えばいいのだ……!】
ブラックは二頭を相手に雷球や爪で応戦する。確かにあれで互角ならタイマンだとフラメもヴィントもきついかもしれない。
「ここでお前の暗躍は終わりだ。覚悟してもらうぞ」
「ぴゅ!」
「ラッヘ殿、我々もお手伝いしますぞ!」
「ありがたい、だけどこいつは油断できない。下がってもいい」
【人間がふざけたことを言う……! ならば、貴様等に人間を殺す手伝いをさせてやろう! ‟カースドラウダー”!】
「こいつは――」
その時、ブラックの両手から怪しげな……そう、キノコの胞子のようなものが出て来た――
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