その94 人間VSラッヘ

「フラメ……!!」

「ぴぃー!?」

「ひははは……! 邪魔をするからだトカゲが! さてこいつを――」

「おおおおおおおお!」


 ヒュージが馬鹿笑いを見てカッとなった俺は、気づいたら全力でぶん殴っていた。ヤツは5メルは吹き飛び、地面と口づけを交わす。

 俺の足元には血を流して倒れているフラメの姿があり、怒りがさらに沸いてくる。

 抱きかかえたいが、今はあいつをどうにかする。


「ぐは……っ!? い、いてえ!? いきなりなにしやがる!」

「それはこっちの言葉だ! ギサーラさんが下がって居ろと言っていたのが聞こえなかったのか!」

「ああん? こいつがまた暴れ出したらどうするつもりだ? だから先にとどめをさしてやろうと――」

「俺がなんとかする。それができることを今、示しただろうが」


 俺が睨みつけるとヒュージは一瞬たじろぐ。そこでセリカが口を開いた。


「うわあ、本気で怒ってるラッヘさんだ……あんた、早く謝っておいた方がいいわよ。この状態でまだ強がるなら死ぬかも」

「チッ……どいつもこいつも! 俺だってこれくらいはできるんだよ! おっさんが粋がるんじゃねえ!」

「おい! 剣で斬りかかるとはどういう了見だヒュージ!!」

「いい。こいつは分からせないといけない。別に俺が優れているとかじゃあないが、フラメをあんな風にしたのは……許せん。セリカ、フラメを頼む」


 そう言ってから俺もヒュージの方へ足を踏み出し、二歩目で地面を蹴った。地面が抉れ、修理が申し訳ないなと思いつつ前かがみになり接敵する。


「速っ……!?」

「お前が遅いんだ」

「うが!? やろ――」

「言っているだろう、遅いと」


 最初の右拳が脇腹に刺さり苦悶の表情を浮かべる。自慢のドラゴンの鎧はへこみ、拳の痕がくっきりと残っていた。

 それでも倒れず剣を振り下ろして来たが、すかさず下から顎に拳を入れる。


「ぐべ!?」

「うおおお!」


 そのまま反撃の隙を与えることなく人体の急所へ拳を叩き込む。あまり力を入れ過ぎると内臓が破裂するので半分くらいの力で。


「あ、あぐ……」

「うわあ」

「ハッ……!? ラッヘさん、ストップ! ストップ!」

「ふん」


 最後に鳩尾を殴り、変わり果てた鎧と共にヒュージはその場に崩れ落ちた。

 久しぶりになんの同情もできないクズを相手にしたな。


「ギサーラさん、こいつは任せた。治療費が必要なら俺が払う」

「あ、ああ……ドラゴンの装備がここまで……拳で? 嘘だろう……」


 ヒュージはもういいと、俺はフラメのところへ駆けつける。セリカがそっと持ち上げてポーションをふりかけていた。


「ぴぃー! ぴぃー!!」

「ラッヘさん!」

「フラメ……」


 まさか死んでいるんじゃ……!?

 慌ててしゃがみ込んで膝をつき、フラメの様子を確認するため覗き込むと――


【あーびっくりした】

「ぐあ!?」

「ラッヘさん!? フラメ!?」

「ぴゅい!?」


 びくんと身体を動かしたフラメが急に覚醒して頭を上げたので、俺の顔とぶつかってしまった。だけど目を覚ましてくれた!


「大丈夫か!!」

【ん? ああ、全然大丈夫だぞ? 確かにあの男の剣に刺さったのは驚いたが、大した怪我ではない。心の蔵には全然遠い】

「なんだ……驚かせるな」


 転がった時に頭をぶつけて一瞬、気を失ったらしい。血は派手に出ているがそれほど大した怪我はないようだ。安心である。


【それにしてもあの男の剣、確かにドラゴンの素材で出来ていたな】

「わかるのか?」

【うむ。だが、そのドラゴンは恐らく『ドレイク』と呼ばれる、翼竜ワイバーンと同格の種族だな】

「あんまり強くないの?」


 さっき言っていた『階級』が下のドラゴンのようだ。セリカが背中をポンポンと軽く叩きながら尋ねるとフラメは小さく頷いた。


【そうだな、身体はまあまあでかいのだが鱗があまり強く無くてな。口から炎も吐けるファイヤードレイクというのがいるが、恐らくそいつだと思う】


 属性によって色々なドレイクというのが居るらしい。それこそトカゲに似ているので、どこかで会ったことがあるかもしれないとのこと。


「まあ、お前が無事ならなんでもいいよ」

「ホントね。あれ?」

【ん、んな……?】

「ぴぃ!?」


 フラメが無事というところで安堵していると、のびていた翼竜ワイバーンから声が聞こえてきた。これはもしや……?


「おい、お前。正気になったのか」

【おお? 人間やないか? わしは一体……】

【町を攻撃して来たのだ。それをこの男が倒した】

【なんやチビ……ってあなたは!? フフフフフレイムドラゴン様……!】

【うむ。よく分かったな】


 なんか変な喋り方をする奴だなと思っていると、フラメが翼竜ワイバーンに話しかけた。

 すると仰向けになっていたのにスタッと二本足で立ち、背筋を伸ばしていた。

 

「やっぱフレイムドラゴンは別格なのか」

【アホ! ドラゴン様は基本わしらには手の届かん存在や。砂場の山と高山くらいの差があるんやで!】

「へえ、そこまでなんだ」

【せや。だから――】

【お前も気をつけた方がいいぞ。その男は単独でオレを倒した人間だ】

【……へ? またまたあ……】


 翼竜ワイバーンが首を竦めて冷や汗をかくと、フラメが鼻を鳴らして口を開く。


【オレが嘘をついているというのか?】

【いえ! 申し訳ありまへん! そんなことはありまへん! ……って、それはともかく、わしは暴れていたはずなんやが、戻っとるな】


 そこでようやく現状の話に戻って来たので俺は彼に伝える。


「ドラゴンに蔓延している謎の病。お前はそれに感染して暴れていたんだ。すまないが、また暴れられると困るので俺と来てもらえるか?」

【そらかまへんですが……討伐せえへんのですな】

「ま、なんでも殺せばいいってもんじゃないってのを覚えたからな。それじゃついてきてくれ。連れて行っていいかい?」

「あ、ああ……。後で伺うよ……」


 俺はギサーラさんに承諾を得るとそのままグレリアの家へと向かう。ちょっと狭そうだが我慢してもらうか。

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