その77 誰かがやらなければならないこと

「フォルスちゃんおいで~♪」

「ぴ」

「ええ!? 前は来てくれていたのに……!? 嫌われた!?」


 さて、ひとまず経緯を話した後は積み荷下ろしである。とりあえず俺がそれを担い、セリカとアイラには陛下と王妃様の相手をしてもらっていた。

 そこでミルクを手にした王妃様がフォルスに構おうとしたのだがセリカのポケットから顔だけ出して小さく鳴く。明らかに警戒している。


「ちょっと前に盗賊団に攫われそうになったんですよ。だから警戒しているのかもしれません」

「……誘拐? あなた、ちょっと盗賊団を壊滅させに行ってきますわ」

「うむ。お前と百人ほどいれば十分か」

「いや、もう頭領を捕らえてフォルスを取り返しましたから!?」


 不敵な笑みを見せながら立ち上がる王妃様に陛下が神妙な顔で頷いていた。それを慌ててセリカが止めた。

 というか私的に騎士を動かしすぎだろう……いや、盗賊団の討伐という名目ならアリだと思うが……


「ならそのものの処刑はわたくしが。今はどこに?」


 フォルスが寄って来なくなったのが相当苛立ったのか不穏なことばかりを口にしている。王妃は騎士出身の貴族で自身の戦闘力もAランク冒険者に匹敵するらしい。

 まあ、王妃様にそんなことをさせられないので俺はセリカのところへ行き、フォルスを抱っこしてから言う。


「ぴゅーい♪」

「王妃様は大丈夫だぞ。ほら、可愛がってくれたろ?」

「ぴゅー? ……ぴっ!」

「思い出してくれましたわ……!」


 フォルスはテーブルに降り立ち、テーブルの上で両手を広げて「どんとこい」のポーズを王妃様の前で取った。王妃様が抱っこしながらむせび泣いていた。そんなに?


【近くに居ればいいか?】

「ぴゅーい♪」

「お兄ちゃんがかっこいい……!」


 巾着ドラゴンからフレイムドラゴンに戻ったフラメが王妃様の前でどっしりと構え、フォルスが嬉しそうに鳴く。陛下はそれを見て感動していた。

 まあ、みんな楽しそうならいいかと俺はセリカに任せて荷下ろしに戻った。


「それでこの後はどうするのだ?」

「またドラゴンの捜索ですね! その前にラッヘさんの知り合いである研究者のいる隣国、エムーンへ行こうと思います」

「エムーンへか。研究者、ということはドラゴンのだな」


 陛下がチラリとフラメに視線を合わせてから言う。セリカは小さく頷いてから続けた。


「そうですね。フォルスと違って意思疎通ができますし、例の病になったことがあるため素材になるかと」

「確かに。それだと我々も少し提供して欲しいがどうだろうか?」

【オレは構わない。ラッヘ、いいか?】

「フラメがいいなら頼むよ」

【だそうだ。なにが必要だ?】

「物分かり良すぎない君?」

 

 陛下はフラメを抱えて目を合わせて苦笑していた。フラメはとてもいい奴なので仕方がない。馬車に載せているだけで魔物が寄ってこなくなるので冒険者とは相性が悪いけど。


「では明日にでも医療班と研究者を連れてくる。すまないがよろしく頼む」

【承知した】

「ぴゅひゅー」

「うふふ、元気よく飲みましたわね」


 頷くフラメとミルクを飲んで一息ついたフォルスがテーブルにそっと置かれると夫妻は席を立った。


「戻られるのですか?」

「ああ、仕事もあるし工房作成を進めねばなるまい。工房の煙問題もあるから近隣住民の説明などもだな」

「確かにここは屋敷が多くあるので煙突は長い方がいいかもしれません」


 洗濯物などにすすがついてクレームになる可能性などをアイラが話す。俺はそういうのに疎いから作ればいいかと思っていたが、案外問題は多いようだ。


「またねフォルスちゃん♪」

「ぴゅーい」

「わざわざありがとうございます!」

「アイラさんもなにかあれば相談してくださいましね」

「は、はい……」


 王妃様が手を振ると、ぺたんとおしり座りをしているフォルスが真似をして手を振っていた。今日は早かったなと思っていると――


「夜、ここで宴会をしようと思う。腹は空かせておいてくれ」

「ええー……?」

「またあとで来ますわ♪」


 そんなことを言って、40人くらい居た騎士と共に颯爽と消えて行った。


「誰か止めるやつは居ないのか……?」

「まあ、王妃様が強いし護衛もいっぱいいるからいいんじゃない? ラッヘさんもいるし」

「そうは言っても一介の冒険者だぞ俺は」

「信頼されているのね。ドラゴンって本当に怖い生き物だから近づかないわよ?」


 アイラが笑いながらフラメを抱っこしてそんなことを言う。

 国がバックについてくれているのはありがたいと思うけど、復讐のためにやっていたことだ、褒められたもんじゃないんだよな。


【ドラゴンにも気性の荒い者が居るからアイラの言っていることは正しい。オレとてまた発症すればどうなるかわからないのだからな】

「……ま、そのための研究だ。お前を殺したくないしな」

滅竜士ドラゴンバスターなのにそういうところが優しいのよねえ」


 フラメの頭を撫でていると横からセリカが顔を出してきて笑っていた。

 

 そして荷物を屋敷に運び込み、各々夜まで適当に過ごした後、宴会へ――


「リンダってよんでフォルスちゃん……!」

「僕はエリードだよ……!!」

「ぴゅーい!?」

「ああ、逃げた!? エリード、母が先です」

「それはずるいよ母上!?」


 話の種としてフォルスが俺をパパと呼んだ話をしたら王妃様とエリード王子がフォルスに詰め寄っていた。

 もちろん、びっくりしたフォルスは俺のポケットへ逃げ込んだ。

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