その75 指針
「なんか増えている……?」
「カルバーキン、来てくれたか」
テーブルでフォルスを甘やかしていると、カルバーキンがやってきた。
到着早々訝しんでいたが何故か分からない。
「まあ座ってくれ。アイラは知っているよな?」
「ああ、もちろんだ。王都に行くと聞いているよ。……まさかラッヘさんと一緒とは思わなかったけど」
「前から好きでしたから」
「告白できなかったのに、今はハッキリ言ったわね!?」
「そうだったのかい!?」
あっさりと俺を好きだというアイラにセリカとカルバーキンが驚いていた。
セリカの驚きはもっともだろう。
「ま、まあ、王都の方が彼女の力を活かせますね。冒険者や騎士の装備などが強化されれば魔物やそれこそドラゴン相手にも対応しやすくなりますし。少し残念ですがそこはアイラさんの人生なのでとやかくは言えません。……で、こちらは?」
【む? お初にお目にかかる。オレはフラメ。ラッヘ達に名付けてもらったフレイムドラゴンだ】
「ああ、これはご丁寧に……って、やっぱりドラゴン!? ど、どういうことです!?」
「ぴゅー!?」
礼儀正しいフラメに釣られて頭を下げたがスルーはできないと大きな声を上げていた。フォルスがびっくりして俺の胸ポケットに逃げ込んでくる。
そこでフラメが暴れていたことを話すと、カルバーキンがため息を吐いた後で口を開く。
「この短期間で暴走していないドラゴンを連れて行くなんておかしいですよ……でも、話を聞く限りフォルスくんがなにか鍵を握っていそうですね」
「そうだな。唾液が病に効くのはほぼ確定だ。後は……できればフラメに協力をしてもらおうと考えている」
【オレか?】
フラメが俺を見上げて聞いて来たので目を合わせて頷く。
これは
意思疎通ができるなら頼みを聞いてもらえるかと考えたから。フラメが嫌だといえば強制するつもりはないけどな。
【なるほど、確かに病を調査するという点では合点がいく】
「フォルスの時に反対していたのは? 赤ちゃんだから?」
「それもあるけど、そもそもフォルスは発症していないだろ? 受け売りだけどサンプルとしては弱いんだ」
「そうですね。我々でも一度罹患した人間から原因を追うため、発症した者が必要でしょう。アースドラゴンの時は?」
「そこまで考えが及ばなかったというのが答えだな」
そもそも、竜鬱症が発覚したのはつい最近だ。アースドラゴンは完全な遭遇戦だったからな。
遺体は血抜きもするし、肉も腐る。あいつのところは隣国で遠いため確実にダメになるだろう。
「だからフラメさんに材料を提供してもらうのね」
「そうなんだアイラ。ぶっちゃけこいつはいいドラゴンだ。話もわかる。なら討伐より治療の方が有益になるんじゃないかと思ってな」
【ふむ、ラッヘも大概だと思うがな。オレは構わないぞ。フォルスに移る可能性もあるし、同胞が狩られてしまうのもしのびない】
「ありがとう」
「フラメがまた発症しないよう祈らないとね!」
俺の話が一通り終わった後、全員が賛成だと口を揃えて答えてくれた。
特にフラメが協力してくれるのはでかい。
「承知しました。先日、王都よりラッヘさんの件でお触れが回っています。今後、研究ができるとなればドラゴンの調査依頼は飛躍的に増えると考えます」
「どうしてだ?」
「恐らく、陛下がやる気になるからですね。それこそ隣国などでの目撃情報を募るかもしれません」
「そういうことか」
フォルスの件でも研究したいという話はしていたからあり得るかと納得する。
「それで私を呼んだのは?」
「ああ、こいつの紹介だ。一応、連れ歩くからな。ここに来るまではカバンに入れて隠してきた」
【こんな感じだ】
「ぴゅー♪」
巾着のようなカバンにすっぽり入って顔だけ出し、角隠しの帽子を被ると、フラメはそういう置物に見えなくもない感じになる。フォルスは羨ましいのかそんなフラメに抱き着いていた。
「かわいい!? ま、まあ、フォルスくんの件もあるので大丈夫ですよ。でもすぐに発つのでしょう?」
「そうだな。それと盗賊団はどうだ?」
「彼等はまだ完全ではないですが、頭領が捕まったのでその内霧散するかと」
「わかった」
考える余地はあるが、すでに俺の手から離れた案件だ。後はギルドに任せるとしよう。
「それじゃ王都に向けて出発するか」
「おっけー!」
「王都に行ってからはどうするんですか?」
「またドラゴンを探す旅だな。まずは研究者のところへ行くため隣国へ行く。セリカの装備もできたしなんとかなるだろう」
「承知しました。ではなにか掴めましたら王都の家へ連絡します」
「わたしが居るから受け取りはできるよ」
アイラがそう言って頷き、俺達はギルドを後にする。
目指すは再び王都だ。
その後は東の国に足を運ぶ。俺の知る研究者と出会うために。
◆ ◇ ◆
「ゴリアート盗賊団を捕まえたって人はいるかい?」
「ん? いや、さっきまで居たんだが旅立ったよ。ほら、
「ああ、そうなのか。ありがとう」
ラッヘが立ち去った後、デルモンザのギルドに一人の男が現れた。茶髪の切れ長の目をしたその男はラッヘについて尋ねていた。
しかし入れ違いになったと知った彼は礼を言って外に出る。
「……行ったか。あの兄さんがたには礼を言いたかったが、なるほど
それなら当然かと胸中で呟いてから口元に笑みを浮かべた。
「人の名前で勝手に盗賊団なんて作られて迷惑していたところだったからな。ようやく足取りを追えたと思ったら壊滅してるとは笑うしかねえ。……名前、変えるか。ゴリアートとか舐められ無さそうでいいと思ったんだがなあ。さて、次はどこへ行くかね――」
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