その62 似た者同士、ではない

「これはいいお肉ですねえ……! 二千セラの価値はあります!」

「美味しい! アイラさんの作ってくれたおつまみのピクルスが好きかも」

「ふふ、良かったわ。これでも一人暮らしが長いから。お肉はあまり持たないし、多めに焼きましょうか」


 というわけで庭でバーベキューをすることになった。

 レスバには前金で二千セラを要求してやった。帰るかと思ったが空腹には勝てなかったのか財布からちゃんと出していた。

 ケチというわけではなく、単純にお金が好きなだけのようである。


「いや、俺の馬車の荷台には冷蔵保管ボックスがあるんだ。だからしばらくは持つぞ」

「え!? 最新式のやつじゃないですか! 後で見せてくださいよ!」

「食ったら帰れよ……」

「あたしも興味あるね。どっちにしても荷台の素材は工房に入れるしさ」

「アイラはいいぞ」

「疎外感!?」


 レスバは部外者なのでそんな扱いでいい。

 ちなみにこいつの馬、バーバリアンは庭の外で、ジョーとリリアは庭の中に入れている。また興奮状態になられても困るしな。


「それで、ラッヘさん達はこれからどうするんですか?」

「ん? ここでセリカの装備を作ってもらってからドラゴンを探す旅を続けるぞ」

「装備……!? まさか対ドラゴン用の?」

「そうよ。食べたら帰るのよ」

「酷い!?」

「部外者だしね、君」


 アイラがトドメを刺した。事実だし特に言うことも無い。するとセリカが逆に質問をする。


「あんた紅蓮衆とか言っていたけど何者なの? 商人にしちゃ強いわ」

「わたしの国にある武闘派組織ですね。能力のある孤児が拾われる場所です」

「え……?」

「まあ、わたしはあそこが嫌で逃げ出した者ですがね」

「あんたも両親居ないんだ」

「『も?』ということはあなたも?」

「私もラッヘさんもよ。それで冒険者になったもの。えー、逃げ出すってことはよっぽど嫌なところだったのね」


 よく分からないがレスバは孤児で謎の組織で育ったらしい。


「三食昼寝おやつ付きでしたね。最終的になんらかのお仕事を斡旋してくれるんです」

「待遇良すぎるじゃない!?」

「……と、表向きはそうなんですが、裏では『真に才能のある人間』に暗殺技術を叩き込んでいるんですよ。怖くないです?」


 レスバは違うというが暗殺者の技能を叩き込まれた人間は見たことがあるそうだ。


「……なるほど、カスティゴ出身か」

「お、さすがラッヘさん。ご存知でしたか」

「カスティゴって?」

「東の方にある国だな。俺は行ったことがないが、貧困と裕福層の差がはっきりしていると聞いたことがある」


 その理由がもしかしたら紅蓮衆とかいう組織のせいかもしれないなとピンときた。あまりいい噂は聞かない国で、奴隷制度がいまだに残っている。

 平民と貴族の差が激しいと言えばわかりやすいか。


「というわけであの国を脱出したのが二年前ですね。もう二十二歳ですが食べごろです」

「なにがだ」

「背は私より低いのに年上だった」

「わ、若くていいわね……」

「アイラさんはキレイだから!」


 落ち込むアイラにセリカが宥めていた。脱出する時に乗って出てきたのがあのバーバリアンという馬だそうだ。


「苦労しているんだな」

「そう! だからお金はいくらでも欲しいと商人になりました。まあまあ稼ぎはあるんですが、やはり楽して暮らしたいじゃありませんか」

「自分に正直すぎるわね……残念だけど、他を当たってもらうけど」

「うおおお……同情を誘えば『あなたも』とか言ってくれると思ったのに……!」

「セリカはそういうのに強いから無理だぞ」


 アイラの場合は本気で俺が好きだったからで、こいつのように打算があるのは嫌う。

 ……ドラゴンに襲われた際に町が壊れた。その時、『可哀想』だと言いながら金儲けをしようとした人間は居た。セリカがどこかへ連れて行かれそうになったのを助けたのは俺だったりする。


「はあ……仕方ありません。恋人は諦めるとして……商売をしましょうかね」

「商売?」

「ええ。お二人はドラゴンを探しているでしょう? わたしは最近、ドラゴンの情報を手に入れたんです」

「なんだって?」


 ニヤリと笑うレスバに俺は眉を顰めて尋ね返す。すると彼女は眼鏡をくいっと直す仕草をしてから口を開く。


「情報料は五万セラ。そして道中の宿泊代などを持ってもらえると」

「ふむ。情報料二十万で教えてもらうってのはどうだ?」

「にじゅ……!? い、いえ、魅力的ですが、直接連れて行きますよ。そっちの方が安上がりですし、わたしが嘘を吐いていない証拠にもなります。奴等は移動しますからね。居なかったら返金しますよ」

「なるほど。そういうのはしっかりしているのね」

「商人は信用が命ですからね!」

「初対面の相手に不遜な態度をとるくせに……」


 セリカがジト目で肉を取りながら呟いていた。

 しかし、嘘情報だけ与えて消えるなんてのはよくある話ではある。きちんと案内してくれるならそれもアリかもしれない。


「……よし、ならレスバの情報を買おう。装備ができたら案内をよろしく頼む」

「りょーかいです! ではしばらくよろしくお願いいたしますねセリカさん、アイラさん」

「変な事したらぶっ飛ばすからね? ……私の初戦闘になりそう、かな?」

「そうだな。アイラ、頼むぞ」

「任せておいてくれ」


 予期せぬところでドラゴンの情報を得ることになった。その時に備えて俺達は準備をする――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る