その56 伝説の鍛冶師

 ――ということで嫌な人には会ったがその後は商店街を散策し、土産の食料品や雑貨などを買って満足の行くショッピングができた。


「ぴゅいぴゅい♪」

「今日はお昼寝しないわね」

「よほどこのポケットの居心地がいいんだろうな」

「そうね。お母さんの鱗がついてるからなにかあるのかも?」


 セリカがそう言って微笑む。そう言われると母ドラゴンの鱗に包まれているから安心しているのかもしれないなとふと思う。

 いつもなら衣料品の店に居たくらいの時間で寝ているはずだからな。


「さて、陽も落ちてきたしそろそろ戻るか。明日は早いしな」

「うん。おかみさんがご飯を作ってくれているはずよね。フォルスもミルクが飲めるわよ」

「ぴゅーい♪」


 そんな会話をしつつ人通りが少なくなりつつある通りを歩き、宿へと戻っていく。


「戻ったよ」

「おう、おかえり……ってまたすげえ荷物だな……」

「山に居る友人のものなんだ」

「山? ……ああ、あの変わり者か。確かにどうやって暮らしてんのかわかんねえなあ」

「たまに町に来るんだけどな。宿は使わないから親父さん達じゃわからないか」


 その言葉に親父さんが肩を竦めて『俺達は外に出ないからなと』笑っていた。

 するとそこでおかみさんがフロントへやってくる。


「おや帰って来たのかい? ご飯はどうする?」

「もらおうかな。食べてからすぐ寝るよ、明日は早いしな」

「オッケー。なら部屋に荷物を置いてから手を洗ってきなよ。その間に準備しておくから」

「ありがとうございます!」

「そのチビちゃんのご飯はどうするんだい?」

「牛のミルクと俺達が食うのと同じのでいい。量は少なめで」

「ぴゅー!」

「はいよチビちゃんは大盛が良さそうだけどねえ」


 おかみさんはフォルスを見ながらくっくと笑い奥へと戻っていく。俺達も部屋に荷物を置いてから食堂に向かい早めの夕飯をいただいた。


「ぴゅーい!」

「喉に詰まらせないでね?」

「ぴゅい♪」


 興奮気味だったフォルスがご飯を力いっぱい食べているのが可愛かった。

 そのままお湯をもらって体をキレイにしてから就寝した。


 そして翌日――


「これで全部かな?」

「ああ、ありがとうカルバーキン。昨日の内に必要なものを運んでおいてよかった」

「はは、こっちは倉庫を貸しているだけだからね。礼はいらないよ」


 俺が礼を言うとカルバーキンが笑いながら返してくる。だが、すぐに表情を変えて尋ねてきた。


「そういえば昨日、君を尋ねてきた人がいたんだけど会ったかい?」

「あー……」


 話の内容は昨日の女性のことだった。あまり思い出したくない話だがセリカが口尖らせて言う。


「会いましたよ! ラッヘさんの顔も知らない女がラッヘさんと付き合うみたいなこと言ってました!」

「え!? 会ったのに顔を知らないのかい!? 物凄く自信満々でラッヘさんを探してたけど……特にどういう顔をしているとか聞かれてないよ」

「なんて恐ろしい……」


 顔を知らないのに人を探していたのか……しかも特徴とかを聞いているわけでもないとは、探す気があるのかと思ってしまう。


「喋らなくていいですからね?」

「まあ、ちょっと調べたところ厄介そうな商人だったからね。どうせ今日、町を出るなら会うこともないと思うけど」

「厄介……?」

「ああ。……本当は他の人間の情報は教えないんだけど、どうも『悪の十字架のレスバ』と呼ばれているらしい」

「なんだそりゃ」


 俺が奇妙な二つ名に呆れていると、カルバーキンは手を上げて続けた。


「でも彼女は一人で行商をしているんだ。護衛もつけずにね」

「へえ、それじゃ商人なのに戦闘力もあるってこと?」

「まあ噂だけどね。変な技を持っていると言っている人もいたね。通り名はアレだけど、一人で旅をしているのは間違いないよ」

「盗賊や魔物相手ができるなら確かに強いか。ま、付き合いたいのもどこまで本当かわからないし、関わらない方がいいだろう」

「そうね。それじゃ行きましょうか」

「ああ。ではまた来るよ」

「ドラゴンの情報が入ったらまた伝えるよ」


 俺達は馬車に乗り込み、手を振るカルバーキンから離れていく。ドラゴンの情報はいくらあってもいいからよろしくとだけ言って片手をあげて応えた。


「ぴゅい」

「なんだ?」

「ジョーとリリアがどうかした?」


 少し移動したところでフォルスがジョー達を指してなんか鳴いていた。セリカが尋ねると、セリカのポケットをポンポンと叩いた後、馬を見る。


「もしかしてジョー達にもポケットが欲しいのか?」

「ぴゅー♪」

「そうみたい。さすがに服を着せるわけにはいかないから駄目かな」

「ぴゅ」

「そんな顔をしてもダメだぞ」


 なんかアースドラゴン戦以降、大きさもそうだが知性も上がった気がするな?

 そんなことを考えながら町を後にする。

 

 ふむ、ジョーの首にカバンでもぶら下げたら喜ぶだろうか……?


◆ ◇ ◆


「ふむ、この町には居るようですがまったく会えませんねえ。一人くらい知っていてもおかしくないと思うのですが……? バーバリアン、どう思いますか?」

「ぶるふん……」


 そんなことを言われてもと言った感じで鼻を鳴らす。特に答えを期待していたわけではないのでそのまま独りごちる。


「顔を知らないというのは致命的ですね。せめて知っている人間を……あのギルド職員は知っているようですが……」


 そこでポンと手を打ってニヤリと笑う。


「宿には泊っていたはずですから一つずつ聞いてみますか。居るかどうか――」


 そうしていくつかある宿を探すこと数時間――


「ラッヘさんなら今朝出て行ったぞ」

「なんと……!? タイミングが悪いですねえ! どこへ行ったかわかりますか?」

「一旦ギルドへ行ってから山へ向かうと言っていたな。知り合いがいるとかで、大荷物を持ってたぞ」

「山……なるほど、変わり者の鍛冶師のところですか」

「知ってんのか嬢ちゃん」

「ええ、凄腕の鍛冶師は商人の間でも有名ですよ。ただ、気に入った相手にしかちゃんとした装備を作ってくれないという……」


 宿の親父は『そいつと知り合いとはやっぱすげえな』と口にした。


「で、わたしはラッヘさんを探しているのですが、顔を知りません。どういった風貌か聞いても?」

「ああ、別に構わんが……彼女とペットと一緒に居るからすぐわかると思うぜ?」


 山にいきゃわかるだろと肩を竦めながら親父は言うのだった――

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