その41 手段と目的を変えて
――というわけで翌日となった。
「ん……」
俺の腕が治るまでゆっくりしようという話で豪華な夕飯を食べて酒を飲み就寝。
まだ寝ているセリカをベッドに残して俺はキッチンへ行く。
腕が折れているので昨日はセリカが頑張ってくれた。だから疲れているはず。
「ぴゅ!」
「お前も起きていたのか」
「ぴゅ~い♪」
するとベッド近くのテーブルに
「んん……」
「おっと、静かにするんだフォルス。セリカが起きるからな?」
「ぴゅ……」
ハッとした顔で口を押えるフォルスが眼を見開いていた。可愛い。
成長が目まぐるしいものだと思いながら俺はフォルスを抱っこして寝室を出た。
「ぴゅー♪」
「ごきげんだなあ」
起きたばかりなので俺があくびをしていると、顎に鼻を擦り付けてきた。
ゆっくり寝たからだろうか?
フォルスはアースドラゴンのステーキを食べて王妃様に抱っこされてここまでずっと寝ていたりする。
「とりあえず水でいいな?」
「ぴゅ!」
冷蔵の魔法具に入れていた水をコップに移してフォルスに渡し、俺もコップに水を入れる。
「ぷはー」
「ぴゅふぁー」
並んで水を飲んで一息。
俺やセリカの真似をするフォルスにはあまり変なところは見せられないんだよな。
そんなことを考えていると、ちょこんと座る小さいドラゴンはきょろきょろと周囲を見渡す。
「ぴゅーい」
「どうした? セリカはまだ寝ているだろ?」
「ぴゅー?
首を振る。
どうもセリカを探しているわけではないらしい。抱っこして顔を目の前に持って来た。
「王妃様か?」
「ぴゅー」
と聞いてみると違うそうである。他にこいつが気にする相手というと――
「ああ、あいつらか」
――思い当たることがあり俺はフォルスを抱えたまま屋敷を出て庭を目指す。
「ぴゅーい♪」
「やっぱりか」
「ぶるる?」
「ひん?」
そこはジョーとリリアが居る厩舎で、二頭を見たフォルスが喜びの声を上げていた。寝そべっている二頭へ駆け出していき、ぴゅいぴゅい話し始めた。
なんだかんだで『いつも一緒にいる』という認識になったのか、居ないと不安のようだ。ジョーにびびっていたころが懐かしい。数日前だけど。
「さて……」
厩舎から二頭を放ち、庭で遊ばせることにした。フォルスが遊んでもらっているのを見ながら、俺は庭に備え付けられたテーブルセットの椅子に腰かける。
そこで俺はポケットから黄色っぽい玉を取り出してテーブルに置いた。
「……これはなんだろうな」
母ドラゴンの玉も取り出して並べてみる。これのおかげでアースドラゴンの攻撃からセリカとフォルスが助かった。
だがあの時、俺は母ドラゴンらしき影が浮かび上がりアースドラゴンの腕を抑えるのを見た。それにより正気が保たれたようにも見える。
「みんなは見えていないようだった。あれは……俺だけに見えていたのか?」
陛下や王妃、エリード王子もあの場に居たが『あれはなんだ』という言葉は誰からも聞けなかった。
なんとかなったから言及する必要は無いとはならないだろう。
そう考えると俺にだけ見えていた可能性が高い。
「セリカはどうだったんだろうな?」
起きたら聞いてみるか。
それと合わせて考えることがあると、ぴゅーぴゅー言っているフォルスに視線を向けた。
「あいつの声を聞いて玉が光った。そして母ドラゴンの幻影らしきものが現れた。間違いなくフォルスの声に応えていたと思う」
死ししてなお、我が子を守ろうとしたというのか。あの時『病に関わるのであれば殺せ』そう言っていたのに。
「……本当は死んでほしくなかったんだろうな」
子は子、そういうことなのだろう。
「ぴゅい?」
俺の視線に気づいたフォルスが首を傾げていた。何も知らない、母が誰だったのかもよく分かっていないであろう純粋な目を俺に向けて。
あの幻影が見えていたのかもわからない。だが、この翡翠色の玉はフォルスを守ったのだ。
「……そうだな」
俺はフォルスを利用すると考えていた。あの仇である黒翼のドラゴンのために。
だけどこいつが研究に使われるのは嫌だと思った。
純粋なフォルスを可愛いと、今さらだが俺自身も可愛いと感じる。だが、このままではまずいということも頭によぎる。
「竜鬱症……」
これをなんとかしなければいつかフォルスもそうなってしまうかもしれない。
もし、フォルスが罹患してしまえば倒さざるを得ない。それが陛下との約束だ。
「ぴゅーい?」
「ぶるる」
俺がじっと見ていたことが気になったのかフォルスがジョー達を連れて近づいてきた。フォルスが足をよじ登ってきたので抱えてテーブルに乗せる。
「……なんでもない。お前がこうならないように頑張ろうかって思ったのさ」
「ぴゅ」
俺がそう言って笑うとフォルスが翡翠色の玉を手に取って遊び始めた。
殺さなくてもいい方法はどこかにあるはずだ。殺すだけではなく活かすためにドラゴンを探す。
「ふふ、
これも今さらだが、フォルスを拾った時にこうなる運命だったのかもしれない。
玉を転がして遊ぶフォルスの背中を撫でてからそんなことを呟く。
「だけどもしドラゴンが暴れなくなれば、災厄が消えるということに繋がる。それは違う意味でドラゴンを滅する形になりそうだ」
フォルスがこの先しっかり生きていくために……俺は俺の意思を決めるのだった。
「ぴゅい」
「あいた!? そ、そこは折れているから乗ったらだめだ……」
「ぴゅ!? ……ぴゅい……」
背中を撫でていた左腕に絡みついてきたフォルスの重みで激痛が走る。鎧を着ていないとダメージは残るのだ。
びっくりしたフォルスが俺の腕を舐めてくれていた。
「はは、大丈夫だよ。驚かせてすまなかった……ん? あれ?」
気のせいか、舐められた腕の痛みがスッと引いたような……?
「おっはよー! 探しちゃった! 起こしてくれても良かったのに」
「セリカか。ぐっすり寝てたから起こすのが憚られたんだ」
そこへセリカが声をかけて来て思考を中断する。
「さてそれじゃ朝食にするか」
「ぴゅー♪」
「ぶるる♪」
「ひひん♪」
俺の言葉に色めき立つ動物達だったとさ。やれやれ、能天気そうでいいねえ。
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