その23 有名人ラッヘ


 というわけで大通りを抜け、家屋があまり建っていない郊外へと入り、そのまま小高い丘の城を目指した。

 城門へ行くまでにいくつか門があるが、基本的に戦争や魔物が入り込んだりしない限りいくつかを残して解放されていたりする。

 そして最初の兵士がいる門へ辿り着くと、俺を見るなり笑顔で声をかけてきた。


「おや、あなたは滅竜士ドラゴンバスター殿ではありませんか」

「話が早すぎるわね」

「鎧が目立つからな。おっしゃる通り、俺は滅竜士ドラゴンバスターラッヘ。陛下に謁見を申し入れにやってきましたが通っても?」


 ギルドカードを差し出しながら尋ねると、サッと名前を確認した後で門兵が道を開けてくれた。


「もちろんですよ。あなたの活躍は目の当たりにしていますから!」

「……」

「あ、照れてる」

「照れてない」

「ははは、どうぞ」


 頬を突くセリカにぶっきらぼうに返してから門を抜ける。二回目の門も苦も無く進み、城の前までやってきた。

 ちなみにフォルスはここだとさすがに騒ぎになりそうなので懐に入れている。


「寝てもいいからな?」

「ぴゅ!」

「元気みたいね」


 今から謁見なので、大勢の人間が見守ってくる。人見知りのフォルスにはストレスかなと思ったからだ。

 まあ、人が多いと気づけば顔を出さない可能性もあるか。

 

「この後はどうするの?」

「謁見の受付だな。混んでないといいけど、予約だけでもしておけば後が楽だ」

「王様も忙しいんだなあ」


 税だけで食べているわけじゃないからなと王族の役割みたいな話を少し交えつつ、馬と荷台を預けられるところへ向かう。


「いらっしゃいませー。一時間で二千セロですよ」

「二時間で頼めるか?」

「毎度♪ 仕事だ、丁重におもてなしを!」

「じゃあね、ジョー、リリア」

「ぶるふ」


 ここならゆっくり休めるだろう。

 セリカが自分の肩がけのカバンと装備を荷台から降ろして二頭に手を振る。

 俺も荷台からリュックを取り出してから肩に担いで荷台から離れた。


「物が無くなったなどは対応できませんから、しっかり持つか鍵のかかった荷物ボックス、または受付にお預けくださいね。ではお預かり番号です」

「荷物は大丈夫だ。ありがとう」


 魔法で出来た番号プレートを受け取り礼を言ってから預り所を後にする俺とセリカ。フォルスは知らない人間を警戒して胸元でこっそり顔を出していた。

 その内に慣れると思うがどうだろうなあ。

 次に謁見の申し入れのため、入り口近くにある受付へ。五人ほど並んでいるな。


「長くなりそう?」

「どうかな。城に用事があるのは謁見だけってわけでもないんだ」

「ふうん」


 貴族達の会議場の貸し出しだったり、意見書の提出など城の役割はそれなりに多い。基本的に町の方でやりくりするものだけど、各大臣へ依頼をすることもあるらしい。


「では、こちらお預かりいたします」

「よろしくお願いいたします」


 と、俺達が話している間に人が捌けていく。やはりほとんどの人は書類仕事のようだった。


「次の方どうぞー」

「すまない、陛下と謁見を申し込みたいのだが」

「謁見ですね、少々お待ちください……はい、本日は他に予定がないので大丈夫ですよ。今からです?」

「できるなら今からで」

「承知しました。二名、謁見希望です。ハイン様に通達を」

「はい」


 メインの受付である眼鏡をかけた金髪の女性が横に座っていた緑髪のショートカットの子へ指示を出す。

 

「ではこの子について行ってください、滅竜士ドラゴンバスターのラッヘ様」

「ああ。行くぞセリカ」

「はーい。ありがとうございます。お姉さんもラッヘさんを知っているんですね」

「ふふ、早く順番が来てよかったわね」

「……!」


 そこでセリカがなにかに気付き、驚愕の表情を浮かべた。そそくさと俺の横についたので尋ねてみる。


「どうした?」

「いあ……ラッヘさん『が』今からになるよう調整してた……」

「なるほど……」


 有名ではあるけど、そういうのはしなくていいんだがなあ……

 そんなことを考えていると、謁見の間近くにある部屋へ通された。


「準備がありますので少々お待ちを!」

「ぴゅー」

「おや、動物の鳴き声が……?」

「大丈夫だ」

「よくわかりませんけど、行ってきますね」


 そう言ってショートヘアの女の子が部屋から出て行き、セリカと二人だけになる。

 するとその瞬間にフォルスが顔を出した。


「ぴゅひゅー……」

「門番さん達の時でびっくりしちゃったから警戒しているわねえ」

「ぴゅー♪」


 一息ついたという顔をした後、セリカに両手を上げて嬉しそうに鳴いていた。

 最初はジョーも怖がっていたし、こんなものだろう。むしろセリカによくここまで懐いたとも言える。


「とりあえず帽子は取れないようにしてっと……いよいよ謁見ね。私なんかが謁見して大丈夫だったのかしら」

「俺と一緒だしな。陛下は気さくな方だから問題ないと思う」


 王都に襲来したドラゴンを倒した時は隣に座らされて祝宴を行っていた。危ないと思うと進言したら『真面目な奴だ』と返された。そうじゃないと思う。

 そこで部屋の扉がノックされ、男の声が聞こえてきた。


「お待たせした。陛下の準備ができたので謁見の間へ案内する」


 セリカと顔を見合わせてから頷くと、フォルスを懐に入れてから部屋を出た。するとそこには少し神経質そうな男、ハイン殿が立っていた。


「ハイン殿自らのお迎えとは……よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「フッ、お気になされるな。ではこちらへ」


 ハイン殿に連れられて俺達は歩き出す。するとすぐにハイン殿が首を後ろに振り返り口を開いた。


「そちらのお嬢さんは初めて見ますな」

「ええ、最近できた恋人というやつでして」

「……!? なるほど、王都の一角にいい屋敷があるのだが、陛下に進言して使えるようにしますぞ」

「ええ!?」

「いや、俺達はドラゴンを追う旅をしているからな」

「市場からも近いですし、買い物にも便利なのだが……」

「いえ、大丈夫ですよ。お気遣いいただきありがとうございます」


 やんわりと断ると物凄く残念そうな顔を見せていた。たまにこういう顔をするんだよなハイン殿。

 そんなことを考えていると謁見の間に到着し、重い扉が開かれた――

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