その20 いけてる新装備と追跡者
「すまない、遅くなった」
「ん? おお、戻って来たか! 時間がかかったのう。スケベなことをしてたのか?」
「うるさい。それで?」
「おお、問題なくオーダー通りにできたぞい!」
荷台を補修などする庭に、爺さんが一人椅子に座って煙草を吸っていた。
俺が声をかけると相変わらず下世話な話をしてきたので指をゴキッと鳴らすと、爺さんは気にした風もなくカッカッカと笑いながら案内してくれた。
「こいつじゃ」
「お、これは……」
「へえ、いいじゃない!」
俺達が買う荷台は屋根付きの豪華な仕様で、馬二頭が引くなら丁度いい大きさだろう。
「
「へえ、いいじゃないか。薄い鉄でできているな」
馬への負担を軽くしてくれたようで冷蔵庫もボックスも鉄で出来ていた。荷台の一部が木と鉄で出来ているので上手く加工しているようだ。
「いい腕をしているじゃないか」
「ふふん、これで三十年食っておるからのう。おまけでボックスにいいものを入れておいたぞ」
「なんだ?」
「まあ、見てのお楽しみじゃ!」
よく分からないが自信作らしい。まあ、おまけというならありがたく頂戴しよう。
セリカが荷台を覗き込みながら荷物を載せていく。俺もリュックを置いておこう。
「今日からここで過ごせるわよ」
「ぴゅ? ぴぃ~♪」
さっそくフォルスを荷台に乗せてさっき買い出しに行ったときに買ったクッションを与えていた。フォルスはご機嫌でその上に乗り丸くなっていた。
「よし、ジョーとリリアも繋いだしいつでも出られる。爺さん支払いだ」
「毎度」
六万五千セロを支払うと、爺さんはニカッと笑って受け取った。俺は小さく頷いてから片手を上げると御者台に乗り込んだ。
「お、ソファっぽい座席……」
「雨の時はちゃんと屋根を展開するんだぞ」
「ギミックがあるのね、これで六万五千は安かったんじゃない?」
「だな。それじゃ行くよ。ありがとう」
「気を付けてなー。彼女としっぽりムフフを楽しむが良いぞ」
「うるさい……!」
「あはは」
「ぶるひーん」
手を振るジジイを睨みつけながら手綱を揺らすと、ジョーが大きく嘶き、リリアと共にゆっくり歩き出した。
「ふう……やれやれ、とんだ寄り道になった」
「私は楽しかったけどね♪ それで、私はついていっても大丈夫そう?」
「ああ。恐らく問題ないと思う。だけど一度ドラゴンとの戦いはレクチャーしようと思う」
実戦とはまた違うが、今まで戦ったドラゴンの行動などはメモに入れている。同じ個体とは二度戦ったことは無いものの、概ね気を付けるべきことは似たようなものだった。
「あ、それはいいかも」
「装備の変更も視野に入れる。王都に行ってからだけどな」
「う、やば、楽しみになってきた……! フォルス、ラッヘさんが装備を買ってくれるって」
「ぴゅー!」
クッションから飛び出したフォルスがとてとてと走ってきてセリカ……ではなく俺の膝に乗って来た。
「えー、そこは私じゃないの?」
「最初に拾ったのは俺だからな」
「ラッヘさんは怖い
「ぴゅ」
セリカが猫なで声で手を振るが、さっきまで彼女が抱っこしていたせいか今は俺の方がいいらしい。
「フッ……」
「むう、仕方ない。たまにはお父さんがいいのね」
「誰がお父さんだ」
そんな話をしながら俺達は町を出る。
ここから馬車で四日ほど移動すれば王都だ。食料も買ったし、ゆっくり行くとしよう――
◆ ◇ ◆
――セリカの居た町
「お、商人……うほ!?」
「ぶふー……ぶふー……」
「ず、随分と疲れているな?」
「ええ……ちょっと道を間違えて……」
ラッヘとセリカが旅立ってから少し経った頃、ラッヘがフォルスの親を倒した村に現れた商人が這う這うの体で到着していた。
馬もやや疲れていて、女商人は寝不足といった感じだ。
「とりあえず宿で休んだらどうだ? 金は持っているんだろ? ほら、ギルドカード」
「ああ、ありがとうございます。まあ……もちろんお金はありますが、やることがありまして。まずはギルドへ行こうと思います」
「そうか? 無理するなよー」
門番に見送られて女商人が片手を上げて馬車を進ませていく。商人は町から町へ移動する者なのでこの町にも立ち寄ったことがある。
そのままギルドへ向かい、中へ入っていく。
「セリカが居なくても頑張っているな」
「当たり前だ! 俺達はこれで飯を食っていかなきゃならねえんだしよ。グラースとミントにも悪いだろ」
「はは、頑張ってくれているよデュレは」
「すみません、お伺いしたいのですが……」
そして女商人はギルドマスターのウェイクに話しかけた。
セリカの元パーティメンバーであるフェイスキーパーのメンバーと話していたが、すぐにお客さんだと気づき相手を変える。
「ん? ああ、なんです? 素材の買い取りとかですか?」
「商人さん、みたいですね」
横にずれた魔法使いのグラースがぽつりと呟く。すると女商人はギルドカードを見せながら言う。
「A級商人のスレバと言います。この町に
「ラッヘ? ああ、つい三日くらい前までいたぞ」
「そうですか、居ましたか! ……居た!? もう居ないんですか!?」
「うるさい……!?」
ミントが耳を抑えながらびっくりする。それくらい彼女の声は大きかった。
他の冒険者達が注目する中、さらにスレバは続ける。
「ど、どこに行ったかとかわかりますか!?」
「なんだ、なにか用なのか?」
「ええ、かなり重要な……」
「ドラゴン関係か……?」
真面目な顔でデュレが聞き返すと、スレバは首を振って答えた。
「近いですが違います。彼をビジネスパートナーにしようと思っていまして。ああ、こうしてはいられません。居ないならこんな町に用はありません」
「失礼ね。ラッヘさんの居場所、教えなくてもいいんじゃ?」
「なんですってこの小顔女!?」
「褒め言葉だ!?」
何故か怒りながら褒めていたスレバに、ウェイクは肩を竦めて言う。
「まあ、商人なら教えてもいいがあいつはドラゴン専門の冒険者だ。ビジネスパートナーになってくれるとは思えないぞ」
「そこはこの美貌で……!」
「洗濯板みたいな胸で?」
「いちいち引っ掛かりますねえ……分からせないといけませんか……?」
ミントが挑発して二人がにらみ合う。そこでデュレが頭を掻きながら口を開いた。
「ミント、止めとけって。ラッヘさんはセリカと恋人同士になったからパートナーは間に合ってるぜ? 追いかけても無駄さ」
「え!?」
「そうだな。それでも行くのか?」
「ぐぬう……い、行きます! 恋人になれないなら利用するまで……」
「悪い顔しているなあ」
グラースが困った顔で笑う。
良からぬことを考えているなと誰もが思っているので結局――
「教えるのは無しだな」
「そんな……!?」
――ウェイクはそう判断した。
「もういいです! その辺の人に聞いてみますから!」
「まあ、行先を知っている奴はいねえと思うけどな……」
デュレが呆れながらそう言うが、スレバは怒りを露わにし、がに股でギルドから出ていくのだった。
「……ラッヘさんも大変だな」
「まあ、見つからないことを祈ろう」
四人は彼女が立ち去った方向を見てそう話すのだった――
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