その12 困るラッヘと喜ぶチビ

「それじゃ次は王都だな。金はあるし、のんびり行くか」

「ぶるふん」

「ぴゅー!」


 買い物をして準備を整えた俺は馬車に乗って町の出口を目指していた。

 チビもジョーと少しは仲良くなったようだ。


「んあ? あれ? ラッヘさんどっか行くのか?」

「ああ、ちょっと王都まで」

「そりゃまたちょっとした旅だなあ。休んでいけばいいのに、次の町まで辿り着かんぞ?」

「ま、野営には慣れているから大丈夫だよ。元気でな」

「ええ? またなー」

「ぴゅー」

「ん? いまなにか――」


 と、チビの声を不思議に思っている間に門を抜けた。まだ陽は高いがジョーはあまり休めていないので少し町から離れたら野営をするつもりだ。


「すまんな」

「ぶるる」


 ジョーに声をかけると、特に問題ないといった感じで鼻を鳴らしていた。頼もしいヤツである。

 こいつとの出会いは――


「ラッヘさぁぁぁぁん!」

「なんだ……!?」

「ぴゅー♪」


 急に背後から大声で名前を呼ばれてどっきりする。刺客とかそういうのに縁がないので何者かと思ったら、馬で突撃して来たセリカだった。


「どうした? 挨拶は済ませただろう」

「違うわ! 私、ラッヘさんについていくことにしたの!」

「はぁ!?」


 ふんすと鼻息を荒くしてドヤ顔をするセリカに、いつも冷静な俺が驚きを隠せないでいた。

 そういえば大荷物を背負っていたり馬に括りつけたりしていた。


「ぴゅー♪」

「あら、ストロンゲスト」

「やめろ。定着したら困る。それで、どうしてそんなことを考えたんだ?」


 セリカに手を伸ばすチビを一旦懐に入れ直して首だけにする。そのままセリカに詰め寄ると――


「もう二度とあの町へ帰ってこないなんて私が嫌だから。ずっと、あの助けられた日からずっと好きだった。両親ももう居ないし、ね」

「……」


 好意があるようなそうでもないような気はしていたが、ここで告白されてハッキリとそうだったことを聞けた。


「それは――」

「できないって言うと思うけど、もう会えなくなるより危険でも一緒がいいの! ラッヘさんが私のことを嫌いって言ってもついていくからね!」

「むう……」


 そこまで言われると俺も唸るしかない。出会った時はまだまだ小さい子だと思っていたが。

 ちなみに彼女の両親はドラゴン襲撃の際に命を落としている。俺がもう少し早く駆けつけていればと言ったものだ。しかし彼女は恨み言一つ言わずに『ありがとう』と言ってくれた。


「いつか、ラッヘさんと一緒に居れるように鍛えたんだもん。Aランクなら大丈夫でしょ?」

「……ふぅ、あいつらは?」

「デュレには悪いことしちゃったけど、グラースとミントからはオッケーをもらったわ。もう行くところも無いの。家は残しているからいつか帰れるかもしれないけど、その時は全部終わってからかなって」


 この短時間でそれを……と思ったが、恐らくいつでも旅立てるように用意をしていたのかもしれない。

 ただ、俺の行く先には必ずドラゴンがついて回るため本当に危険なのだ。


「ドラゴンはただの魔物とは違う。本当になにがあるかわからないぞ」

「大丈夫! その謎を解明するためにその子と一緒にいるって決めたんでしょどうせ。だったら夫婦で英雄になろうよ!」

「はあ……気が早いな」


 ああいえばこういう。まあ、俺も元気なセリカが好意を寄せてくれているのは悪い気はしない。どうせ彼女ができるような人生を歩んでいないしな。


「え? いまなんて? 気が早いって――」

「ほら、行くぞ。陽が暮れる前に火が使えるところまで移動だ」

「あ、う、うん! よろしくねラッヘさん!」

「ああ」


 俺と同じく天涯孤独の身だ。本人の意思が固いならついてくるのもいいかと許可する。嫌になれば帰らせればいい。俺と違い、帰る場所はあるからな。


「町を出たって聞いて慌てて馬で追ってきたけど、荷台があるから要らなかったかな?」

「いや、二頭で引いた方が軽くなるからジョーも楽だろう。大した荷も無いしお前が荷台に乗ってもいいと思う」

「いいわね。頼むわよロコ」

「ひひん」

「ぴゅー」


 並走するセリカとそんな話をする。馬はロコというらしく雌馬のようだ。ジョーが気にしているのかチラチラと見ているな。


「とりあえずどうするの?」

「今日は野営だな。次の町に到着したら荷台に繋ぐ道具を仕入れるか」

「そうね!」


 ひとまず計画が変わったけど、基本方針は変わらない。そのことをセリカに伝える。彼女は俺が行くところが目的地だというので俺は苦笑してしまう。


「っと、テントはこれでいいかな?」

「荷台で寝ても良かったんだぞ?」

「えー……だって両想いだし、ほら、夜は……ね?」

「……」


 性急すぎないだろうか。

 そう思いながらとりあえず話題を変えようと焚火を見て喜ぶチビを呼んだ。


「チビ、こっちへ来るんだ」

「ぴゅー?」

「あはは、言うことわかるんだ?」

「そうなんだ。……ドラゴンは人語を解するから、その内こいつも喋るかもしれん」

「言ってたわね。お母さんドラゴンが死ぬギリギリで孵ったのよね」


 セリカの言葉に頷く。

 その時にこの子を殺しても構わないと言われたことは……黙っておいた。


「とりあえずチビに名前をつけてやろう。いつまでもチビとかストロンゲストみたいな変なのは駄目だ」

「いいじゃんストロンゲスト! ……なんでそんな優しい目で肩に手を置くの!?」

「ま、それはともかく名前だ。こいつは雄みたいなので、かっこいい名前がいいと思う」

「ストロ――」

「ストロンゲスト以外で、だ」

「ええー」


 不満げに言うがセリカの声色は楽しそうだった。


「なんにしようかなあ。ねえ?」

「ぴゅー?」


 セリカの方を向いてチビは首を傾げていた。旅のお供が増えたけど、すぐに達成できる目的でもない。ゆっくり調査するかと俺はチビの頭を撫でながらそう思うのだった。

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