その10 フェイスキーパーというパーティ

「いや、セリカが言い出したことだから別にそのつもりはないぞ?」

「ラッヘさん……!? つもりある! あるから!」

「こう言っているぜ?」

「あんたは黙ってなさいよデュレ!」

「なんだよ!?」


 一瞬でギルド内が喧騒に包まれた。

 セリカの所属するパーティである【フェイスキーパー】のリーダーであるデュレとセリカが喧嘩を始めてしまったからだ。

 デュレは赤い髪でツリ目の三白眼をした野性味あふれる男で、剣の腕も立つ頼りになる男である。


「ま、まあまあ、落ち着こうよデュレ。セリカの話も聞いてみないと。ちゃんと説明してくれるんだろう?」


 そう言って間に入ったのは同じくパーティメンバーで魔法使いのグラースだ。水色の髪が映える割とイケメンである。


「もちろんよ! 私はラッヘさんと旅に出るの!」


 バァァァン! という音が背後に見えるくらい堂々とした口調で胸に手を当ててドヤ顔というやつをするセリカ。

 そこへ眼鏡をかけた少しキツイ感じの女の子が口を開く。名前はミント。目つきはきついが可愛い顔立ちをしている。


「そういう理由で抜けていいわけがないでしょう、セリカ。あなたが抜けたら前衛がデュレだけになるわ。そうなるとわたしとグラースが危ないことになるのよ」

「また誰か入れればいいじゃない?」

「「「軽い!?」」」


 俺もそう思うと腕組みをして頷く。パーティは人間関係が一番大事と言っても過言ではない。だからサッと抜けてサッと入るというのは難しい。

 新しい人間があまり馴染めなかったら結局変わらないからな。

 そこで腕組みをして圧迫されて苦しかったのかチビが顔を出した。


「ぴゅ」

「セリカ、俺は別に一人で構わない。気持ちだけ受け取っておくよ」

「ほら、ラッヘさんもああ言っているじゃねえか」

「ダメよ! ストロンゲストを育てるにはラッヘさんだけじゃ無理だもん」

「なんて?」

「ストロンゲスト! ほら、あの子よ」


 そう言ってチビを指さすセリカ。

 というか勝手に名前をつけているだと……!?


「違う。そんな名前じゃない」

「かっこいいじゃないストロンゲスト! ねー?」

「ぴゅー?」


 首を傾げて笑うセリカに同じく首を傾げるチビ。まったく理解していないようで安心した。

 すると目を丸くしたフェイスキーパーの三人がそれぞれ口を開く。


「な、なんだ!?」

「トカゲ……じゃないですよね……? その角……まさか――」

「きゃああああ! 可愛いぃぃぃ! ラッヘさんラッヘさん! ちょっと抱っこさせて!!」

「おう!?」


 驚く男二人に対し、ミントは俺に一気に詰め寄ってきてチビと目線を合わせていた。


「ハッ……! こほん。抱っこ、させてください」

「……ちょっと待ってくれ。チビ、いいか?」

「ぴゅー」


 いいらしい。

 ずるりと胸元から取り出してミントに渡すと、頬を膨らませたセリカが言う。


「あ、ミント抜け駆け!」

「ほら」

「わあ、小さいわ……というかこの子、ドラゴンですか?」

「ああ」


 俺が頷くとデュレが頬を掻きながら俺に話しかけてきた。


「や、やっぱりか……というか滅竜士ドラゴンバスターのラッヘさんがどうしてドラゴンを連れてんだよ」

「まあ、どうせ町を出ていくし話すのは構わないが――」


 前置きをしてちょっと離れたテーブルへ移動し、経緯を話す。するとグラースがミントの抱っこしているチビの鼻先に恐る恐る人差し指を当てながら言う。


「……大人しい、ですね。ドラゴンの幼体を見た人間は僕達くらいなものなのでは? さすがラッヘさん……と言いたいところですがドラゴンは……」

「分かっている。だから基本的に野営して暮らすつもりだ。一応、王都に行って陛下には伝えておく」

「あー……俺達もドラゴンには散々な目に遭わされたから印象は良くねえ。それにしても喋るドラゴンか……ラッヘさんの仇も見つかるかもしれねえな」


 デュレが難しい顔でそんなことを言ってくれる。この三人もこの町出身で、その昔に俺が助けたから心情的にはこっち寄りのようだ。


「元々、俺の生業はドラゴン討伐で危険なんだ。だからセリカを連れて行くつもりはないんだよ」

「だよなあ。ラッヘさんがそんなこと言うわけねえ」

「ですね」

「なら……わたしが行きます」

「話を聞いていたかな!?」

「ダメに決まってんでしょ!」

「お前もな!?」


 キリっとした顔でとんでもないことを言いだすミントと、それを嗜めるセリカ。

 とりあえず説明はしたし、そろそろ出発するかとミントからチビを取り返す。


「ああ……!?」

「ああ、じゃない。では俺は行く。……っと、ウェイクは?」

「居るぞ。ほら、書状だ」

「おお、助かる。仕事が早くて助かるよ」

「これくらいしかできんがな? 気を付けていけよ」


 ウェイクの言葉に頷いてから俺はギルドを出るため入口へ向かう。


「ぴゅー?」

「お別れだ。手を振っておけ」

「ぴゅー」

「うう……可愛い……」

「待ってよラッヘさん……!」


 セリカがなにか言いたそうだったが、俺はそのまま振り返らずにギルドを後にした。


「……名前、考えないとな」

「ぴゅーい」


 セリカには悪いがこれで良かったのだ。ドラゴン討伐はチビの母親を倒した時のように過酷で、慣れている俺でも死にかけることがある。

 ドラゴン以外は殆ど倒さないので金も稼げない。さらに町に入ることもないのでゆっくり休めない。

 ついてきてもいいことはなにも無いのである。


「それじゃ王都を目指すか」

「ぴゅー!」


 馬のジョーを回収するため、俺は厩舎へと向かった――

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