いきなり婚約破棄されたので、聖女になって楽しく生きていこうと思います。

ろんどんべると

第1話 「婚約破棄は突然に」


「フリージア、悪いが君との婚約を破棄させてもらう」


まさか。最近流行りの婚約破棄小説の台詞をこの私が聞くとは、確かに私はオタク系の腐女子のように小説を読みふけっているのは事実だけど、一応リア充の生活をできるスキルは取得している。オリバーとデートをする時は、そんな素振りを見せたつもりは全くないし、こんなはずはありえない。


「なぜ?」


「すまない。君と結婚できないんだ。僕にもどうすることができないんだ」


「どういうことなの?」


「グレース・ヴィンセントと婚約することになった」


オリバー・ライトの言葉を聞いて、絶句してしまった。グレース・ヴィンセント彼女は上位貴族ヴィンセント家の御令嬢、幾多の上位貴族の男性達が攻略できなかった鉄壁の要塞とよばれるガードが堅いお嬢様、そんな彼女がオリバーを指名してきたというのだ。

中流貴族のライト家にとっては、千載一遇のチャンスということで、同じ中流貴族のドラボール家との婚約を破棄しても、進めるべき縁談となったようだった。


「そう…だったの」


ヴィンセント家との格差は雲泥の差、しかも、私は次女、結婚することでしか、生きていけない。下手をすれば上流貴族のジジイ達のお妾扱い。


「ご両親へは既に伝えてある。だから、ここで君とはお別れだ」


「そう…」


「じゃぁ…元気で」


「オリバーも元気で」



中世ヨーロッパを彷彿させる紅色の屋根と白亜の街並みがきれいな首都クラリス、ここが私が生まれ育った街、楽しい想い出がいっぱい詰まった世界が、いきなりモノクロへ変化し、漆黒の闇が私を包んでいった。


「あぶない!!」


この言葉を聞いた瞬間、私の記憶は途切れた。



***



目を覚ますとそこは川のほとりだった。


「ようやく起きたか」


声を掛けてくれたのは、肩まで髪を伸ばし、ひげを蓄えた白い清楚な服を纏った男性だった。


「ここは?」


「地上界と冥界との間だ。あの川を越えると冥界だ」


「ということは、私は死んだの?」


すると男性は黙ってしまった。これが何を意味するのか直感的にわかった。


「そう…」


死んだ方が良かったのかもしれない。この人が言う通りだとするとあの川を越えると冥界に行ける。そう思った私が立ち上がると、男に手をつかまれた。


「待て」


「なによ!!私は死んだんでしょう・だったら、すんなりと冥界に行かせてよ」


すると男性は首を横に振った。


「君はまだ死んでいない」


「どういうことなの。死んだからここにいるんでしょ?」


「違う。君はまだ死んでいない。あれを見ろ」


その男が指をさすとベットで寝ている手をつかんで一生懸命励ましている両親の姿が映った。


「これを見ても、君は冥界へ行くというのかね」


しかし、私は、死にたいと思っていた。

その時だった父の声がしてきた。


「フリージア、すままない。父さんに力がなくて、婚約破棄はつらかったよね。あやまっても許されないよね。でも、本当にごめん。許されなくてもいい。生き返ってくれ、お願いだ」


そんな泣きながら嘆願している父の姿に自然と涙が出てきた。

すると、その男の横に、真っ黒い服を着た人物が現れた。


「これを見て、まだ君は死にたいと思うか」


こんな光景を見せられてただ黙っているしかなかった。もう一度、あの場所に帰りたい、そう思っていると


「もう一度聞く、君はまだ死にたいとおもうのか?」


「死にたくない!!」


「そうだろう。しかし、君はここまで来てしまっている」


「ということは、私は死ぬのですか?」


「残念ながら、今のままでは死ぬことになる」


「嘘でしょう?あんな父を見たら生き返りたい。お願いします。どんなことでもやりますから」


「どんなことでもか」


「はい」


すると黒服の男はうなずいた。そして、生き返る方法を伝えてきた。


「生き返る方法とは、其方に一時的に魔力を注入して、その魔力でよみがえる方法だ。相当な苦痛を伴う上、これまでの記憶は全て失うことになる」


「ど…どういう意味ですか」


「生き返る為には生命力では維持はできない。そのために必要となるのが魔力だ。しかし、普通の人間には魔力を貯蔵する器官が体の中にない。丁度魔力を貯蔵する器官と類似しているのが記憶をしている器官なのだ」


「つまり、私の記憶を消してそこに魔力をいれると」


「その通りだ」


「しかし、それだと私は記憶することもできないのでは?」


「それは、大丈夫。魔力は体内に入ると新たに魔力を貯蔵する器官を生成する。生成が完了すれば、魔力は新しい器官へ自動的にうつる。そうすると記憶する器官は、元の機能を回復する。だから、その心配はない。どうするかね」


私は考えたというより答えは決まっていた。


「やります。やらせてください」


記憶はなくなっても、悲しんでいる両親を見過ごすことはできない。


「それと儂からのプレゼントとして魔法を使えるようにしておく」


「ありがとうございます」


「それでは始めるぞ」


すると髭を蓄えた白い服の男と、黒い服の男にガッシリと押さえ込まれた。騙されたとら思った瞬間


ズブブ


ズブブ


頭に何かが突き刺さりズブブズブブも動き始めた途端、激痛が襲ってきた。


「うぁあああ!!」


目の前かチカチカとなっていく中、体を引き裂くような激痛が下半身から襲ってきた。


ズブブ


ズブブ


「きゃぁあああ!!」


この瞬間で気絶した私なんだけど、次の瞬間、脳天から爪先まで髪の毛一本一本まで突き抜ける激痛が襲ってきた。


「ひぃいいいい!!!」


こうして、私は生き返ることになった。記憶を無くした状態で


***


目を覚ますと見知らぬ中年の男女が驚いた表情をしていた。そして、


「フリージア!!よかった!!」


そう叫んで私を抱きしめたのだった。



この時、白い服の男と黒い服の男が話していた。


「あの女、いい女だったな」


「そうだな。まさかあそこまで上がるとはな」


「ほんと、あれで、地上の連中も少しは変わるかもな」


「すべてのパラメータが100兆とは」


「一応、魔女だと可哀想だから職業は聖女にしておいた」


「聖女?ま…いいんじゃね。と言っても、無敵すぎるだろ」


「多分、地上たと最強」


「そうか、最強か、まっ暖かく見守って行きますか」


「そうだな」


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