049 迎撃戦

 不運なことに、徘徊者の数は俺達の想定より遥かに多かった。

 数十や数百という数では収まらなかったのだ。


 銃弾は30分も持たずに底を突いた。

 そこから先は船に上がってきた敵との近接戦闘になる。


 だが、不運なことばかりではない。

 幸運なこともあった。


 徘徊者が島のある方角からしか現れないことだ。

 その為、俺達は“待ち”の戦法が使えた。


 後方のデッキでただ待っているだけでいい。

 徘徊者が船に上がろうとしたら剣を突き刺して終了だ。

 もしも全方位から攻められていたら詰んでいた。


「歩美、武器の補充をしろ。デッキは4人で十分だ」


「分かった! 剣でいい?」


「槍の方がいい。この様子なら剣よりも槍だ」


「了解!」


 歩美は大量の武器を販売リストに登録している。

 槍に剣、それにボウガンなど、種類も様々だ。


 栽培の情報を広めて以降、武器を買う者はいなくなった。

 それでも販売リストに登録される武器の数は増えていくばかり。

 グループラインでは「誰の仕業?」と騒ぎになっていたものだ。


「この剣はもう使えないな」


 剣の切れ味が落ちてきた。

 先ほどまで軽く倒せていた徘徊者がしぶとく感じる。

 これが武器の交換をする合図だ。


「くれてやらぁ!」


 俺は剣を徘徊者に向かって投げつける。

 そして、歩美が新たに用意した槍を手に取った。


「かかってこいよオラァ!」


 自分を鼓舞する為に叫ぶ。


「あたしゃぜってぇ負けねぇ!」


「プロの料理人になるんだから!」


 波留と千草も叫んだ。


「ググール、あと何分で終わる!?」


 俺は武器を振り回しながらスマホに尋ねる。


「…………」


 スマホからの応答はない。


「大地、『オーケー』が抜けているよ」と由衣。


「ええい、空気の読めないバカスマホめ!」


「私はバカではありません」


「それで反応するなら時間も教えろよ!」


「いや、今のは私の声なんだけどね」と波留。


 女子達が声を上げて笑う。

 俺は恥ずかしさから顔が赤くなった。


「やれやれ、こんな状況でも楽しみやがって」


 俺は大きなため息をついた後、改めて時間を尋ねた。

 今度はしっかり「オーケー」も付ける。


 ポン♪


「残り10分12秒です」


「聞いたか? あと少しだ! 生き抜くぞ!」


 俺達は全力で戦い続けた。


 そして――。


「終わった……!」


 午前4時になった。


 時計を見ていなくても分かる。

 徘徊者が一瞬にして消え失せたのだ。

 穏やかな海に戻る。


「勝った、勝ったぞ……」


 俺はすかさず周囲を確認。

 誰一人として欠けていなかった。

 怪我を負った者もいない。


「俺達の勝利だ!」


「「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」」


 2時間に及ぶ徘徊者との激闘が終わった。


 ◇


 疲労が凄まじいので、まずは体力の回復だ。

 各自で適当な食事を買って食べる。

 流石の千草も、戦闘の後に料理をする元気はなかった。


 食事が終わると軽く眠る。

 だがその前に、シャワー室で汗を流しておいた。

 あと、新しいウェットスーツに着替える。


「本当に俺がここでいいのか?」


「別に私は大丈夫だよ」


「大地君が隣だとちょっと緊張するけど、私も平気」


 ベッドでは俺が真ん中で寝ることになった。

 右手に歩美がいて、左手に千草がいる。

 由衣と波留は両端だ。


「こうやって皆で寝るのっていいよなぁ」


 波留が呟く。


「脱出したら皆で旅行しようよ」


 提案したのは歩美。


「いいじゃんそれ! でも、大地だけ別の部屋な!」


「マジかよ」


「冗談に決まってんじゃん!」


 波留がニシシと笑う。


「その時は波留が大地の隣だね」と由衣。


「ばっ! そんなのごめんだし!」


 波留は顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「相変わらずだな、波留は。なんならまた手を繋ぐか?」


 俺も一緒になってからかう。

 すると、その言葉に波留以外の女子が反応した。


「また!?」


「大地君と手を繋いだの!?」


「いつのまに……!」


「あーもう! 知らない知らない知らない!」


 波留は俺達に背中を向けて丸まった。


 ◇


 午前9時30分頃に活動を再開する。

 わりと多めに睡眠を取ったことで体力は完全に回復した。


「ここからは全速力で行くぞ」


 俺は操縦席に座り、後ろに向かって言う。


「いつでも大丈夫だよ」


 女子を代表して由衣が答えた。

 女子達は船内のソファに座ってこちらを見ている。


「それでは、いざ小笠原諸島へ!」


 俺は手動運転モードに切り替え、最大馬力で船を動かした。


「おおー、スピードが上がっていく!」


 波留が興奮している。

 歩美は慌てて酔い止めを服用した。


「流石の高級クルーザーでも揺れが激しくなってきたな」


 スピードの上昇に比例して揺れが強くなる。

 50ノットを超えた頃には漁船の如き勢いで揺れていた。


「こりゃいかん」


 俺も慌てて酔い止めを飲む。

 歩美以外の女子も同じく。


 漁船レベルの揺れだと、漁師以外は基本的に酔う。

 昔、なにかの番組で漁師がそう言っていた。

 どれだけ船酔いに強い人間でも、最初の頃は酔うものらしい。

 一流の漁師だって最初は酔いまくったという。

 最初から酔わない人間なんて全体の1割にも満たないそうだ。


「ここからさらに激しくなってくるぞ。皆、前を見ろ」


 俺は前方を指した。

 綺麗な青い空が消えて、濃い雲が漂っている。


「いよいよだ」


 水野の言っていた通り、脱出を拒む悪天候がやってきた。

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