022 私をフレンドリストから削除して

「やっぱりダイニングキッチンがあると現代人っぽいな」


 千草の作ったダイニングキッチンは完璧だった。


 布団地帯があった場所は使用せず、その隣のフロアにダイニングがある。

 そこには、5人で使うには広すぎるダイニングテーブルが置かれていた。

 ダイニングはその次のフロアにも続いている。


 キッチンは新しく拡張したフロアに作られていた。

 シンクは壁面ではなく、キッチンフロアの中央にある。

 たしか「アイランド型」と呼ばれるタイプだ。


 当然ながらシンクには水の出る蛇口が完備。

 食材をカットするスペースも備わっている。


 コンロや電子レンジは壁側。

 使えるのかと試したところ、普通に使うことができた。

 千草によると、追加費用を支払うことで使用可能になるらしい。


「美味しい料理を作るから楽しみにしていてね!」


 ピカピカのキッチンで千草が料理に励む。

 彼女は所持金の大半をキッチン周りの拡充に費やしていた。

 自身の部屋にあるのはベッドくらいなものだ。

 強烈な拘りを感じるし、なによりキッチンの充実具合が半端ない。

 食器から調理器具まで必要な物が揃っている。


 俺達はダイニングテーブルから千草の様子を眺めていた。

 よほど上機嫌のようで、千草は尻をプリプリと振っている。


「エプロンまで買っちゃってまぁ!」


 俺の正面に座っている波留が頬を緩めた。


 しばらくはその場で雑談に耽る。

 キッチンから届く香りが食欲をそそった。


「おっと、忘れていたぜ」


 俺は席を立った。


「土地を買わないとな」


 なんだかんだで先延ばしになっていた土地の購入。

 ついにそれを行う時がやってきた。


「気になることがあるし、私も一緒に行くよ」


 由衣が俺に続く。

 波留と歩美はダイニングで過ごすようだ。

 歩美が「行ってらっしゃーい」と手を振ってきた。


「そんじゃ、買うぜ」


 由衣と共に洞窟を出ると、目の前の土地を購入する。

 スマホを取りだし、〈ガラパゴ〉を起動して、購入タブで土地を選択。

 購入する土地の場所を選べとの文言と共にカメラモードが起動する。

 俺は足下に焦点を合わせた。


 土地の価格は5万pt。

 購入ボタンを押すと、あっさり買うことができた。

 初めて買おうとした時とは違い、エラーログは表示されない。


 チャリーン♪


 クエスト「土地を買おう」をクリアしたようだ。

 クエスト報酬は相変わらずの1万pt。

 今の俺にとっては微妙に感じる額だ。


「土地にも入場制限をかけられるようだな」


「ほんと? どうやるの?」


「拠点タブにあるよ。土地の管理ってボタン」


「あ、ほんとだ」


 入場制限の種類は拠点の時と同じだった。

 〈自分のみ〉〈フレンドのみ〉〈フレンドのフレンド〉〈誰でも〉の4つ。


「土地と拠点の入場制限は別々にできるみたいだね」


「土地だけ〈誰でも〉にできるってことか。便利だな。ところで、さっき言っていた気になることって入場制限のことか?」


「そうそう。後はブロックごとに入場制限をかけられるかってことも」


 ブロックとは土地の単位のことだ。

 10メートル四方で1ブロックである。


「折角だし試してみるか」


 今しがた購入した土地に隣接しているブロックを選択。

 隣接しているブロックは3つあるが、その中でも川に近いものを選んだ。

 最終的には川まで土地を広げたい、と密かに企んでいる。


「買ったぞ」


 2ブロック目を購入。

 由衣がすかさずスマホで確認。


「ブロック単位ではできないみたいだね」


「拠点もフロア単位で設定できないし、まぁ予想通りだな」


 由衣は「そうだね」と頷く。


「あと1つ試したいんだけどいいかな?」


「いいぞ、俺はなにをすればいい?」


「私をフレンドリストから削除して」


「えっ?」


「見えない壁について検証したいの」


「一時的に削除するってことだな」


「もちろん。ここから出て行くと思った?」


「ちょっとな」


「そんなわけないでしょ」


 クスリと笑う由衣。


「じゃ、削除するぞ」


「お願い」


 俺はフレンドリストから由衣を除外した。

 その瞬間、彼女の身体がブロックの外に弾き飛ばされる。

 由衣は派手に尻餅をついた。

 こっちに向かって見事なM字開脚が決まっている。

 スカートの中が見えた。ピンク色だ。


「大丈夫か!?」


「ちょっと痛かったけど平気」


 由衣は立ち上がり、何食わぬ顔で尻に付着した砂を払い落とす。


「そういや、俺からフレンドを削除する必要あったのか?」


「言われてみればたしかに。別に私からやっても良かったね」


 由衣がスマホを確認する。


「拠点タブは残っているけど、共同管理者ではなくなったみたい」


 俺も拠点タブを確認する。

 たしかに共同管理者の項目から由衣が抜けていた。


「管理者権限は同じでも、土地の所有権自体は俺になっているんだな」


「そういうことだね」


 そう言うと、由衣は落ちていた石ころを拾う。

 すぐになにがしたいのか分かった。


「見えない壁に石が弾かれるか見たいわけだな」


「その通り。堂島さんを追放した時から気になっていたの」


「たぶん弾かれるよ」


「試してみるね」


 由衣がこちらに向かって石を投げつける。

 案の定、石は見えない壁に弾かれた。


「ほらな」


「ほんとだ――あっ、角ウサギ」


 話していると茂みから角ウサギが現れた。


「そういや見えない壁って敵性生物の侵入を阻むんだよな」


 俺の言いたいことを由衣が察する。


「角ウサギで試してみる?」


「だな」


 俺達は二手に分かれて、角ウサギを誘導する。

 角ウサギは俺達から逃げようとして、俺達の土地に突っ込んだ。


「キュッ!?」


 だが、角ウサギは見えない壁に阻まれた。


「捕まえた!」


 怯んだ角ウサギを由衣が捕獲。

 どうやら捕まえるだけではお金にならないようだ。

 角ウサギは由衣の手から逃れようと暴れている。


「由衣、そのまま持ってて」


「何かするの?」


「土地の入場制限を〈誰でも〉に変えてみる」


 これは川を買いたい俺にとって大事な検証だ。

 川の土地を買っても、見えない壁で魚が入れないのでは意味がない。

 だから角ウサギで試しておく。


「これでよし。角ウサギを放り込んでくれ」


 土地の入場制限を変更し、由衣に合図を出す。

 由衣は見えない壁の前で角ウサギを放した。


「キュイイー!」


 角ウサギが全力で逃げていく。

 その際、俺達の土地を横断していった。


「設定が〈誰でも〉だと動物も入れるみたいだな」


「深夜の猛獣も入れるのかな?」


「どうだろうな。でも、入れると考えるのが普通だろう」


「それもそうだね」


 これで検証は終了だ。


「じゃ、後はフレンド登録をして戻るだけだな」


「だね」


 俺は由衣をフレンドリストに再登録した。

 拠点の共同管理者にも設定しておく。


「大地ー、由衣ー、ご飯が出来たよー!」


 波留がダイニングからひょいっと顔を覗かせる。


「ナイスタイミングだな。すぐに行くよ」


 さて、千草の作ったご馳走にありつく時間だ!

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