020 無茶かどうかは俺が決めるんじゃねぇ
4日目が始まった。
目覚めると顔を洗い、グループラインを確認する。
いつの間にか身についた朝のルーティンワークだ。
「おはよー、大地君」
俺の起床から少し遅れて女子達も起きる。
大体は同じ頃合いに起きるが、波留だけはいつも遅い。
ワンパク坊主のように四肢を伸ばして眠っている。
「シーツの洗濯しておくね」
「私も手伝うー」
由衣と歩美が布団のシーツを剥いでいく。
それでも波留は寝たままだ。
「波留のはどうする?」と歩美。
「自分で洗わせたらいいんじゃない?」
「だよねー」
二人は剥いだシーツをグルグル丸めて、洞窟の奥へ持っていく。
「ふんふんふーん♪」
千草は鼻歌を歌いながら朝食の準備。
カット済みの食材を購入し、串に刺していく。
「いつまでも串焼きですまんな」
「気にしないでいいよ。これでも十分に楽しいし」
「食えるだけ十分ってことで、キッチンはどうしても優先度がな」
「仕方ないよ。それより、ラインのほうはどう?」
「そうだな、えっと――」
俺は未読のログをサッと流し読みする。
「――特にめぼしい情報はないな」
「そっかぁ」
「木の上安全説が確定したことくらいかな。昨日や一昨日に比べると落ち着いているよ」
流石に4日目ともなれば、発狂している者はいなかった。
それどころか、この環境を楽しむ者まで現れている。
「余裕こいてこんなことしてる奴がいるぜ」
俺はグループラインにアップされている写真を見せた。
「すごっ! ハンモックだ!」
写真では、リア充そうな男子がハンモックで寝ていた。
夏にサーフィンをしていそうなこんがり焼けた肌の男だ。
褐色の肌が健康さを遺憾なくアピールしている。
俺の青白い不健康そうな肌とは大違いだ。
「このハンモックって自作なのかな?」
「ハンモック自体は〈ガラパゴ〉で買ったんじゃないかな。設置は自分でやったと思うけど。なんにせよ、木の上に寝床を作るって発想は大したものだ。大半の人間は一時的な避難場所としてしか考えていないだろうに」
ラインのログを読み終えたので生存者を確認する。
生存者数は442人だ。
「昨日の朝は458人が生きていたから、死んだのは16人だな」
「死ぬ人の数、だいぶ減ったね」
「順調に慣れてきているな、この環境に」
ふと気になった。
谷で集まっている奴らはどうしているのか、と。
大半は拠点の外で夜を過ごしているはずだ。
もう一度ラインを開いて調べてみた。
どうやら他と同じで近くの木に登っているようだ。
1本の木に対し数人単位で避難している。
想像するだけで辛そうだ。
「この数日で約100人が死んだんだよね。改めて考えると凄い数」
「俺達も気をつけて活動しないとな」
話していると波留が目を覚ました。
むくりと起き上がると、寝ぼけ眼をこすりって周囲を見ている。
そんな波留を見て頬を緩めた後、俺は千草に言った。
「さて、今日も頑張るとしようか」
「おー!」
スマホをポケットに戻し、千草の作業を手伝う。
◇
今日は釣りと販売に分かれて行動する。
組み合わせは2日目と同じだ。
俺と波留が釣りで、残りが販売を担当する。
「うおっ、ヘビだぁ!」
川へ向かう道中、俺達はヘビに遭遇した。
「この島には色々なヘビが棲息しているな」
これまでもヘビは見てきた。
種類は色々だが、基本的に大きい。
動物園で見たニシキヘビと同じくらいだ。
そして、どいつもこいつも危険そうな見た目をしている。
目の前にいるヘビは鉄鋼のような皮をしていた。
こちらに気付く様子はなく、するすると横の茂みに消えていく。
俺達はホッと胸を撫で下ろす。
「昼の動物って襲わないのかな?」
「そんなことないぞ。ラインで誰かが襲われたとか言っていたな。この辺は平和みたいだけど、場所によっては熊とかも出るらしい」
「怖ッ!」
「とはいえ、そろそろ角ウサギ以外も狩っていかないとなぁ。たとえばさっきのヘビくらいはサクッと倒したいものだ」
「大地、無茶はやめたほうがいいよ」
「無茶かどうかは俺が決めるんじゃねぇ」
「!?」
「オーケーググール、ニシキヘビサイズのヘビと遭遇した時の方法を教えてくれ」
「出たぁ! 反則技!」
「ふふん、こいつがあればヘビなんざザコよ」
ポン♪
「逃げましょう」
「ほれみぃ! 無茶じゃんか!」
波留が声を上げて笑った。
◇
今日も釣りの成果は
俺は槍だから安定しているが、波留のほうはまるで釣れていない。
ボウズこそ回避しているものの、昼が近づいても釣果は1匹のみ。
「こんなに魚がいるのになんでだよー!」
波留は団子状の餌を釣り針に付けながらボヤく。
たしかに川の中には大量の魚が泳いでいる。
波留の餌に反応こそ示すものの、昨日のようには食いつかない。
川の流れに身を委ねて消えていくのだ。
次から次へと新たな魚が左から右に通過していた。
「これじゃあ土地を買うなんて夢のまた夢じゃんか!」
「そうなんだよなぁ」
今でこそ洞窟で暮らしている俺達だが、当初は家を建てようと考えていた。
家を建てるには土地が必要だ。
そして土地は、拠点に隣接している部分を買うことができる。
幸いにも拠点は持っているので、今すぐに土地を買うことは可能だ。
ただ、土地は1ブロック――10メートル四方――当たり5万ptもする。
あえて買う理由がない為、今は後回しにしていた。
「歩美達のほうも微妙ぽいし、なにかないものかねぇ」
波留は川に沈んだ釣り針を凝視している。
「うーむ……」
俺は流れてくる魚に向かって槍を伸ばした。
しかし魚は嘲笑うかのようにひらりと回避する。
そして、そのまま俺の股を抜いて泳ぎ去ろうとする。
「逃がすか!」
俺は咄嗟に股を閉じた。
もちろん間に合わない。
「クソッ、一足遅かったか!」
「一足どころじゃないっしょ!」
波留が笑っている。
「いやぁ、あと数秒早く股を閉じていたら分からなか――!」
会話の最中、俺の全身に電流が走った。
「そうか、その手があったか!」
閃いた。
「なになに? どうしたの?」
「クックック……!」
自然と笑みがこぼれる。
これぞまさに天啓と言えるだろう。
「波留、俺は気付いてしまったぜ」
「だからなに!? なにに気付いたのさ!?」
「安定して金を稼ぐ方法さ」
「えっ!? マジで!?」
「たぶん……! いや……! ほぼ確実にいける……!」
閃いた方法を脳内で検証する。
成功する未来しか見えなかった。
「とりあえず昼メシを食いに戻ろう。詳しいことはその時に話す。上手くいけば一攫千金も夢じゃないぞ」
荒稼ぎする自分の姿を想像すると、ニヤニヤが止まらなかった。
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