第11話 初めての帰り道の話
そして授業が始まって、一限目は生物。授業初日にして私の関心は隣の橘さんの方へ。
同じ服装、同じ顔、普段と何も変わらない。そんな相手でも、場所が違うだけで全然違う雰囲気を醸し出している。整った顔立ちも長い髪も、朝の光でよりキラキラして見える。
かわいいなぁ。あまり芸能人とか美容とかに詳しくない私でも思うんだから、きっとモテるんだろうなぁ。
そんなことを考えてちょっと胸がちくっとする。
別にただの友達で、向こうが幸せなら私だって幸せ、そういう関係が友達だと思うけど。今の私は、私以上に親しい友達を作ってほしくないって、そう思ってる気がする。
だって私以上の相手ができたら、私を見てくれなくなる気がする。いや、きっとちゃんと私のことも同じくらい見てくれはするんだろうけど。そんな不安が付きまとって、離れない。
なんやかんや言ったりしてるけど、私は橘さんのこと、思ってる以上に大好きなんだなぁ。
そんなことを考えたりして腕枕をしてたら、先生に頭を教科書で叩かれた。
先生が小言を言って、それにクラスから明るい笑いが聞こえてきて。少し痛い頭を擦ってたら、橘さんが私を見てニマニマしてるのが見える。
何気ない笑顔にちょっとドキドキして、こんな状況を見られて恥ずかしさでまたドキドキして。そのまま教科書に顔をうずめる。
そのまま授業に身が入らなかったのはいうまでもない。
「葵ちゃん、午前おつかれ~」
お昼休みに入って、そう声をかけられる。1限目の気疲れも含めて、久しぶりの授業で疲れたから気だるげに答える。
「それにしても、いつも冷静な葵ちゃんがぼーっとしてるなんて、珍しいじゃん」
「とか言いつつ、ちょっと前にぼーっとしてたのはどこの誰だっけ?」
そういって、二人のクラスメイトが現れる。眼鏡が似合う文学少女っぽさそうな子と、髪を金に染めてるギャルっぽい感じの子。
「そ、それは……えっと……その……」
何か思い当たる節があるみたいで目が泳いでいる橘さん。学校だとそんな感じなの? 学校での姿は今日が初めてだから、全然話についていけない。
「最近ね、澪ちゃん何か考えてぼーっとしてるようなことが多いんだー」
そう文学少女ちゃんが補足を入れてくれる。
「で、この子がみおっちの言ってた高田ちゃんか~。 よろしくね」
「う、うん。よろしく」
「ちょーっと人見知りか? まぁでもみおっちと仲良くなれそうなタイプかもな」
「なーにー、その言い方」
「いつもこんな感じだけど、なんやかんやで仲いいから。こちらこそよろしくね、高田さん」
橘さんとギャルちゃんが他愛無い言い合いをしてる中、文学少女ちゃんとも無事軽いあいさつを交わして昼食に戻る。
「あれ、葵ちゃん菓子パンなんだ、意外かも」
「あまり朝強くないからね、お弁当作るのは大変で」
私と橘さんが二人菓子パンで、残りの二人はお弁当。ギャルがお弁当って、なんか意外かも。私だけかな。
「せっかくだし作ればいいのに」
「簡単に言わないでよ。朝早起きするのは多分、いや絶対無理!」
「高田ちゃんって思ったより明るい子なんだな」
思わず声が大きくなった結果、意外なんて言葉を投げかけられる。しまった、今まで二人だったからこんな感じだったけど、クラスでは知らない子とかもいっぱいいるわけだし。周りのクラスメイトにどう見られてるのか、警戒して縮こまる。
「あれ、黙っちゃった。おーい」
「まぁまぁ、最初の日なんだし、もう少し優しくいこ?」
「まぁそっか~」
警戒心むき出しになってないかな。自分で自分がどんな表情をしてるかわからないから怖い。でも、こんな私にも普通に接してくれて。それがちょっと嬉しかった。
眠くなる五限六限を何とか乗り切って、ちょっとお腹が減った気のする帰り道。橘さんと二人で校門を抜けて駅まで歩く。
「いやー、疲れたね~」
「ほんとだね~」
「どう? 明日からも学校これそ?」
「なんとか、かな」
「いいところでしょ、うちの学校」
「そうかもね」
「あ、でも久しぶりに学校来たんだし、テストとかあるかもね」
「うっ」
すっかり忘れてたけど、学校だもん。テストとかもあるし、今までの分の補修とかもきっとあるし。そのためにあの時テスト勉強もしてたんだし。全部が繋がって、過去の自分に返ってきて痛い。
「まーまー、半分くらいは冗談だよ」
「つまり半分は本気じゃん」
「そりゃーそうだよ。だって学生の本分は勉強でしょ?」
「急にまじめちゃんになったし……」
駅で電車に乗った後も、こんな会話は続く。すでに足は疲れ切って棒みたいになってるけど、生憎椅子が空いてないからドアに寄りかかるようにして立っている。
ふと窓を見ると、夕焼けが見えてちょっと綺麗。でも、夕焼けでちょっと寂しくもなる。なんとなく別れのイメージがするから。
「そういえば、いつの間に学校行けるようになったんだ」
ちょっと口をとがらせて聞いてくる。
「なんで怒ってるの」
「だってあの時約束したのに」
「あのとき……うん……」
『せめて、学校に行こうって思えた時には、一緒に行ってくれませんか』
全く聞かれないなぁ、なんて朝は思ってたけど、やっぱり聞かれるよね……。その言葉を忘れたわけじゃないから、罪悪感で目を逸らす。そしたら『反省してないでしょ』なんて言われる。少し当たりが強い。
「ごめん、すっかり忘れてた!」
「も~、明日は一緒に行くんだからね!」
「えー、それはちょっと……」
怒る橘さんをなだめようとしたら、最寄り駅に到着するアナウンスが鳴ってしまった。もうちょっと話していたかったな。こんな時だけ家から学校まで近いことを恨む。
そもそも明日も学校に行けるかな。今までで諦め癖が付いちゃったのか、そんな気持ちになる。いや、橘さんに会いたいんだもん。頑張って行こう。そう決意を固めて。
「橘さん、また明日!」
ちょっと大きな声が、人のまばらな駅に響いた。
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