第63話 合鍵と自覚
「ただいま~。」
いつものように鍵を開けて玄関の扉をあける。
今日は特に部屋に異常はなくいつもの俺の部屋だった。
「っと、さすがに今日はあいついないんだな。」
最近ずっと一緒にいたため月がいないほうが逆に違和感を覚えてしまう。
「まあ、いいか。カップ麺とかあったっけ?」
棚を探してみるがインスタンス食品類は全然見つからなかった。
「そういえば、月と夕飯を食べ始めてからインスタンスの食品にお世話になる機会が全然なかったからな。当然と言えば当然なのか?」
今からコンビニに行くのが一番なんだろうけど、正直もう外には出たくない。
一日中遊園地ではしゃいでいたから体力的にももう限界だ。
「仕方ない。今日は夕飯抜くか。」
コンビニに行くのもめんどくさかったため今日は何も食べないことにした。
別に今日は土曜日だから明日何か買いに行けばいいだろ。
「八時か。久しぶりに配信でも見るとするか。」
せっかく久しぶりの一人の時間ができたため俺は久しぶりに推しの配信を見ることにした。
「、、、、、、」
配信を見ていたのに、前のように癒されている感じがしない。
(俺、今日体調でも悪いのか?)
そんな自分に疑問符を浮かべるが心当たりはあまり多くはない。
でも、あるとするならば最近は人が近くにいたからなのだろうか?
そういえば、俺が配信にはまりだしたのは”独り”の時間が増えてからだったか。
「美波に言われたことがあったな。今は現実逃避しててもいいけどいつかは向き合わないといけないよ。って。そろそろ本当に向き合わないといけないのかもしれないな。」
怖いけど、いつまでも怖がっていたら俺は一生前に進めない。
「頑張りますか。まあ、その向き合い方なんてわからんのだがな。」
まずは、他人を信用するところから始めようかな。
俺はいったんそう思って眠りにつくのだった。
……………………………………………………………………………………………………
「んああ、」
窓から差し込む光で目が覚めた。
時刻は午前八時。
いたって健康的な起床時間だと思う。
ピンポーン
と、俺が自分の起床時間について自画自賛をしているとインターホンが鳴った。
「この時間のインターホンはあいつしかいないな。」
ベッドから降りて玄関に向かいカギを開ける。
「おはよう!蒼君。いい朝だね。」
「おはよう。月。どうしたんだ?こんな朝早くに。」
「うん?いや、せっかくだから朝ごはんでも作ってあげようかなと思って。」
「それはとてもありがたいんだが、今の冷蔵庫にはなんも入ってないぞ?」
だってそれで昨日は何も食べてないんだもの。
「大丈夫。私の家から持ってくるから。」
「なんか申し訳ないな。」
「気にしないでいいよ。じゃあ、持ってくるね~」
(なんか、結構申し訳ないな。)
「持ってきたよ~サンドイッチでよかった?」
「もちろん。ありがとう月のご飯が朝から食べれるなんて嬉しいよ。」
「私もそう言ってもらえてうれしいよ。じゃあ、待っててすぐに作るから。」
テキパキとサンドイッチを作る月はなんだか新妻のように見えた。
(て、何を考えてるんだ俺は、)
すぐに頭を振ってそんな思考を四散させる。
「ん?どうしたの?そんなにぶんぶん頭を振って。」
「いや、なんでもない。」
月は頭に?を浮かべていた。
「そう?まあいいや。できたよ~」
月はそう言いながらサンドイッチを持ってきた。
「ありがとう!」
月が持ってきてくれたサンドイッチを一口食べる。
「うまい!」
噛んだ瞬間に広がるトマトの酸味とチーズの甘味。
レタスのシャキシャキとした食感。
はっきり言って今まで食べたことのないくらいおいしいサンドイッチだった。
「本当?うれしいなぁ。」
「こんなところで嘘なんてつかないよ。本当においしい。」
「蒼君って結構素直に物事を言うタイプなんだね。ちょっと意外。」
「別に普通じゃないか?」
月の俺に対する印象が気になるが、別に俺は思ったことは言うタイプの人間だと自負している。
「なんかちょっと意外だな。蒼君って他人にはそんなに素直じゃないと思ってたんだけど?」
「まあ、それはそうだけど月はもう他人ってわけじゃないしな。」
「へ、そ、そうなの?」
「いや、逆にこんなに長い時間一緒にいて他人は結構無理があるだろ。」
まあ、月が俺と真摯に向き合ってくれてるから俺も最近月のことを信用できるようになったのかもしれない。
今までの俺では考えられないな。
「なんでそんない顔が赤いんだ?」
「べ、別になんでもないよ。」
耳まで真っ赤にした月が顔を俯けていた。
「そうか。あ、これ受け取ってくれないか?」
「これって。」
「ああ。うちの合鍵。いちいちインターホン鳴らすの面倒だろうし。」
「え、いいの?前までストーカーって言われてたのに私。」
(あ~そういえば、そんなこと言ってたな。)
「いや、今はもう月のことをよく知ってるし君は別に変なことはしないだろ?」
「まあ、それはそうだけどさ。」
「まあ、受け取ってくれよ。君に彼氏ができたり。俺のことが嫌いになったら返してくれればいいからさ。」
「それはない。」
瞬時に硬い声でそう帰ってきて俺は少し苦笑してしまった。
「そうか。じゃあ、持っててくれ。いつでも来てくれていいからさ。」
「うん!じゃあ、そうさせてもらうね。あと、蒼君一ついいかな?」
「なんだ?」
月はいつになく真剣な顔で俺に声をかけた。
「私達連絡先交換してないんだけど、交換してくれないかな?」
スマホを差し出しながらお辞儀をしている月はなんだかプロポーズしている人のように見えて面白かった。
「そういえば、交換してなかったな。もちろんいいよ。ていうか合鍵渡す前に交換するべきだったな。順番がぐちゃぐちゃだ。」
「確かにそうかも。蒼君っていきなり大胆なことするよね。」
ふふっ。と月は笑っていたがそう笑われるとなんだか恥ずかしくなってしまう。
(確かに連絡先より先に合鍵って変だよな。)
「う、うるさい。早く交換しよう。」
「うん!」
二人してスマホを操作して連絡先を交換した。
あまり、人の連絡先を入れることがなかったので少し手間取ってしまった。
「改めてよろしくな月。」
「うん!よろしくね蒼君!」
月が笑顔でそう言ったのを見て胸がときめいた。
奏とのことがあってからこんなことはほとんどなかったんだが、少しづつ俺は月のことを好きになっているのかもしれない。
いや、こんなことを考えている時点で好きなんだろうなぁ~
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