第59話 向き合う美波と臆病者
「お待たせ。ごめんね。待たせちゃって。」
美波は手を振りながら俺たちのほうに駆け寄ってきた。
どうやら、うまく向き合えて克服できたのかもしれない。
(ほんと、自己嫌悪に陥りそうだよ。)
俺なんかよりもずっとつらい思いをしてるのに俺よりもずっと早く向き合って、壁を乗り越えた。
彼女は本当に強いと思う。
俺は、そんな彼女がうらやましい。
自分にも彼女のような強さが欲しい。
俺も、彼女のように自分に起こった事実と向き合いたい。
(でも、俺にはそれができない。いや、できなかったんだよな。)
最初は向き合おうとすらせずに、逃げるように今の高校に進学してきた。
そして、この前彼女と、奏とあったときに思った。
(俺には向き合う事なんて不可能なんだと気づいたんだ。見るだけで、あの時の記憶がよみがえってくるんだよ。)
うわきのようなことをされた絶望感。
自身の最愛の人が自分以外の男と付き合っていることに対する憎悪。
自身の半身を失ったような喪失感。
そのすべてが押し寄せてきた。
いっそ死んでしまおうかとも思ったことがある
(正直吐きそうだった。今思い出すだけでも体調が悪くなる。)
「蒼?どうしたの、大丈夫?顔色がすごく悪いけど。」
「本当だ。蒼君大丈夫?どこかで休む?」
(ああ、だめだ。せっかく美波が前を向けたんだから俺がこんなところで自己嫌悪に浸っている場合じゃない。)
「いや、大丈夫だよ。少しタクシーで酔ったのかもしれない。これくらい少し座ってれば治るよ。そんなことよりも、もういいのか?」
「うん。大丈夫、しっかり私なりに向き合うことができたから。」
ああ、うらやましい。
美波の強さが。
過去と、トラウマと向き合うなんて誰もができることじゃないのに。
「よかった~おめでとう美波さん!」
「ありがとう月ちゃん。」
「それなら、ぼちぼち帰るか。美波は向き合って精神的に安定したかもしれないけど、一応病院の先生にもう一回見てもらったほうがいいだろうしね。」
俺は今自身が考えてることをごまかすようにそういった。
いや、ごまかしたのだ。
俺は、これ以上こんなことを考えたくない。
大切な幼馴染にこんな醜い感情を向けたくない。
(”俺は、これ以上星乃 蒼を嫌いになりたくない。”)
「そうだね。もう周りも暗くなってきたし帰ろうか。」
「わかった。タクシー呼ぶからちょっと待ってて。」
俺は二人から少し距離をあけてタクシー会社に連絡を入れて迎えに来てもらった。
そのあとは何事もなく美波を病院に送り届けそこからは俺と月は徒歩で帰ることにした。
「ねえ、蒼君。」
「どうした?」
「さっき本当は何を考えてたの?」
「、、、さっきっていつのことだ?」
「美波さんが私たちに声をかけてきたときすごく顔色が悪かった時のこと。本当は何があったの?」
六月の夜。
少し熱くなってきた夜道で月は俺の隣を歩きながらそんなことを聞いてきた。
その眼はどこまでも真剣でごまかすことや嘘をつくことは許されないような気がした。
「別に、大したことではないよ。本当にしょうもないことさ。」
「それでもいいから。蒼君があんなに顔色悪くなるなんてそうそうないじゃない。それこそ、少し前のショッピングモールの時くらいしか今まで見たことない。」
「、、、」
「なんで黙ってるの?」
別に言えないわけじゃない。
ただ、言いたくないんだ。
いつからか、俺はこの子に嫌われたくない。
そう思うようになっていた。
だから怖い。
俺があの時抱いた醜い感情を月に話して嫌われてしまうことが。
勿論、月がそんなことで俺を嫌いにはならないと理解はしてる。
でも、怖くて仕方がない。
(俺は臆病だから、”もし”が怖いんだ。)
もし、本当のことを言ってきらわれたら?
もし、彼女と話すこともできなくなったら?
もし、もし、もし、もし、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます