第54話 がーるずとーく

「じゃあ、美波は月が剥いてくれたリンゴでも食べながらゆっくりしててくれ。俺は担当医に話を聞いてくる。その間美波を頼んだ。」


 そういって蒼君は病室から出て行った。


「そういえば月ちゃん、蒼を名前で呼ぶようになったんだね。」


「え?うん、まあね。」


「よかったよかった。蒼もやっと三次元に目を向けれるようになったんだ。」


 美波さんは心底嬉しそうに微笑んでいた。


(本当に彼女は蒼君のことを考えてるんだ。)


 なんだかうれしいな。

 蒼君のことをこんなにも考えていてくれるなんて。

 多分美波さんがいたから蒼君はあんな目にあっても人にやさしくできるんだろうなぁ。


「美波さんって蒼君のこと好きなんですか?」


「うーん、好きっちゃ好きだよ?もちろん友人、幼馴染としてね。心配しなくても私は月ちゃんのライバルになるつもりはないからさ。」


 あはは。と美波さんは気さくに笑っていた。

 その様子は前にあったときとあまり変わらなくて、だから逆に心配になった。

 普通、恋人が目の前でそれも自分のせいで死んでしまったら私は正気を保てる自身がない。

 それどころかきっとふさぎ込んで誰とも話せないと思う。

 でも、美波さんはこうして普通に会話してる。

 だからこそ、無理してるんじゃないかと心配になってしまう。


「そ、そうなんですか。」


「うん。蒼は昔から優しかったし、一緒にいて楽しいけど近くにいすぎたからなのか恋愛対象としては見れないんだよね。」


「それ、蒼君も言ってました。」


「やっぱり?そうだよね。というか蒼は当分は恋愛なんてしないだろうしね。」


「やっぱりそうなんですか?」


「うん。あの時の心の傷はまだ全然治ってないと思う。今はあの環境から離れて落ち着いてるけどそれはただ目をそらしてるだけ。嫌なことから目を背けるのは別に悪いことじゃないけどそれを続けると前に進めなくなる。だから、蒼もいつかは向かわないといけないんだろうけどそれをしたときに蒼がどうなるかはわからない。一人で乗り越えるかもしれないし無理かもしれない。無理だったら月ちゃんが支えてあげてね。」


 美波さんはウインクをしながら私に微笑みかけてくれた。

 今は美波さんが大変な状況なのにそれでも私や蒼君のことを考えてるんだから本当に彼女は強くて優しい人なんだろうなぁ。


「はい。もしそんなことがあったら私が支えて見せます。でも、その前に今は私たちが美波さんを支えるときです。もし蒼君のいいにくいこととかあったら私に行ってね!力になるから。」


「うん。そうさせてもらおうかな。さっそく一ついい?」


「もちろん。」


 それから私は蒼君が病室に戻ってくるまで美波さんといろんなことを話しました。

 世間話や美波さんの恋人の話。

 私と蒼君の関係がどう進展したかなどいろいろなことを聞かれました。

 特に美波さんの恋人の話をしているときはとても楽しそうで、でもそのあとにすごく悲しそうな顔をしていました。


「ただいま~」


 気の抜けた声で蒼君が戻ってきたのは20分くらい時間が経ってからでした。


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