第30話落ち着いたか?
「…落ち着いたか?」
「は、はい」
「じゃあ…少し離れてくれるか?」
「えっ…………嫌ですけど?」
「嫌ですじゃあないんだけどな? とにかく…病室の外に居る父さん達を呼ばないといけないからさ」
病室のドアの入口にガラスが付いてるんだけど、先程からチラチラとそこから病室の中の様子を窺っている父さん達と思わしき人達の姿が見えるんだよな…。一人は必ず姉さんだと断言出来る。
「あわわわっ…」
俺がそう言うと美優が慌てて距離をとる。
「―気付いてたのか?」
父さんの声がするとともに病室のドアが開き、父さん達が入って来た。そして真っ先に父さんが口を開いた。
「事情は美優ちゃんに聞いてる。心配したんだぞ。聖夜が刺されたと聞いた時には…」
「ごめんなさい、父さん」
「まあ、同じ男として言えるのは…よくやったな、聖夜…。お前が居なかったら美優ちゃんはどうなっていたことか…」
「俺もそう思うよ…助けられて本当に良かったって…ただもう少し早ければと思ってしまうけどね」
近くに居る美優を頭を少しだけ乱暴に撫でる…
「先輩は…もう…髪グチャグチャになるじゃないですか…」
続いては母さんだ…
「…また、あんたはなんでそう無自覚に…」
えっ? 一言目から何か訳が分からない事言われてるんだがっ!?
「はぁ〜 結伊ちゃんを傷物にして自分が本当に傷物になってどうするのよ?」
「目茶苦茶な言われようなんだがっ!?」
「あんた…どこのハーレム王を目指しているのよ」
「目指してねぇーよっ!!!」
―ったく、母さんは…そう思っていると突然優しく抱き締められて…
「そこまで…大した事なくて…本当に良かったわ、聖夜…。本当に本当に心配したのよ…」
「ごめん、母さん」
母さんの番が終わると姉さんが傍にやって来て抱き締められる…。
「馬鹿…馬鹿聖夜…心配したんだからね?」
「ごめん、姉さん」
姉さんが泣いている…
「聖夜は一人しか居ないんだから…無茶な事…しないでよぉ…」
好きな人にそんな事言われたら…肯定しか出来ないってぇの…
「うん、無茶はしないから…」
姉さんの温もりを感じながらそう思った。推しを泣かせる訳にはいかないしな…。
そして…美優の両親も当然来ていてお礼を散々言われた…。
その後、結伊と結伊の両親…そして歩美に輝昭迄心配して来てくれていた…。多くの人に心配を掛けてしまって申し訳ない事をしてしまったな…。まあ、これだけの人に心配してもらえるって…本当に幸せなんだなと不謹慎ながらも思ってしまう…。
そして…家族以外のみんなが病室を後にした後、
「それじゃあ…俺と母さんは家に帰るな」
「ちゃんと…安静にしておくのよ?」
「うん、ありがとうね?」
「まあ、春が傍に居るから心配はいらんだろうがな」
んっ?春が居るから?
「聖夜の事頼むわね、春?」
「んっ?姉さんは一緒に帰らないの?」
「あんたの世話とあんたを一人にする訳にはいかないでしょっ?まあ、私達もあんたが心配だし、春が居てくれたら連絡も取りやすいしね」
「任せてっ!聖夜の面倒は私が見てあげるんだからっ!」
「じゃあ、頼んどくな、春」
どうやら俺の推しが付き添ってくれるみたいだ…。入院も悪くないかも知れないと思ってしまうな…どんだけ、俺は姉さんが好きなんだろうなって話だ…。
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