第22話映画館へ

「あ、あのね、聖夜」


「えっ…ああ…何、姉さん?」


「流石にね、私も弟とはいえ聖夜にずっと見られてると照れるというかね…」


「っ!? ごめんごめん」


 どうやらあんな夢を見たからか姉さんの事ばかり目で追っていたようだ…。ちょっと反省しないとな。


「もしかして何か付いてる?」


「うん、目や鼻が付いてるけど?」


「聖夜?」


「本当に何でもないんだ…姉さんは…俺の姉さんなんだなと思っただけ…」


「何よそれっ…」


「そうだ…たまには一緒に映画でも観に行かね?」


「ん〜 そうだね!たまにはいいかもね。そうと決まれば準備して早速向かおうか」


「うん」


 そういえば姉さんとこうやって2人で出掛けるのは久しぶりだよな。啓祐達と遊園地に行った時以来だな…。姉弟というのが悲しくなるけど今日位は楽しんでもいいよな?そんな事を思いながら俺も慌てて準備に取り掛かる。




***


「お待たせ、聖夜!」


 薄っすら化粧を施し、黒い長袖のシャツワンピースにミニスカート。セミロングの髪は髪留めでお洒落に纏め、耳には俺があげたイヤリングを着けてくれている。


 いつもよりも大人っぽく綺麗な姉さんの姿…。一言いいか?


「―こんなの可愛い過ぎるだろ」


「ふえっ!?」


 何やら顔をほんのり赤く染めてモジモジする姉さん…。そんな仕草が堪らなく俺の心に突き刺さる。

んっ?俺 何か余計な事を言ったっけ? 


「も、もう、さっさっと行くよ!ほらっ!」


 姉さんに手を引かれながら映画館へと向かう。道中…繋いだ手の温もりが何とも言えない温かさを与えてくれる…。そんな事を思っていると、


「聖夜は鈍感だから…」


「えっ!?急にディスられてる!?」


気付いていれば休日にお姉ちゃんと出掛けるなんて寂しい一日を過ごさないでいいのにね?」


 あの子達?何の事か全く分からないんだがっ!?


「しょうがない!こうなったら今日は私が彼女になってあげるとするか〜」


「…えっ?」


 繋いでいた手が離れ…腕にふにょんと柔らかい感触が…


「これなら彼女に見えるよね?」


 腕に抱きつかれ上目遣いでこちらを見る姉さん。あれっ?もしかして今日で俺って死ぬ?


「ちょっ、ちょっと!?黙られると恥ずかしいんだけど?な、何とか言ってよね、聖夜?」


「あっ…ああ…ありがとう」


「素直にお礼を言われるとは思わなかったんだけどっ!?」


「いや…本当に嬉しいよ」


「…聖夜って…シスコンだったの?」


「いや、シスコンじゃあ…まあ、何でもいいや」

 

「何でもよくはないけどね?」


 

 そんなやり取りがありつつ映画館へと辿り着いたんだけど…。


「空いてるお席はカップルシートのみになりますがいかがされます?」


「カップルシートしか空いてないって…どうする?」


「別に良いんじゃない?」


「本日は恋人デーとなっておりましてカップルシートを選ばれたお客様は恋人らしい事をこの場でして頂ければ半額になりますけどどうされます?」


 いやいや…それはどうするも何も…


「聖夜、ちょっと屈んでくれる?」


「あっ、うん、こう?」


 ちゅっ…


「はい!オッケーです!それでは―」


 係員の人が何か言ってるけど俺は聞き取れなかった。今…間違いなく…頬にキス…されたよな?


「ほらほらっ!始まっちゃうよ!」


 

 映画の内容は正直全く覚えていない…。ただカップルシートに座りお互いの距離の近さに俺の心臓は早鐘を刻んでいた事だけは覚えているのだった…。


 

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