第10話 第4のルート その2

聖ウィリアム王国物語において、聖女というのは絶対的な存在だ。

例えば聖女の声は拡声器など使わなくても万人に届けられて心を動かし、魔法も効かない魔物を打ち倒し、心を通わせた者のありとあらゆる病気や怪我を治療し、愛する者の死を打ち消すことすらできる。


ただその能力は本人の資質だけで補いきれるものではなく、聖なるアイテムが一定数以上集まらないと覚醒イベントが発生しない。

結果、アイテムの収拾が間に合わないとバッドエンドに直行したりもするのだが、アイテム収集自体は必須イベントの中に付随してくるのでそこまで難易度が高いわけではなかったりする。

そして最初の聖なるアイテムが手に入るのは、今まさに進行中のイベントの後半だ。


「さて、これでチェックポイントも四つ目か。ここらへんで昼食にしないか?」

「はいっ!アルフ!お昼の用意して!!」

「かしこまりました。従者の皆さんも手伝っていただけますか?」


背負ってきた背嚢を地面に下ろして中身を取り出している間に、ハインズ御付きのビアンカを始めとした従者3人が下草を踏み均し、簡素だが清潔そうな布を敷く。

今日従者を連れて来ているのはハインズ、フォウリッヒ、バラックとスカーレットの四人で、シスターであるクルトと平民であるエルザは当然だが従者といった存在は引き連れていない。


「アルフさん、私も手伝います」

「え? いえいえ、エルザ様もごゆっくりなさってください。我々だけで準備しますから」

「そういうわけには! 今日のお昼をごちそうになるって言うだけでも申し訳ないのに………」

「僕たちは小川の方に行って水を汲んでくるよ。アルフ君達は準備を頼む」

「あ………ちょ………」


建前上、学園に籍を置く生徒たちは身分の差に関係なく同列として扱われる。

成績さえよければ一国の王子と同じ教室で学ぶこともできるし、こうして食事を共にすることだって可能だ。

結果として主人のご学友に対しては、従者たちは全て下。

いくら平民であろうが何だろうが、自分の主人と同列にある者に対しておろそかにするような態度をとるわけにはいかない。

まぁあくまで建前は………ではあるが。


「これ、全部アルフさんが作られたんですか?」

「はい。お口に合うと良いのですが。食べられないものはありますか?」

「い、いえ、好き嫌いは何も……ただ、あまり高級な料理や食材はなじみがなくて………」


………高級と言ってもな。

用意してきたのはサンドイッチやら、後は温めるだけの簡易的なスープやら………。

食材の違いはあるだろうけど、平民階級でも一般的に食べられているような類の物しかない。

………ただエルザの家は貧しいからな。

スカーレット達にとっては簡素な食事であっても、エルザにとってはご馳走なのかもしれない


「お、おいしそうです……良いんでしょうか、こんなに素敵な食事を頂いてしまって………」


この子………学園に来てからちゃんと食べられてんのかな?もともとかなり細いから分かりづらいけど、学食もタダってわけじゃない。これ以上痩せ細ってしまったら普通に危険な気がする。


「良いんですよ。エルザ様は何も気にせず召し上がって下さい。その方が作った身としては嬉しいですから」

「そ、そうですか………?」

「そうですよ。………というか、エルザ様はもう少し食べる量を増やしたほうが良いと思います。」

「〜〜〜っ!!や、やっぱり私ってガリガリでおかしいですかっ!?」

「おかしいというか………ちゃんと食べているのかと不安にはなります………」

「う………」

「食べてますか?」

「あ、あんまり………満足には………」


やっぱりか………。

そういやゲームの中でもそんな描写あったな。

確かこの時期は………豆のスープとか、硬いパンだけとか………そんな栄養もクソもないような食事ばっかり取ってた気がする。

しかも虐められて食事を台無しにされ、それが積もり積もって倒れんだよな。

倒れたときに助けてくれるのは、一番好感度が高い王子だったっけ。

………。

じゃあ、そのフラグも潰しておくべきだよな。


「スカーレット様は結構好き嫌いが多くて大変なんですよ」

「え?あ、はい………そうなんですか?」

「だから学食なんかも一切利用されませんし、食事は全て私が作っているんです」

「い、いいなぁ………アルフさんが毎食手料理を………」

「………? はい。ですが、2人分を作るとなるとなかなか量の調節が難しくてですね。結構作りすぎてしまうことが多いんです。スカーレット様は平気で食べ残すし、無駄にしてしまうことが何度もあって」

「………もったいないですね」

「でしょう? ですから、次からはエルザ様にもお裾分けさせていただけませんか?」

「え?」


この子は、俺とスカーレットの敵だ。

この子が王子たちと結ばれてしまえば、紆余曲折を経て命の危険にさらされる。

だからこの子のことを応援するわけには行かないのだけど………。


「で、でも悪いです!食材も高いのに!」

「その高い食材をゴミ箱に捨てなきゃいけないのって結構辛いんですよ」

「え、えっと………でも………」

「ただで貰う事に気が引けるのであれば………そうですね………食器や調理器具を洗うのを引き受けてくださいませんか?そうしたら私はお嬢様のお世話に時間が割けますし、みんな幸せです」


かといって、この子自身に恨みがあるわけじゃない。

本来ならこの子は王子の誰かに見初められ、食事だって贅沢なものが食べられるようになる。

その目を潰しているのは間違いなく俺であって、だからこそ引け目を感じ、責任を取らなくちゃいけないような気分にもなるんだ。


「お、お言葉に甘えてしまって………良いんでしょうか………?」

「当然です。こちらも助かると言っているんですから何も遠慮する必要なんてありません」

「〜〜〜〜っ………」

「むしろ今断られたら私はショックです。こちらにとっては利益しか無い提案ですからね。美味しい話を逃したとなれば、お嬢様の執事としては失態ですので」

「………」

「どうですか?」


そう言って微笑んで見せると、エルザは真っ赤になってうつむいてしまった。

まぁ、年頃の女の子が餌につられて行動するのははずかしいよな。

プライドだってあるだろうし、はいと即答するのは憚られて当然だろう。

ただ、説明するわけにはいかないけれど、これは俺にとっては贖罪に近い行動だからできれば受け入れてほしい。

………断られたらどうしようか。

夜な夜な部屋の前に飯の入った包でもおいてくようにするか?

紫のバラでも一本添えて。


「ほ、本当に良いんですか………?」

「良いも何も、こちらはお願いしているんですよ?」

「〜〜〜っ………」

「ぜひお願いします」

「………じゃ、じゃぁ」

「………」

「お願いします………」


消え入りそうな声で頭を下げたエルザは、何だかすごく気の毒に思える。

いくら生きるため………というか元気に学園生活を送るためとは言え、出会って間もない輩に養われるような状況は屈辱だろう。

でもまぁ………仕方ないんだ。許してくれ。

王子たちとのフラグは無いに限る。

その代わりと言っては何だけど、うまい飯食わせてやるからな………。


「それは良かった。もうすぐスープが温まりますからね。お嬢様たちは小川の方へ手を洗いに行きましたから、他の従者たちも呼びに行ったみたいですし、エルザ様も」

「………」

「………エルザ様?」

「あ、あの………」

「はい?」


クイッと引っ張られた腕の裾に目をやってからもう一度エルザを見ると、彼女は頬を赤らめたまま上目づかいにこちらの事を見つめて来ていた。

その破壊力の凄まじさと言ったらない。

馬鹿みたいに長いまつ毛は大きな目をさらに大きく見せ、艶めいた唇は綺麗な桃色でやや幼い顔立ちを強調している。


「アルフさんは………どうしていつもそんなに優しくして下さるんですか………?」

「ど、どうされました?」

「わ、私………家族以外の誰かにこんなに優しくいただいたの、初めてなんです………」

「エルザ様………?」


服の裾を掴むのとは反対側の手は、控えめな胸の前でぎゅっと握られている。


「この学園に来る前もいじめられちゃうんじゃないかって怖くて………実際にいじめられるような事ばっかりしてるのに、でも………アルフさんが守ってくださったから今ではスカーレット様とも親しくさせていただいていて………なんだか、夢みたいで………」

「………。」


ゲーム内でのいじめは、主にスカーレットの取り巻き達によるものだった。

公衆の面前で罵倒され、持ち物や部屋を荒らされ、水を浴びせられ。

ゲームの序盤を抜けるとルートに入った王子がエルザを守ることになるのでいじめも収束していくが、逆に言えば序盤は孤立無援。

そして俺がエルザのフラグを消し続けている関係で、今後も彼女は一切の支援を受けられない可能性が高い。

………そう考えると不憫だよな。

最悪、ハインズ以外ならくっついて貰っても何とか挽回できるのではないだろうか、なんて思ってしまうくらいには不憫だ。


「全部………入学式の朝にアルフさんが私の所に来てくれたから………」

「エ、エルザ様………?」


ジリッ……と身を寄せてくるエルザからは、甘い香りが強く漂ってくる。

不快感を一切感じさせないその香りは聖女特有の物なのだろうか。

人を………というか、男を誘惑する先天的な体質。

庇護欲を掻き立てられるような仕草や香りは、逆に言えば女性にとっては敵認定を受けやすいものだろう。

この子が近くにいる限り、自分が狙う男を奪われる可能性が高まるのだから。


「アルフさん………その、もしよければ………」

「は、はい………?」

「エルザって……呼び捨てで呼んでいただけませんか………?」

「は!?………いや、それは………エルザ様はスカーレット様のご学友ですので――――」

「でも私はただの平民の女です。アルフさんに様付けをしてもらうような人間じゃありません。ずっとアルフさんから様付けにされるのに違和感があって………」

「しかし………それにしたって呼び捨てというのは………」


そんなこと出来るわけがない。

敬称というのは思いのほか重要だって言うことは、前世の職場関係でも嫌という程学んできている。

敬称にまつわる悪評は直接的に目に見えるものじゃなく、目の届かない裏側での悪評につながるもんだ。

ましてや執事の俺の行動は、そのままスカーレットの悪評に直結する。

いくら平民階級のエルザとはいえ、執事が主人の学友を呼び捨てにしていたらまずいだろう。

それを見た人たちに何を思われるか分かったもんじゃない。


「じゃぁせめて………エルザ……さん……とかは?」

「………」

「………駄目ですか?」


この子、最初からこの落としどころを狙ってたんじゃあるまいな?

一切邪気が無さそうに頬を赤らめて上目遣いをしているし、天然なら尚更性質が悪いかも。


「じゃ、じゃぁ………それくらいであれば………」

「ほんとっ!♡ う、嬉しいですっ!」

「は、はは………」

「今呼んでみてくれませんかっ!」

「はぁ!?」

「早く早くっ!」

「ぐっ………!」


これは恥ずかしい。

意味もなく相手の名前を呼ぶという行為が、これほどの羞恥心を与えてくるとは思ってもみなかった。

エルザはエルザで目をキラキラさせながらほとんど抱き着くような密着度だし、さすがは乙女げーのヒロインというかなんというか、男を堕とす行為に躊躇がない。


「エ………」

「………。」


そのワクワクした顔を止めてくれ。


「エルザ…さん………」

「は、はい………♡」


ぐぅっ………!


危険だ!!!

早く離れないと危険ッ!!

エルザを堕とすならともかく、俺が堕とされることなど有ってはならない!

ましてやこんなところを誰かに見られようものなら大失態にな―――――




「はぁ?」




背後から聞こえてきたのは、今までのアルフ・ルーベルトの人生において最も殺意を帯びた「はぁ?」だった。


「っ………!?」

「す、スカーレット様!?」


恐る恐る振り返ると、金色の髪が誇張なくブワリと広がって宙に浮いているスカーレットの姿。

マナの漏洩反応だ。

なんなら体の周りにパチパチと火の粉が散っているのまで見える。

余程お怒りになっているらしい。

流石は天性の魔炎術師………なんて感心してる場合じゃない。


「エルザ……さん?」

「あ…いや、お嬢様……これはその………」

「わ、私がお願いしたんです!!アルフさんに様付けを止めて欲しくてッ!」

「へぇ?」


普段は聞いて欲しい話でも右から左に通り抜けていくくせに、聞いてほしくないセリフだけはバッチリ聞こえるのは何なんだろうな。

ガバッ!!と距離を離したエルザを見て、スカーレットはさらに顔を般若の様に歪めて見せた。


まずい。


何がまずいって、スカーレットは自分の持ち物に対しての執着が強い。

執事である俺も彼女にとっては持ち物の範疇で、今までの経験則的にも、彼女は俺が他の女性に言い寄られたり、過度な接触をされるのを良しとしない。

例外はマーガレットくらいだろう。

自分から与える事は厭わない反面、奪われることを極端に嫌がるのだ。


「従者たちが来たわりにアルフもエルザも来ないから、なんか嫌な予感がしてたのよね」

「あの……お嬢様……?別にやましいことは何も……」

「うるさい」


ズンッ………と一歩を踏み出したスカーレットの迫力と言ったらない。

目の前でエルザが「ひっ……!」と息をのんだのを聞いて、反射的に二人の間に身を割り込ませてしまう程の殺気。

………殺すつもりじゃないよなさすがに。


「………なにしてんのあんた。何エルザの事守ってんの?そこどきなさいよ。あんたの主人は私よ?守る相手が違うんじゃない?」

「えっとですね………これには深いわけがございまして………」

「事情?ふん?良いわよ。あんたに聞いても適当な嘘で誤魔化すでしょうから、事情があるって言うならエルザに聞くわ」

「いや……その状態のお嬢様とエルザさんがまともに話せるとは………」

「ふぅん………?エルザさん………ねぇ? 良いわね。仲がよさそうで。あんたが誰かの呼び方を様付けからさんづけに変えるのなんて聞いたこと無いんだけど?」


スカーレットの周りにはいよいよ火球と言っても過言ではないような火の手が上がり、いよいよもって身の危険を感じるレベルになったその時、スカーレットの後方から姿を現したのはハインズだった。

そのさらに後方には他の王子達や、従者の姿も見える。


「スカーレット?どうしたんだ?」

「………ちっ」


おい。

今こいつ、ハインズに舌打ちしなかったか?


「アルフ君にエルザさんも………何かあったのかい?」

「あぁいえ………別に大したことでは」

「………」


ハインズが俯くスカーレットの側に寄って来ても、スカーレットは顔すら上げない。

まじでやめろ。

落ち着いてくれ。


「大丈夫かい?スカーレット」

「………大丈夫です。なんでもありません」


もっとちゃんとハインズの相手をしてくれ。

そんなつっけんどんな態度じゃ心証を悪くするだろ。

どうしたってんだよ。

今まで頑張ってきたのは全部ハインズの為だろ?


「………」

「………」


ハインズも珍しく戸惑った表情を浮かべているし、スカーレットは一向に顔を上げようとしない。

マナの漏洩反応は落ち着いてきたみたいだけど、これじゃ良くない。

まさかスカーレットがエルザに対してこれほどの反応を見せるなんて思いもしなかった。

別に………ただ近寄っていただけだろ?

抱き合ってたわけでもなんでもねぇぞ。


「あ~、お腹すいちゃいました。アルフさん、お食事の用意は終わりました?」

「え……?あぁ、はい」


そんな気まずい空気の中、不自然なほど呑気な声を上げて雰囲気を変えに掛かったのは、


「じゃぁ頂いちゃいましょう? ね?皆さん?」

「お、おぉ……そうだな」

「う、うん………」

「スカーレット様もハインズ様も、ね?」


聖クウェル教会のシスターであるクルト・パルフェブル。

先ほどと同じようにニコリとこちらに微笑んでくるそのあどけない表情に咄嗟に反応できないでいる間に、彼女はさっさと敷布の上に上品に座ってしまった。

無理矢理にでも場の空気を換えようとしている行為だとは分かったけど、正直助かったとしか言いようがない。

でもこいつに借りを作るのも癪というか………今まで何とか遠ざけてきた存在だっただけに………あぁもう……どうすりゃいいんだよ本当に。


「アルフさん。スープも作ってくれたんですか? すごくいい香り! 何のスープなんですか?」

「あぁ………えっと………野菜と鶏肉を煮込んだもので………」

「美味しそう! 流石に準備が良いですね! ほら、皆さんも座ってください。 せっかくのご馳走なんですから、早く食べないと冷めてしまいますよ。」

「そうだな。そうしようぜ。ハインズもスカーレットもこっち来いよ」

「エルザさんもみんなと一緒に食べよ?アルフさん、とりわけをお願いしても良い?」

「は、はい!」

「かしこまりました」


バラックもフォウも………皆気を使ってくれちゃってるじゃねぇかよ、情けねぇ。


「あ、アルフさん、私手伝いますっ!」

「いやいやっ!エルザさんは皆さまとご一緒に待っていただいて………」


そんなの駄目です。と言ってまた身を寄せてくるエルザのなんと甲斐甲斐しいことか。

そして、そのエルザを音もなく睨みつけているスカーレットのなんと恐ろしいことか。

頼むからエルザはこれ以上余計なことしないでくれ。

………大丈夫だよなこれ。

さすがにこの後の大勢に影響があったりしないよな?

別にエルザはハインズに言い寄っているわけじゃない。

むしろ今、ハインズは様子がおかしいスカーレットの事を気遣ってくれているし、逆に二人の距離が縮まったと思えば良かったとも―――――


「アルフ、あんた」

「は、はいはい。なんでしょう?」

「こ………こっち来て私に………」

「………?」

「………っ」

「どうしました?」

「なんでもないわよ馬鹿ッ!!!!!」


ただ、俺は結局わが身可愛さ故に、ふてくされるスカーレットの横へと腰を下ろし、


「お嬢様、はい。食べやすく切り分けましたので」

「………ふん」

「お嬢様、お口の端に汚れが………」

「なっ………」

「はい、拭きますよ。こちらにお顔向けて下さい」

「~~~~~っ………」

「お嬢様、スープは一人で飲まれますか?」

「ちょっ………ば、馬鹿っ………!!」


「一人で………?」

「スカーレット様、いつもはアルフさんに食べさせてもらっているんですか?」

「………い、いいな」


「~~~~~~っ………!!!」


機嫌が悪くなった時にいつもやるひたすら甘やかす行動に出た結果、


「も、もう一人で食べるからあんたあっち行きなさいッ!!!」


何だかんだでいつも通りの反応を見せるようになったスカーレットを見て、ほっと胸を撫でおろしたのだった。







◇ ◇ ◇







このイベントの終盤は、中盤に発生する選択肢によって若干の分岐を見せる。

エルザが洞窟で魔物に襲われた時、助けに来る王子が変わるというものだ。


「ねぇエルザさん。さっきは大変だったわね」

「え?あ………えっと………」


ただそもそも、なんでエルザが洞窟に行こうとしたかというと、それはここまでお世話になっているハインズにお返しをしようと思ってのこと。


「スカーレット様、大分お怒りだったみたい。アルフさんってただの執事よね?あそこまで怒ること無いと思ったのだけど………」

「い、いえ………スカーレット様はアルフさんの事を大切に思っていらっしゃるでしょうし………私が不用意に近づいたから………」

「………色目を使ったって思われたと?」

「〜〜〜〜っ………!? そ、そんな………色目だなんて………わ、私なんかなんの魅力も………」


ゲーム中で適当に見つけた洞窟でエルザを怖がらせてやろうと思いついたのは、ゲーム中のスカーレット。

洞窟の奥にウィリアム王の遺産が残されている、なんて子供でも騙されないような嘘をついて、エルザはものの見事に騙される。

それを見つければ、ハインズ様のお役に立てる!とか思ったに違いない。

まぁ実際には聖女に覚醒するための聖遺物があるんだけど、当のスカーレットもそんな事夢にも思っていなかった。

学園にほど近いところにある洞窟に隠し通路があり、その奥に魔物がいるなんてこと考えもしなくて当然だ。


そんな危険があるとは知らずに行った行為ではあるものの、最終的にその行いがハインズにバレていっきにスカーレットの評判を落とすことになるこのイベント。

ここまでの展開の中で既に険悪になっていた二人だからこそ、発生するイベントだ。


「………でも、アルフさんすごくドキドキしたんじゃないかしら?」

「………っ!?」

「だってこんなに可愛いエルザさんに急接近されて………しかも様付けはやだって言い寄られちゃったんでしょ?」

「い、言い寄ったわけじゃ………!」

「あら、でも今の関係じゃ嫌です!もっと親密になりたいです!って意思表示じゃないの?」

「そ、それは………」

「結構あからさまな好意を示してると思うけど………自覚なかったのかしら?アルフさん、照れてなかった?」

「〜〜〜〜っ………」

「詳しく教えてよ………良いでしょ?♡」


その点、今のスカーレットにはエルザに対して、意地悪してやろうという思いが発生するだけの理由がない。

さっきはちょっと焦ったが、今はスカーレットも復活している。

せっかくハインズと一緒にいるのに俺を引き摺っているのはいただけないが、変に癇癪を起こしてエルザを罠にはめるような真似をしないだけマシと思わないと………。


「ふぅん………二度も助けてくれて、いつも気にかけてくれて、しかも今度は養ってくれる………と」

「〜〜〜うぅ………」

「王子様みたいね? しかも、貴女だけの王子様」

「〜〜〜〜っ!!」

「エルザさんって………結構幸せ者? あんなにかっこいい人が貴女だけに異様に優しくない?」

「そ、そんな………こと………ないと、思います………」

「嘘つき」

「〜〜〜〜っ………」

「惚れちゃった?」

「そ、それは………その………」

「あはっ♡ 顔真っ赤よ? 嘘がつけないのね、あなた。」


聖女のアイテムは洞窟の場所を確認したら後で回収しよう。

正直な話スカーレットにも聖女たる資質はあると思うが、あんな重責がある立場にスカーレットを関わらせたくない。

この後どのルートの混乱が起きるかは不確定だが、アイテムさえ集めれば俺が聖女の代替品になれる可能性は十分にある。

別に聖女が女でなきゃいけないなんて設定、一切ゲーム中に登場してなかったしな。

聖男ってなんか気持ち悪いけど、この際選り好みしている場合じゃねえだろ。


「それで、エルザさんはアルフさんになにかお返しがしたいんだ?」

「は、はい………でも私ができることなんて限られてるし………なにか良いアイディアはありませんか………?」

「う~ん………そうねぇ………」

「あるんですか………?」

「えぇ、そうね。」

「それはどんなっ!?」

「慌てないで。でも、これは私が教えたって言うことは秘密にしておいてほしいの。」

「ど、どうして………?」

「………そうね。不思議かもしれないけど………これはね、みだりに人に教えてはいけない秘密なの」

「そんな秘密を………私なんかに教えて良いんですか?」

「うん。秘密を守ってくれるならね。だってエルザさんのこと、応援したくなっちゃったんだもの」


どうだよスカーレット。

今回も俺は見事にフラグをへし折ってやったぞ?

だからスカーレットは心置きなくハインズとイチャイチャしろ。

俺は洞窟の場所を確認しに行きたいから、いい加減解放してくれ。


「この近くに………聖遺物が残されているっていう噂の洞窟があるの………」


今日のところは、もう何も心配しなくていいからさ。




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