第098話 到着


『ユウマー? AIちゃーん? 起きてるー?』


 外からナタリアの声が聞こえてくる。


「起きてるー……」

「起きてまーす……」


 俺とAIちゃんが答えた。


『寝てんじゃん……起きてー。ご飯食べたら出発するよー。馬車の中で寝ていいから』

「わかったー……寒い。AIちゃん、尻尾出せ…………」

「朝は寒いですねー…………」


 眠い……


『ダメだこりゃ』

『どう?』


 アニーの声だ。


『2人共、起きる気ない』

『面倒だから叩き起こして』

『ハァ……入るよー』


 ナタリアがそう言うと、冷気がテント内に入ってくる。


「寒っ……」

「マスター、あったかーい」


 同じ布団にいるAIちゃんが抱きついてくる。


 お前は早く尻尾を出せよ。


「2人共ー、起きてー」


 ナタリアが身体を揺らしてきた。


「まだ夜じゃん」


 外はまだ暗い。


「早めに出るって言ったじゃん。今日の夕方には着きたいんだよ。今日もテントは嫌でしょ」


 そういうことか……


「起きるか」

「そうですね」


 俺達が上半身を起こすと、結構な寒気を感じた。


「寒っ」

「もうすぐ冬だからね。昼間は暖かいけど、朝晩は寒いよ」

「寮に住んでいる時は感じなかったんだがなー」

「寮は冷暖房用の魔石が設置されているからね」


 だからか……

 もう秋なんだなー……

 こんな布のテントと布団じゃ寒いわけだ。


「魔石って便利だな」

「本当は野営用の暖かくする魔石もあるんだけど、まだいいかなって思って買わなかった。ごめんね」

「いや、いい。着替えるわ」


 そう言うと、ナタリアがテントから出ていったので着替え始める。

着替えを終えると、テントの外に出た。

 外はうっすらとだが明るくなり始めており、近くの焚火の前には4人が焚火を囲むように集まって朝ご飯を食べていたので4人のもとに向かう。


「おはよう、ねぼすけさん」

「…………おはー」

「おはよう!」


 ナタリアが以外の3人が挨拶をしてくる。

 なお、3人中2人は寝ぐせがある。


「おはよう……お前、寒くないのか?」


 もちろん、肌色面積の大きいアニーに聞く。


「焚火が暖かいわ」


 そう……もう何も言うまい。


「はい、2人共、朝ご飯」


 ナタリアが俺とAIちゃんに朝ご飯を渡してくれたので食べだす。

 そして、朝食を食べ終わると、片付けをし、馬車に乗り込んだ。


 俺達が馬車に乗り込み、昨日と同じ並びで座ると、すぐに動き出す。


「多分、夕方には着くと思うから休んでていいよ」


 ナタリアがそう言ってくれるが、さすがに朝ご飯を食べると、完全に目が覚めていた。


「大丈夫だよ。初めて野営をしたが、まあ、悪くなかったな」

「そう? 帰りもあるよ?」


 あー……野営用の暖かくする魔石とやらを王都で買うか。


 俺達は馬車の中で特にやることもないので雑談をしながら時間をつぶしていく。

 そうやっていると、昼をまたぎ、さらに進んでいった。

 すると、チラホラと他の馬車や歩いている人達を見かけるようになる。


「もうすぐね。思ったより早かったわ」


 アニーが窓から外を見ながらつぶやいた。


「マスター、ついに王都ですねー。面倒ごともあるかもしれませんが、お米を買えます」


 それがあったな。

 ちょっと楽しみ。


「面倒ごとねー……魔族はもう勘弁よ」

「王都は強い奴がいっぱいいるだろ。そいつらに任せればいい」

「まあ、王都の兵士は強いし、冒険者だって強い人も多いわね」


 さすがは王都。


「王都に着いたらどうするの?」


 ナタリアが聞いてくる。


「まずはギルドだな。区長とパメラから預かった手紙を渡す。それで宿泊施設に案内してもらおう」

「宿泊施設……区長が用意してくれたの?」

「そう。区長の名前で借りるんだと。料金は区長持ちだから無料だぞ」


 どれだけ時間がかかるかわからない状況だし、ありがたがい。


「それ、高いところじゃない?」

「まあ、この馬車も高そうだし、そうなんじゃないか?」

「いいのかなー……」

「ケチったらそれこそ恥だぞ。俺は同じクランの仲間とはいえ、女連れだ。それで安宿なんか取ったら失礼にもほどがある。笑い者になるぞ」


 こういう場合は絶対にケチってはいけない。

 まあ、この世界にそんな礼儀があるかは知らんが。


「貴族様かー……ユウマがそういう待遇なのはわかるけど、私達はついてきただけなのに」

「向こうはそうは思わん」


 招待した男が女を連れてきたら誰だってそう思う。


「どう見てもマスターとマスターのあれですもんね」


 お前もあれの一員だと思われると思うぞ。


「断ったり否定しても向こうはまたまたーって感じだろうからな。どうせ豪遊できるなら豪遊しとけ」

「う、うん」


 ナタリアは遠慮がちな性格だからな。


「私は気にしない。もらえるものはもらう」

「…………良いもの食べたい」

「私もー!」


 まあ、こいつらはこんなものだろう。


 俺達がどんな宿屋かを予想しながら進んでいくと、ついに町を囲んでいるであろう防壁が見えてくる。

 その大きさはセリアの町よりも広く、外からでも王都の広さがわかる。


「マスター、王都は人が多いですし、狛ちゃんを出した方が良いと思います」

「それもそうだな」


 俺はAIちゃんに言われて、護符を取り出すと、狛ちゃんを出した。

 少し狭いが仕方がない。


「ほら、おいで」


 アニーがそう言うと、狛ちゃんがアニーの膝に飛び乗る。

 すると、狛ちゃんが大きすぎたため、アニーは腕と足しか見えなくなった。


「リリー、迷子になったら上を見上げろ。カラスちゃんがいるから」


 以前迷子になったというリリーを重点的に見張らせよう。


「え? いや……うん」


 リリーは否定しようとしたが、悩んで頷く。

 そうやって、王都に着いてからのことを話していると、馬車が止まった。

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