第038話 原因?
俺達が防壁の上で魔法を放っていると、徐々に日が沈み始め、夕方となった。
俺はアリスと共に休憩中であり、壁に寄りかかって休んでいる。
「ん? パメラ?」
魔法を放っているアニーがそう言って階段の方を見たので俺もそちらの方を見ると、確かにパメラが防壁に上がってきていた。
そのまま見ていると、パメラと目が合う。
すると、パメラがこちらにやってきた。
「どうした、パメラ? お前も援護か?」
近づいてきたパメラに声をかけると、パメラが俺の前でしゃがみ、顔を寄せてくる。
間近で見るパメラの顔は本当に美人だと思う。
「私にそんな力はありませんよ…………ユウマさん、少しよろしいでしょうか?」
パメラが声のトーンを落とした。
「なんだ?」
「夕方になりました。魔物の勢いを見るにこのまま夜になっても勢いは治まらないでしょう」
「まあ、そんな感じはするな」
そもそも暗いうちから攻めてきたし、夜だからといって、魔物が帰って寝るとは思えない。
「少しマズいことに王都からの援軍が遅れています。現在の予定では先行部隊が明朝、本隊が夕刻に着くことになっています」
遅すぎ。
「つまり今夜を今の人間だけで持ちこたえろと? 俺は戦争に詳しくないが、素人目に見てもきついぞ。冒険者も兵士も疲れ切っている。そんな中で夜を乗り越えられるとは思えない」
「私もジェフリーさんもそう判断しました。現在、町の権力者達は市街戦も視野に入れております」
市街戦……
「町を捨てるわけか?」
「はい。ここが落ちれば次は王都です。それを防ぐためにはこの町を戦地にし、時間を稼ぐことになります」
まあ、そうなるのかね?
「被害が大きいぞ。住民にも被害が出る」
「わかっています。これは最終手段ですが、もうそこまで来ているのです」
「ナタリアとアリスを逃がすか……」
王都まで逃がせれば大丈夫だろう。
「それも一つの手でしょうね」
パメラが頷き、肯定した。
「お前はどうする?」
話を聞いているであろうアニーを見上げる。
「私は残るわ。言ったでしょ。この町が私の帰る場所なの」
「だろうな」
さて、何人残るか……
門を抜けられた時点で冒険者も兵士も士気が下がる。
壊走しないといいが……
「ユウマさん、お願いがあります」
「何? お前も逃げるか? 逃がしてやるぞ」
「いえ、残念ながらギルド職員は避難誘導などといったやることがあるので逃げられません」
パメラがそう言いながら自嘲気味にうっすらと笑い、首を横に振った。
死ぬな……
どう考えても住民が避難する速さより魔物の方が速い。
「じゃあ、なんだ?」
「例の化け蜘蛛を出せませんか?」
あー、そっちか……
「逆に聞くが、出してもいいのか? 下手をするとパニックだぞ」
こんな状況で化け蜘蛛を出せば、兵も冒険者も士気が著しく下がる。
「もはやそれどころではありません」
「まあ、式神はたいした霊力を使わないから別にいいが……」
いくら大蜘蛛ちゃんでもあの大軍をどうにかできるかね?
「マスター、大蜘蛛ちゃんを出す前に森を見てきませんか?」
悩んでいると、AIちゃんが提案してきた。
「どういうことだ?」
「このスタンピードは異常です。私のデータの中にも過去のスタンピードの事例がありますが、明らかに数がおかしいです。どう考えてもこの町に来ている魔物の数は森にいる魔物の数より多いです。これは森で何らかの異常が起きているからだと思われます。ですので、カラスちゃんを使って調査をしてみることを提案します」
AIちゃんがそう言うと、上空からカラスちゃんが下りてきて、AIちゃんの肩にとまる。
「そうするか……パメラ、ちょっと待ってろ」
「わかりました」
パメラが頷いたのでカラスちゃんと視界をリンクし、森に行くように指示を出した。
すると、カラスちゃんが防壁から飛び立ち、魔物達の上空を飛んでいく。
「すごい数ですね……」
同じく視界をリンクしているAIちゃんがつぶやいた。
「そうだな」
カラスちゃんは速く、あっという間に森までやってくると、森の上空を旋回しだした。
「……森の中までですか」
「昨日とは大違いだな。1日でこんなに増えるとは思えん」
森の中はオークやゴブリンで溢れており、木々がしなり、森全体が揺れているようだった。
「ん? マスター、魔物ですが、同じところから来ていませんか?」
AIちゃんが言うように森の浅いところでは所狭しと魔物がおり、森全体が揺れているように見えるが、森の奥に向かうにつれて、木々が揺れているのがどんどんと細くなっていた。
「あっちに何かあるな……」
俺はカラスちゃんに指示を出し、森の奥に向かわせる。
すると、とある地点で木々の揺れがなくなっているのが見えた。
「あそこですね」
「ああ。ついでに言うと、とんでもない魔力を感じるぞ」
なんだこれ?
オークやゴブリンの比ではない。
それどころか俺が知る中で一番魔力が高いアニーよりも遥かに強い魔力を感じる。
これは……妖気で言えば、大妖怪レベルだ。
「すごいな――ッ!」
「――なっ!?」
突然、カラスちゃんとのリンクが切れてしまい、視界が元に戻った。
「どうしました!?」
「…………どしたの?」
「なーに?」
俺達が声を出し、AIちゃんに至っては目を押さえだしたのでパメラ、アリス、アニーが声をかけてくる。
「魔物の発生源を見つけたが、カラスちゃんが撃墜された」
リンクが強制的に切れたということはカラスちゃんが死んだんだ。
「カラスちゃんがー……」
AIちゃんが悲しい声を出した。
「え? 魔物の発生源ですか!?」
パメラが驚きながら聞いてくる。
「ああ。森の奥に何かあった。それと同時にとんでもない魔力を感じたな」
「何でしょうか?」
「さあな。カラスちゃんにもう一回見てきてもらってもいいが、結果は同じじゃないかな?」
そう言いながら護符を取り出し、カラスちゃんを出した。
「カー」
カラスちゃんはすぐにAIちゃんの肩に飛び乗る。
「…………あ、復活するんだ」
アリスがカラスちゃんを見ながら安堵した。
「式神だからな……もう一回行くか?」
「カー!」
嫌そうだ。
「さて、どうするか……」
腕を組みながら考えてみる。
何があるかはわからないが、原因はあそこだろうな……
行ってみるかね?
「マスター、危険では? 戦闘用の式神ではないとはいえ、上空のカラスちゃんを撃墜する相手ですよ?」
俺の思考を読んだAIちゃんが止めてきた。
「そうなんだが、このままでは町が滅ぶぞ。さらにパメラとアニーが死ぬ」
「それはそうでしょうけど……」
AIちゃんが言い淀む。
「私達、死ぬことが決定してる?」
「まあ、その確率が高いですし、覚悟もしていますが、はっきりと言われたくはないですね」
いや、確実に死ぬわ。
「お前らのその貧弱な身体ではゴブリンはともかく、オークに対抗できんわ。いくら魔法があっても四方を囲まれて終わり。火を見るより明らかだ」
「「………………」」
2人が黙った。
「御二人を助けるんですか? 私的にはマスターが一番ですけど」
「こいつらもだし、町の住人もだろ。どれだけの数が死ぬと思っている?」
「それはそうですけど……」
「力がある者の責務だ。それにこのままジリ貧で敗走するかは良いだろう」
人々を救うのが俺の仕事であり、使命なのだ。
「じゃあ、行きます?」
「そうだな、やはり原因を絶つのが一番だろう。お前はどうする?」
「もちろん行きます!」
まあ、そう言うと思った。
正直、足手まといっぽいが、賢いから連れていこう。
原因があそこだとしても何があるかわからないし。
「パメラ、そういうわけだから大蜘蛛ちゃんを出した後、森の奥に行ってみるわ」
「ほ、本当に行くんですか? 魔物がいっぱいいますし、危険ですよ?」
パメラが俺の袖を掴んできた。
「何? お前、死にたいの? オークに踏みつぶされるぞ」
「いや、それは絶対に嫌ですけど……」
「だったら行ってくる。俺がお前を助けてやろう」
感謝しろ。
「よっ! マスター、かっこいい! 恩着せがましいけど!」
一言多い人工知能だな……
良い仕事を回してもらわないといけないだろ。
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